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第8話 クローバーの「約束」

咲音が展示会への準備を進める中で、彼女の中にある変化が明確になってきた。それは「完璧な作品を作る」ことよりも、「自分自身を表現する」ことに価値を感じ始めたことだった。描くたびに絵筆が重く感じられていた以前とは違い、今回は自由に描く喜びが心の中に広がっていた。


展示会の日が近づくにつれ、咲音はあの「秘密基地」を描く絵の構想を練り直していた。以前に描いた絵も気に入っていたが、次はより「今の自分」を伝えるものにしたかった。あの日の草原に広がる風景だけでなく、そこに立つ自分自身の姿も描き加えようと思ったのだ。


悠真の言葉が背中を押していた。「お前の絵は、誰かに届く」。それを信じることで、筆が滑らかに動いていく自分を感じていた。


そんなある日、彼女の元に悠真から一通の手紙が届いた。普段はメッセージアプリでのやり取りが主な彼だったが、わざわざペンで書かれたその文字に咲音は驚いた。


手紙には、彼自身の近況と少しの感謝の言葉が綴られていた。


「最近、仕事が忙しくて考え事をする時間がなかなか取れなかった。でも、こないだ地元に帰った時、咲音のおかげで昔の自分を思い出せたんだ。俺も、また挑戦してみようと思ってる。いつか東京でクローバーを咲かせて、見せに行けたらいいな」


その手紙の最後に添えられていた言葉が、咲音の胸にじんわりと広がった。


「また必ず会おう。俺たちのクローバーを咲かせるために」


ついに展示会の日がやってきた。全国の若手アーティストたちが集うその場で、咲音は自分の絵を飾った。他の作品に比べてシンプルかもしれないが、そこには彼女自身の想いが色濃く込められていた。


彼女が出展した作品には、こんなタイトルが添えられていた。


絵の中には、秘密基地の草原で立つ少女と少年の影が描かれていた。だが、その影は遠くから手を振るだけで、二人はすれ違うような配置になっている。背景には、吹き渡る風に揺れる四葉のクローバーの葉が緻密に描かれていた。


展示会場で立ち止まった人々の中には、「この絵に込められた約束って何だろう」と首を傾げる人もいれば、ただ懐かしさを感じて絵の前に佇む人もいた。その姿を見ながら、咲音は控えめに微笑んだ。


展示会が無事に終わった後、咲音は新たな目標を決めていた。もっと多くの人に自分の絵を届けたい。そのためには、今いる小さな町の外にも目を向ける必要がある。彼女は初めて地元を出て、新しい道を探す決心をした。


そしてその道を進む中で、悠真とも再会を果たす日が来るかもしれない――そんな期待を胸に、彼女は次の挑戦に向かって歩み始めた。


悠真は仕事の合間に、時折咲音が投稿する新しい絵を見ることが密かな楽しみになっていた。「都会の中に埋もれた四葉のクローバーを見つけてみよう」と思えるようになったのは、咲音の絵のおかげだと密かに感じていた。


互いに別々の場所で、それぞれのクローバーを育てる二人。その道が再び交差する日は、きっとそう遠くないのだろう――

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