村の掟
「――えいっ! はっ! やぁぁぁ!」
ゆっくり息を吐き強く柄を握ると、構えた木刀を標的に向かって振り抜く。
日の出と共に目が覚めたボクは枕元に置いてある愛刀を握りしめいつもの様に家を飛び出す。
流石にまだ早いのか人影はなく村はしんと静まり返っていた。
空き地に到着したボクはいつもの様にご神木の前で一礼すると空から吹く朝風を感じながら軽く身体を動かし木刀を握る。
この木刀はボクの誕生日の日にご神木から切り出された枝を使って作られたボクだけの宝物だ。
毎日のように素振りをしているおかげか最近ようやく手に馴染んできてとてもいい感じだ。
……今日、もしかしたらいけるかもしれない。
そんな事を考えながら素振りを続けていると、いかにも眠たそうな青年が欠伸をしながらこちらに近づいてきた。
「ふわぁぁぁ、おはよう。スーリオン」
「おはよう、ルィンヘン」
「相変わらずお前、早起きだな」
「そうかな? あれ、カレナは?」
「あぁ、カレナの奴、畑仕事の手伝いだってさ。収穫が終わったら来るって言ってたから取り敢えず二人で始めてるか」
「うん、わかった」
カレナ・リエルとは幼馴染でこの村には同年代の子供は僕と彼女の二人しかいない。
この村の子供たちはある年齢になると皆、剣術と魔法を習う決まりになっていて、ボクとカレナは目の前にいるこのルィンヘンに剣術を習っていた。
「――はっ、はっ、はっ!」
「よし! 素振りはそこまでだ。スーリオン、随分様になって来たじゃないか」
「本当?」
「あぁ。少し休憩したらまたいつものやるか」
「うん! 今日こそは絶対にルィンヘンから一本取ってみせるよ」
「俺から一本だって? スーリオン、お前には、百年早いぜ」
かもしれないけど、なんか今日はいける気がする。
「そんなのやってみなきゃ分からないだろ?」
「まっ、その意気込みだけは勝ってやるさ」
「ボク、早く一人前になって世界を旅してみたいんだ」
「旅だって? 止めとけ、止めとけ。村の外は危険なだけだぞ」
「外ってそんなに危険なの?」
切り株に腰かけたルィンヘンはまだ少し眠いのか大きな欠伸をすると、顎に手を当て少し考えてからこう答えた。
「あぁ、危険だよ。常に争いは絶えないし、魔獣やら魔物もわんさかいる。命がいくらあったって足りやしないさ」
「そうなんだ。……ルィンヘンは村の外に行った事があるの?」
「ん? あぁ、まぁ、数える程度には、な」
「えっ! いいなぁ! ねぇ、ねぇ、村の外ってどんな感じなの? やっぱりすっごく広かったりするの?」
「どんなって、別に普通だよ、普通。森が広がってて、草原があって、山があって、村があって。そんな感じさ。まっ、用がないんだったら俺は村の外になんか行きたくないけどな」
「そうなの?」
「あぁ。いつも気を張ってなきゃならないし、ただただ疲れるだけさ」
ルィンヘンは嫌な事でも思い出したのか沈んだ顔でため息を付いた。
――この村には絶対に守らなければならない掟がある。
それは、
“村長の許可なく村の外には出ていけない”
というものだ。
どうしてそんな掟があるのか理由はボクにも分からない。
けど、とにかく大人たちは“絶対に村の外には行くな”と子供たちに口が酸っぱくなるほど何度も何度も言い聞かせている。
「――もう休憩は十分だろ? そろそろ再開しますか。スーリオン、お前の自信がどれ程のものか実戦で試してやるよ。さぁ、どこからでもかかってきな」
「うん!」
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