クレス編 理想を語る少女と夢に駈ける少年
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【クレス編 理想を語る少女と夢に駈ける少年】
どうぞ、お楽しみください。
――セレンディア城下町 喫茶店"リリテオ"――
俺とクレスは、落ち着いた雰囲気の喫茶店に入り、店の奥のテーブル席に座ると紅茶を頼んだ。
「私……実は喫茶店とか初めて入るから、ちょっと緊張しちゃう……」
「そうなのか? てっきり、みんなと出かけるときに寄ってるものかと……」
「えっと……イリーナは王都だと有名人だから、気軽に外に出れないみたいで……ルーシェもその道の人からすると有名人みたいで、ジロジロ見られたりして落ち着かないんだって……」
「あー、それはわかる気がする」
彼女の説明に俺は深く納得した。
イリーナは聖女である前に、陛下の姪……つまり王族に連なる存在である。
ルーシェは陛下から『大賢者』の称号を賜った精霊術師の弟子であり、彼女自身も『魔女』の二つ名を持っている。
そして……そんなクレスも、冒険者の間では『琥珀のピトフーイ』って二つ名で知られているらしい……
クレス1人なら、今の姿を見ても、それとは気付かれないだろうが、これが3人となると話が変わる。
(でもいいよなぁ〜、俺も欲しかったなぁ二つ名……なんかこう『剣聖』とか『剣神』とかなぁ……もしかしてイリーナも二つ名を持ってるのか!? そしたら俺だけ『名無し』じゃないか!?)
そんなことを俺は考えていると、注文した紅茶が届き、俺は紅茶で口を湿らせた。
クレスもそれに続き、紅茶に口をつける。
「美味しい……のかな? なんか緊張しちゃってわかんないや……」
「なんだ? 城でも紅茶は出るだろう?」
「そうなんだけど……私は白湯とかの方があってるみたい……」
そう言って彼女は、バツが悪そうにカップの縁を指でなぞりながら苦笑いを見せた。
そんな姿を見て俺は、そろそろ突っ込んだことを聞いてみようと思った。
「クレス……もし俺が、今回の見合いでお前を選んだら、考えてることはあるのか?」
俺の問いに、彼女の指がピタッと止まった。
「それは……結婚生活をってことかな?」
「ま、まぁ……そうだな」
少し恥ずかしさを感じつつ、俺はクレスの結婚に対する考えが聞きたかった。
そして彼女の根底にある物を知りたかった。
「えっと……もしクロードと結婚したら……」
彼女は一瞬迷ったのち、言葉を紡いだ。
「もしクロードと結婚したら……クロードの屋敷で一緒に暮らすでしょ! そしたらクロードには、冒険者稼業は引退してもらうね! っで屋敷のなかで畑とか、果樹園を作って1日を過ごすの!」
「……引退?」
「そう! 朝は私がクロードを起こして、畑で作った野菜いっぱいの朝食を食べるの! それで出かけるときは私も一緒に行くから、ずっと手を繋いでてね! じゃないと迷子になるでしょ?」
「迷子って……俺は子供じゃないぞ……」
「うぅん……心配だからダメ! トイレとお風呂以外は、私の見えるところにいてね! もちろん、寝るときも一緒だよ! ……あっ!?」
クレスはなにかを思いついたように、少し恥ずかしそうに訂正した。
「……やっぱり、お風呂も一緒に入ろう……私がクロードの体を、すみずみまで洗ってあげるね……」
彼女が一通り、結婚生活の計画を話し終わるころには、俺は唖然としてしまった。
(こいつ、本気か!? 本気で言ってるのか!?)
「クロードさん、コレは相当きてますよぉ〜、おっもぉ〜い感情の一部が見えてきましたよぉ〜」
セレーネの反応を見て俺は、クレスの根底を探るために、彼女の計画に意見を述べてみた。
「クレス、さすがに冒険者を引退はやり過ぎじゃないか? 野良の魔物とか出たら退治したいし……俺だって1人の時間がほしいときもあると思うんだ、だから……」
その瞬間――
「それじゃ! ダメなの!!」
俺が言い終わる前に、クレスが立ち上がって怒鳴り出した。
「クロード! そう言ってまた私のこと置いていくの!? そんなの絶対に嫌! もうどこにも行かないで!」
彼女は取り乱したように、俺に懇願すると、店内を静寂が支配していた。
「……ごめんなさい……帰るね……」
「……あ、クレス!」
そう言って彼女は俺の呼び止めも聞かず、店を後にした。
俺はため息をつきながら、椅子にうなだれると、一部始終を見ていただろう女神に語りかけた。
「セレーネ、どう思う?」
「えぇ、だいぶきてましたねぇ〜、センサーもビンビンでしたよぉ〜」
「そうか……」
セレーネの言葉を聞き、彼女の根底にある物に近づいた気がするなか、俺はクレスの言葉を思い出していた。
『私を置いていくの!? もうどこにも行かないで!』
俺はその言葉に、勇者として故郷を旅立った日のことを思い出していた……
――10年前 クローレス村(旧モス村)――
その日の空は、まだ昼ごろだというのに、雨雲のせいで太陽は隠れ、暗い時間をもたらしていた。
そこに、セレンディア王国からの騎士団が、片田舎に列をなして来たときは、村中大騒ぎだった。
そして……村に騎士団が到着すると、長と思われる騎士が村長に話しかける。
「急な訪問、失礼する! 私は王宮騎士団、団長のアルバインだ!」
男がそう名乗ると、村長の困惑を悟り、すぐに要件を伝えてきた。
「この地に来たのは、我が王都に勇者を迎え入れるためだ!」
「……勇者……ですか?」
「そうだ! 王都で、あるお方が聖女として覚醒された……それは勇者も覚醒されたことを意味する……そしてそれは、聖女と同じ日に誕生した男子と決まっている!」
その騎士は、淡々と村長に、ことの経緯を説明していた。
「そして、我々の持つ情報から、この地にいる『クロード』という少年が、勇者である可能性が高いと判断した! 村長……その少年はどちらかな?」
「……たしかに、クロードという少年はこの村に住んでいますが……勇者なんてそんな……なにかの間違いでは?」
村長が信じられないという感じで、騎士団長に言葉を返していた。
「村長よ……急な話で混乱しているのは理解するが、我々も冗談や遊びで来ているわけではない……早々にその少年を呼んできてもらえぬか?」
「……失礼いたしました! すぐに呼んでまいります!」
その騎士は、村長の非礼をとがめず、しかしことの重大さを説き、俺を呼ぶように村長に伝えた。
その瞬間――野次馬に紛れて様子を見ていた俺の体は、無意識に飛び出し、2人の間に割って入った。
「俺ならここにいるよ!」
そう言って騎士団長の顔を睨みつける。
「……貴公がクロードか?」
「そうだよ……」
「……聖痕を見せなさい」
「……聖痕……ってなんだ!?」
その男は俺の返答に、一瞬眉をひそめるが、すぐに俺に質問を返した。
「体のどこかに、模様のような物ができてないか? もしくは最近、体の痛みを感じたか?」
「……そういえば、今朝……背中がヒリヒリしたような……」
その言葉に男の視線が鋭いものに変わった。
「……少年、こちらに来なさい」
「はぁ? なんでだよ?」
「確認したいことがある、来なさい……」
俺は不審に思いつつ、その男のところに近づいた。
するとその男は、俺を後ろ向きにすると服を捲り上げ、背中を確認した。
「おい! なにすんだよ!」
「……たしかに……聖痕があるな……」
そう……俺の背中には、勇者の証である聖痕が、浮かび上がっていた。
男は俺を向き直させると、片膝をついて頭を下げた。
「クロードさま……数々の非礼、大変申し訳ありません! 王都セレンディアで、国王陛下がお待ちです……どうかご同行願います」
そう言って男の態度が急変し、俺が驚いていると、男は続けて言葉を紡いだ。
「国王陛下への謁見の後、アナタさまには勇者としての訓練を積んでいただき、魔王討伐に赴いていただきます!」
「……魔王……」
「はい! ですが、ご安心ください! 訓練はこのアルバインが担当させていただきます!」
「……アルバイン……アンタそんなに強いのか?」
「はっ! 不肖このアルバイン、陛下から『剣聖』の称号を賜っております!」
「『剣聖』!!」
俺はアルバインの称号に興奮し、気持ちが昂っていた。
「わかった! 行くよ!」
「はっ! ありがとうございます! 馬車の用意がありますので、そちらまでご案内いたします」
そう言ってアルバインは立ち上がり、馬車の方に向かって歩き出すと、俺は輝かしい未来を信じて、その男の後について行った……
――クレス編 理想を語る少女と夢に駈ける少年 完――
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
ピトフーイとは、実際に存在する有毒鳥の一種だそうです。
身軽かつ毒無効持ちの、クレスにピッタリだと思いました!
少しづつですが、クレスの闇に触れていくクロードさんの活躍に、ご期待ください!
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▼次回予告
『クレス編 少女の恐れるもの』
明日 20時 投稿予定です!!




