付与魔法ー1
「――スーリオン、その頭、大丈夫?」
赤く膨れ上がった二つのたんこぶを見て魔学の講師であるディニエルは心配そうにボクの顔を覗き込んだ。
「大丈夫、大丈夫! ディニエル先生、こんなのいつもの事じゃない。そうだよね、スー」
「ふん!」
「なーに不貞腐れてるのよ! ルィンヘンに負けたのがそんなに悔しいの?」
「そりゃ、悔しいに決まってるだろ」
「ふーん、そっかぁ。悔しんだ。……だったら、もっともっといっぱい練習して次こそルィンヘンから一本取れる様に頑張ればいいじゃない」
「そんな事カレナに言われなくても分かってるよ」
「ならそんなに何時までもクヨクヨしない!」
カレナなりに心配していたのか、ボクに気合を入れようと何気なく手を振り上げるといつもの様にボクの頭を叩いて見せた。
「あっ! カレナ、それは――」
ディニエル先生の制止も間に合わず、絶叫と共にうずくまり涙目になったボクを見てカレナは少しバツが悪そうにちょこんと唇を出していた。
「――いい、二人共。今日あなた達に教えるのは対象に様々な効果を与える付与魔法よ」
「付与魔法?」
聞きなれない単語に魔法が得意なカレナも思わず首を傾げた。
「付与魔法と言うのは、そうね、一種の補助魔法と言ってもいいかしら」
「ディニエル先生! その付与魔法っていうのを覚えればボクもルィンヘンに勝てる様になりますか?」
「うーん、そうね。あなたがルィンヘンに勝てるようになるかは分からないけど、スーリオンの戦いの幅が広がる事は間違いないわね」
「戦いの幅か」
「はぁ、本当にスーの頭の中はそればっかりね。先生! それよりもこの前教わった身体強化の補助魔法とはどう違うんですか?」
「カレナ、良い質問ですね。補助魔法は基本的に対象の能力そのものを向上させます。それは腕力であったり、敏捷力であったりします。でもこの魔法は――」
そう言って地面に落ちていたか細い小枝を拾い上げるとディニエルは意識を集中し魔法を唱え始める。
「――対象とするものに直接魔法の力を付与することが出来るのです」
ディニエルが手にしていた小枝に風が渦を巻き、やがてそれは鋭い剣の形を成した。
「す、すごい」
「スーリオン、カレナ、これが付与魔法の力です。よく見ておきなさい」
ディニエルは決して剣の技量が高いとは言えない。
それこそルィンヘンの足元にも及ばないだろう。
だが、彼女が風の刃を構え振り下ろした刹那、眼前にあった大きな岩は真っ二つに切り裂かれてしまった。
「う、嘘でしょ?」
音を立て崩れ落ちる大岩にカレンは思わず立ち上がりディニエルが手にした小枝を何度も見やる。
それは間違いなくその辺に転がっているただの折れた枝。
だが、彼女によって風魔法を付与されたその小枝はいとも簡単に大岩を打ち砕いてしまった。
「――これが付与魔法の力。どう? なかなか凄いでしょ?」
「すごい、すごいです! ディニエル先生! その魔法、早く私に教えてください!」
「分かってます。今から教えてあげるから少し落ち着きなさい、カレナ。――いま二人に見せたのはあくまで付与魔法の初歩。もしこの魔法を自由自在に扱う事が出来るようになればきっとあなた達の助けになる日が来るわ」
「ボクたちの助けに、ですか?」
「そうよ。……まぁ、そんな日が来ない方がいいのだけれど」
「ディニエル先生、何か言いました?」
「い、いえ、何でもないわ。そういう訳だからこれから暫くは付与魔法を教えることになります。二人共、しっかり私の話を聞くように。いいわね?」
「もちろんです! ディニエル先生。ねぇ、スー?」
「う、うん」
「よろしい。それじゃ早速始めていきましょうか」
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