詠唱魔法ナッツクラッシャー! 婚約破棄は最初から決まっていたそうですので、逆ハーレムを本気でやらせていただきますわ
今回は器具なしの魔道ナッツクラッカーです
「——よって、エリシア・フォン・ルヴァンは婚約不貞により、婚約を破棄する!」
王城の大広間に響く声。
エリシアは静かに目を瞬いた。
(あら……やっぱり今日でしたのね)
彼女の婚約破棄は、実はずっと前から“決まっていた”。
家同士の資金援助のために結ばれた契約。
しかも婚約者であるアルベルトには、既に愛人がいた。
「君は第二婦人の予定だったんだ。わかってくれるよね?」
そう言われた夜のことを、エリシアは忘れない。
けれど——
彼女が罪に問われた理由は、さらに下劣だった。
「複数の男と密会を重ねていた証拠がある!」
その“証拠”とは。
拒否できない形で呼び出され、複数の貴族子息を同時にあてがわれた夜。
部屋は施錠され、外には見張り。
「断れない立場でしょう? ルヴァン家は今、資金が必要なのだから」
そして翌日から広がった噂。
——ふしだら令嬢。
——男を誘う女。
——いずれ子を孕み、誰の子かも分からぬまま堕ちるだろう。
(ああ……なるほど)
彼らの狙いは明白だった。
強引に関係を持たせ、妊娠させ、
“責任の所在不明の子”を抱えたシングルマザーに落とす。
そして家を完全に潰す。エリシアは、ふっと笑った。
「でしたら」
場内がざわめく。
「逆ハーレムでもして差し上げましょうか?」
「……は?」
アルベルトが顔を歪める。
エリシアはゆっくりと立ち上がった。
その背後に、淡い光と、黒い影が同時に揺らぐ。
「わたくし——聖属性と闇属性、両方を持っておりますの」
ざわり、と空気が震える。
聖と闇。
本来なら相反する二つの力。
王家でも数百年現れていない異端の資質。
「あなた方、わたくしを“貸し出し”なさいましたわよね?」
嫌がらせで、自分の恋人をあてがった令嬢。
噂を広めた貴族子息。
金で契約しただけの婚約者。
全員の足元に、黒い魔法陣が浮かぶ。
禁呪•ナッツクラッカーの紋章ーー
「ちょ、待て、何を——」
「安心なさって。命までは取りませんわ。ただしタマは取らせていただきます」
にっこりと微笑む。
エリシアの手に闇が絡みつく。
「汝の暴虐の根源を祓い購たまえ……黒魔道ナッツクラッカー!」
骨の芯まで凍るような圧迫感が加害者たちの下半身を締め付ける。
「うっウグゥっっ!」
「わたくしを地獄に落とすおつもりでしたのよね?」
黒い力が締め上げる。
「でしたら、地獄の入口くらいは見せて差し上げますわ」
悲鳴。
貴族子息たちは床に伏し、二度と立ち上がれぬほどに叩きのめされる。
——社会的にも、物理的にも。
アルベルトは震えていた。
「エ、エリシア……やり直そう……」
エリシアは小首をかしげる。
「あら? 結婚は一人しかできませんの」
彼女の背後で、聖なる光が優しく輝く。
「わたくしが選ばなかった方は——地獄行き、ですわ」
その瞬間。
光と闇が交差し、
大広間の天井を突き抜ける柱となった。
◆◆◆
数ヶ月後。
ルヴァン家は王都裏の魔術商会となり、エリシアは“聖闇の女公爵”と呼ばれていた。
かつて彼女を陥れた者たちは、
今や片タマで暮らすもの、あるいは全てがなき者などその罪の重さで差があった。
「さて」
彼女の前に、跪く数名の青年。
「わたくしの夫候補は、一人だけ」
艶やかに笑う。
「選ばれなかった方がどうなるか……分かっておりますわよね?」
甘い声に、全員が震えた。
ナッツクラッカーはまだ、本気を出していない。




