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第2話 かつての「彼女」

翌日、朝から陽が射し込む穏やかな天気だった。悠真はのんびりと寝坊して、遅い朝食を終えた後、ぶらぶらと町の中心に向かった。昔ながらの商店街は、子供の頃の遊び場だった場所だ。


とはいえ、記憶と現実には大きな隔たりがあった。閉店してシャッターが降りた店がいくつか増えている。古びた看板は色あせ、一部は壊れかけている。それでも、雑貨屋や八百屋の前でおばさんたちが話している姿を見ると、かつての景色と重なる瞬間があった。


彼が目を留めたのは商店街の中ほどにある小さなカフェだった。見覚えのない店だが、どことなく居心地の良さそうな外観。壁の片隅には手描きのポスターが何枚か貼ってあり、そこに「三浦咲音 個展開催中」と名前が書かれているのを見て、一瞬足を止めた。


三浦咲音みうら さきね――。悠真の中でその名前がかすかに震えた。


初恋の相手。中学を卒業して以来、一度も会っていなかった。高校も別々、彼女の消息を知らぬまま悠真自身が東京へ出て働き始め、そのまま思い出すことも減っていった存在。


どこか人混みに流されて見失った風景の一部のような彼女の名前が、突然現実に浮かび上がる。


ドアを押して店に入ると、木の温かみを感じるインテリアに包まれた落ち着いた空間だった。壁には数枚の絵画が飾られていて、その近くで布を広げたり展示を整える姿があった。


「いらっしゃいませ!」

はつらつとした声が飛んできた。顔を向けた瞬間、彼女も同時にこちらを見て動きを止めた。


「ゆう……くん?」


迷いも疑いも混じったような声だった。それでもすぐに、大きく瞳を輝かせた笑顔が生まれた。間違いなく三浦咲音だった。


「久しぶり。覚えてる?」と悠真が少し気恥ずかしそうに声をかける。


「もちろん!覚えてるに決まってるよ!」

声は明るかったが、その底には柔らかい懐かしさが漂っていた。


カフェの小さなテーブルについた悠真は、彼女と短いやり取りを重ねる中で、少しずつ感覚が戻っていくのを感じた。


咲音は店のスタッフとして働きながら、個人で絵を描き続けていること、地元を中心に小さな個展を開く生活をしていることを話してくれた。


「ゆうくん、東京だよね?聞いたよ、お母さんから。大きな会社に勤めてるんでしょ?」


「まあね。広告の仕事だからバタバタばかりだけど」


「それ、似合ってる感じがする。あの頃のゆうくん、何かと仕切ってたしね」


「え、俺、そんな感じだった?」


悠真は照れ隠しに苦笑したが、彼女の目がまっすぐこちらを見ているのを感じた。それは、思い出を共有するだけではない、どこか今の自分を見透かそうとするような視線だった。


「……それで、さ。帰ってきたのは何年ぶり?」


「うーん、10年くらいかな。いや、もうちょっとかな」


「そうだったんだ。じゃあ、あれとか覚えてる?」

突然彼女が身を乗り出して聞いた。


「あれ?」


「秘密基地だよ」


その言葉が悠真の胸を少しだけ苦しくした。秘密基地――。空き地の片隅、木々に囲まれた場所に咲音とふたりで作った、子供たちの拠り所だ。自分たちはそこを「ここは俺たちだけの宝物が眠る場所」だとふざけた調子で呼んでいたのを思い出す。


だが、秘密基地に何を「宝物」として埋めたのか、まったく思い出せない自分に気づく。


「……なあ、何か埋めたっけ?」と聞き返す悠真に、咲音は柔らかく笑った。


「え、忘れちゃったの?なら、久しぶりに一緒に探してみる?」


その夜、家の中で悠真はふと感じた。この再会は偶然なのか、それとも彼に何かを思い出させるための機会なのか、と。


次の日、彼は咲音と共に秘密基地跡地を目指すことになる。

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