魔法学校名物、卒論期間始まる
「ん?あら?今日もロンドの周りが静かだわ」
移動教室のためクラスメイトと歩いている時、中庭のベンチで三名ほどの男子生徒と楽しそうに談笑しているロンドを見かけた。
不思議な事にここ数日、あれだけ華やかだったロンドの周りからキラキラな人種たちが激減していた。
キラキラな人種には違いないのだけどなんていうのかな、落ち着いたキラキラを放つ男子生徒としか一緒にいる姿を見ないのだ。
他のキラキラな女子生徒やキラキラチャラチャラした男子生徒はどこに消えたのだろう?
交友関係に何か事件が?
ロンドのクラスの事はよくわからないしなぁ。
とても気になる。
気になるがホントの彼女じゃないわたしが彼のプライベートに首に突っ込むの良くないし。
それにきっとこれからはお互いに、
そして他の生徒たちもそれどころではなくなる。
卒業まであと二ヶ月。
ハイラント魔法学校名物、卒論の受付が解禁となったからだ。
魔法学校では卒業2ヶ月前の一ヶ月間だけ、卒論を受け付け評価しクリアしたものだけが卒業証書を受け取る事が出来る。
もちろん単位さえ足りていれば卒業は出来るし
ハイラント魔法学校卒という経歴も付く。
が、しかし、どういうわけか卒論が受理されなければ卒業証書は貰えないのだ。
学校側としては真摯に学業に取り組んできた者とそうでない者との差を、最後の最後で形にしてやろうってなものなのかもしれない。
だから当然、卒論の評価はかなり厳しい。
15歳で入学してからの三年間、自分でテーマを決め取り組んできた研究の集大成ともなる卒論だ。
適当に書いて受理されるわけがない。
わたしの卒論のテーマは当然東方魔法薬学だ。
ツキシマ教授の元で学んだ全てを卒論にぶつけてやる所存。
そのための準備もコツコツと重ねてきた。
キラキラな女子生徒たちが化粧をして髪を巻いている間もわたしは資料を集め、要点をまとめあげ準備してきたのだ。
卒論用のレポート用紙が配布される卒業ふた月前を、わたしは手ぐすね引いて待ち構えていた。
ちなみに学校側がわざわざ用紙を用意するのは不正を防ぐ為である。
用紙には特別な高位魔法が施されている。
校内から外部へ持ち出す事が出来ず、しかも本人の筆跡でないと記入出来ない。
加えて資料の丸写しや他者の論文の引用などをすればたちまち用紙は真っ黒に変質してしまうというオマケ付き。
資料の引用も多少は認めるが、多用は禁物。
あくまでも自分なりの考えを書かねばならないのだ。
用紙をダメにして新しい用紙を教授に貰う為にはそのダメになってしまった用紙と交換という条件があるのでズルをしたとすぐにバレてその分評価が下がる。
つまりは一朝一夕で卒論は書けず、不正は決して許されないというわけだ。
だからこの時期の三年生は皆必死だ。
もう出来ない、もう書けない…いや用紙に記入すら出来ないと嘆く生徒をよく見かける。
特にキラキラな人種たちに……。
わたしは当然余裕である。
その為に頑張ってきたんだもの。
学年で一番早く提出してやるんだから!
でも提出最低枚数が30枚って鬼じゃない?
ちょっと厳しすぎるんじゃないかしら。
ま、余裕だけどね。
卒論と卒業試験でトップを取ってやる。
「アニ子、首席卒業を狙ってるんならその内容じゃお粗末だね」
「ぎゃっ」
研究室で卒論を書いていたわたしに、覗き見してきたツキシマ教授が告げた。
「普通でいいならそれで充分さ。だけど証書に特A判定取得と明記して初任給アップに繋げたいならそれじゃちょっと足りないな。せいぜいA止まりだ」
「ぎゃふーん……特A欲しいですぅ」
「なら頑張りな」
「はい……」
卒業証書には卒論の評価が記載され、
それを就職先に提出すると初任給がアップしちゃうという魅惑の特典が付いてくる。
今後の生活の為にも是が非でも高い評価をいただきたい。
わたしは卒業後、この魔法学校でツキシマ教授の助手として勤める事が決まった。
他に内定していた仕事があるのだが、魔法学校の職員には借り上げアパートがある。
なんと家賃はただ。
そちらを選択しないわけはないでしょう。
教授となり教鞭を執るには卒業後も研究生として次のステージに上がり、そこで更に学んでいく事が必要になる。
ちなみにそれは研究生として学費を納めねばならず、もう働いて収入を得たいわたしにその選択肢はない。
魔法学校教授の助手ならそれなりの肩書きもお給金もゲットできる。
それで充分なのだ。
ロンドはもちろん研究生として魔法学校に留まる。
卒業と同時にこの仮そめの関係が解消されるという思惑は見事に外れてしまった。
(だってツキシマ教授がいきなり助手になれって言うんだもの)
いやきっとそろそろこの関係も終わるんだろうけど、その後も学校で顔を合わせるのは気まずいなぁ。
まぁその気まずさよりも職場としての条件を優先させたのはわたしなんだけどね。
さてどうしようか。
でもまぁそれはとりあえず置いといて、まずは卒論。
ロンドも今はそれどころじゃないはずだしね。
さぁ頑張ってさっさと提出してしまいますか!
「アニ子、そこの漢字が間違ってるよ」
「ぎゃふん」