クレス編 勇者の育った大地の風景
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新章
【やり直し勇者と鳥かごを抱く少女】
開幕です!!
どうぞ、お楽しみください。
――談話室――
(スロット2をロード)
【スキルの使用を確認しました。スロット2のセーブポイントをロードします】
俺は見合いの場で誰かを選ぶのではなく、みんなを知るための時間を頼み、そしてその機会を得た……
この見合いのおかげで、俺は彼女たちの想いを自覚し、ちゃんと向き合うための覚悟を決めた。
「……でクロードよ! 誰から知るのだ?」
陛下の問いに、誰と関係をやり直すのか、想いを巡らせ、俺は彼女に声をかけた……
――やり直し勇者と鳥かごを抱く少女――
「クレス……これから、少し話さないか?」
「えっ……わ、私!? いやでも、先にみんなと話したほうが、いいんじゃないかな?」
俺の誘いにクレスは、動揺しているのか2人と先に話すように促してきたが、それを見たイリーナとルーシェが彼女に声をかけた。
「クレスさん、わたくしたちのことは気にしないでください」
「そうよクレス、こいつはちゃんと私たちと話すって言ってるんだから、誰が先なんて気にしないわよ!」
2人はクレスに自分たちのことは気にせず、俺との時間を作るように、逆に促してくれた。
「ありがとう、2人とも……待っててくれ」
その言葉に2人は静かにうなずき立ち上がった……
「クロードさま……わたくしはいつまでもお待ちしております……」
そう言ってイリーナは俺の前で手を組み深く頭を下げた。
そして陛下に向き直し、ドレスの裾をわずかにつまんで膝を折り、優雅な礼を見せてから、侍女を連れて部屋を後にした。
「アンタ、しっかりやりなさいよ! それでちゃんと私のところにも来るの! 約束だからね!」
ルーシェが俺に活を入れると、イリーナの後を追うように部屋を出た。
そして、陛下が上機嫌に俺に話しかけてきた。
「クロードよ! 貴公の真摯に取り組む姿、見事だった! 彼女たちとわかり合うには時間も必要だろう……西の塔に貴公の部屋を用意させるからゆっくりするといい」
「お心づかい感謝いたします、陛下……」
「ふむ……ではクロードよ、よい知らせを楽しみにしておるぞ!」
そして陛下も部屋を後にすると、談話室には俺とクレスの2人だけになった。
俺は、もう一度クレスに向き直すと彼女に声をかけた。
「クレス……ちょっと話さないか?」
クレスに手を差し伸べて俺は彼女の返事を待った。
「……うん! ちゃんとエスコートしてね!」
そう言って彼女は俺の手を取った。
俺はクレスの小さな手を握り返すと、そのぬくもりを感じながら、彼女と共に部屋を後にした。
――セレンディア城 内庭――
クレスと部屋を出た後、とくに話すこともなく、適当に城のなかを歩いていた。
辺境の村で生まれ、いつもボロボロの服で畑道を走り回っていた2人が、今は城のなかで貴族のように身なりを整えて歩いている。
奇妙な状況に俺は不思議な気持ちを感じつつ、城の内庭に着くと、クレスをベンチに座らせるため、もう一度彼女に手を差し出した。
クレスは恥ずかしそうに俺の手を取ってベンチに腰掛ける。
彼女の手の温もりを感じながら俺は、セレーネの言っていたことを思い出していた。
__
「……毒無効はべつに珍しいスキルではありませんよ! ただそのスキルを持つということは、自身が毒を分泌する生物か、もしくは日常的に毒性の物に触れたり食べたりして慣らしているかのどちらかです」
「……毒を食べる?」
「はい……クレスさんが人間である以上、それしか方法はありません……しかも毒無効なんてスキルを得るのですから、普通の毒……体調を崩す程度の物だけでなく、死に至る可能性がある猛毒すら日常的に食べていたんじゃないでしょうか?」
__
俺はもう一度、彼女の手の温もりを確かめていた。
(とても柔らかくて暖かい手だ……本当に普段から毒を食べてる人間の手なのか?)
俺はまだクレスの持つ特異性と、それを得るために必要な努力を、結びつけられないでいた。
「クロード? どうしたの?」
「えっ?」
「なんか、じっと私の手を見て難しい顔してるよ」
「いや、これは……よくこんな細い腕であの双剣を振るえるなぁ……って感心してたんだよ!」
彼女に抱いていた疑念を、俺は悟られないように、とっさに嘘をついた。
「もうっ! ちゃんとエスコートしてって言ったそばからこれなんだから〜 クロードは変わらないなぁ」
「わ、悪かったな、ちゃんとエスコートできなくて!」
俺はバツが悪そうにすると、クレスが首を横に振った。
「ううん、いいの……クロードはそのままでいて……じゃないと、いつまでも追いつけないから……」
「追いつく? なににだ?」
「……なんでもない! クロードも隣座って! 最近どうしてたのか教えてよ!」
話を逸らされたことを不審に思ったが、俺は彼女の誘いに同意してベンチに座り、屋敷での話をした。
「べつに大したことはしてないよ……領主になって最初はなにかしないと! と思って領地の見回りとか周辺の魔物の討伐とかしてたんだけど、駐留してる兵士たちから『仕事を奪うな』って怒られちゃって」
「あはは! クロードらしいね! いっつも張り切りすぎて失敗しちゃうんだから」
「べ、べつに失敗してないぞ! 俺が色々やり過ぎて困るって言われただけだから!」
「それを失敗っていうんだよ〜」
こんな他愛のない話を嬉しそうに聞いてくれるクレスは、やっぱり普通の女の子にしか見えない……そう俺は感じた。
「クレスこそ! 故郷の……モス村に戻ってからどうしてたんだ?」
「あっ……!」
「……んっ?」
「……えっと、実はね……もう、モス村はないんだ……」
「はっ!? どういうことだ? まさか!? 魔王の軍勢にやられたのか!?」
クレスの不穏な返答に俺は焦りを感じた。
モス村……俺とクレスが生まれ育った辺境の村で、山から流れる大きな川を挟んで家が建ち並び、川の湿気で村のあちこちには、苔が生い茂っている。
他所から見れば深緑と青碧が織りなす美しい村だが、出身者からしたら、ただ大きな川があるだけの片田舎だ。
そんな、モス村がもうないなんて俺は信じられなかった。
しかし、俺の問いに返ってきたクレスの答えは予想外のものだった。
「違う、違う! 村は全然無事なんだけど、『モス村』って名前じゃもうないの!」
「……えっ!?」
「実はね! クロードが勇者として王都に旅立った後、村のみんなが『勇者の故郷がモスなんて名前じゃ威厳がない! 今日からこの村の名前をクロード村にしよう!』ってことになって、クロード村に改名したの!」
「はぁ!?」
あまりにも突拍子のない話に、俺は思わず裏返った声を出してしまった。
「でね! これには続きがあって、クロードと私が魔王やっつけたら『クロードとクレスが魔王を倒した! なら2人の名前を村の名前にしよう!』ってなって、色々組み合わせて最終的に『クローレス村』に改名したの」
「クローレス……村……?」
知らないうちに故郷が2度も名前を変えていた事実に俺は、理解が追い付いてなかった。
「そう! ちなみに王さま公認だから、地図上の名前も変わって今じゃ【勇者誕生の地】として観光地にもなってるよ! だから私たちの故郷は『モス村』じゃなくて『クローレス村』って言わないと誰にも伝わらないから気を付けてね!」
「陛下公認……だと……?」
「うん!」
俺の驚きの言葉にクレスは、どこか嬉しそうに笑顔で頷くと、さらに村の現状を教えてくれた。
「実はお土産屋さんも開業したんだ! 【勇者の食べてた川魚の塩焼き】に【勇者が愛用した木剣】でしょ! 【勇者まんじゅう】なんてものも売ってるんだよ!」
「おいっ、待て! 最後の【勇者まんじゅう】ってなんだ!? あの村でまんじゅうなんて作ってなかっただろ!?」
「そこはほら、やっぱりお土産と言ったらおまんじゅうでしょ? だから村のみんなでそれっぽいの作って売ってるんだよ!」
「いいのか……それ?」
「あと、苔玉を売ってみたら、飛ぶように売れてウッハウハなんだよ!」
「苔……玉ってなんだ?」
「えっとね……泥団子に苔を貼り付けて、小瓶にお水と砂利を一緒に、それっぽく入れた商品で【勇者の育った大地の風景】って名前で売り出したら、驚くほど売れたんだって!」
「待て待て! それって村のどこにでも生えてる苔のことだよな?」
「そうだよ! それに泥団子もお水も砂利も全部川から調達できるから、村長は『小瓶の費用だけでボロ儲けだ! それも全部勇者さまのおかげだ!』って喜んでたよ!」
「そ、そうか……それはよかったよ……」
村のたくましさに、俺は複雑な気持ちを抱きつつ、話をクレスの今までのことに、戻すことにした……
――クレス編 勇者の育った大地の風景 完――
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
会話を重視したつもりが、意外と文字数あって、ビックリしました!
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▼次回予告
『クレス編 甘い蜜に誘われて』
明日 20時 投稿予定です!




