馬車でお迎え
わたしの朝は早い。
公園に自生する朝露滴る植物を採取する為だ。
今朝の狙いはタンポポ。
葉はサラダに。根はコーヒーに。
タンポポの根を綺麗に洗い、乾燥させてフライパンで焙煎する。
(熱源は自分の魔力で!魔術って素晴らしい)
それを普通のコーヒーと同じようにドリップして飲むのだ。
脳内でこれはコーヒーと変換すればちゃんとコーヒーとして美味しい。
ノンカフェインで体にもいいしね。
葉は帰ってすぐに洗ってしばらく水に浸してアク抜きをする。
それからサッと湯掻いてボイルドサラダにするのだ。
これを肉屋さんで値切りに値切った見切り品のベーコンと一緒に食べると、ベーコンの塩気と脂で美味しく戴ける。
朝はちゃんと食べないとね。
授業が頭に入らなくなって困るから。
それから姉のお古の制服を着て登校する。
奨学生の為に国が無料で貸してくれているアパートを出ると、一台の馬車が停まっているのに気付いた。
このエリアではあまり見ない立派な馬車を見て、珍しい事もあるもんだとその横を通り過ぎようとした時、徐に馬車の扉が開いた。
そしてその中から顔を出したのは……
「おはよう、アニー」
「えっ?ハ、ハミルトンさん?」
それはなんとロンド=ハミルトンだった。
「どうしてこんな所に?」
わたしが素朴に思った疑問を口にすると、ロンドは少し困ったような顔をして答えた。
「どうしてって、恋人を迎えに来ただけだよ。一緒に登校しよう」
え?何のために?
という言葉が口から出かけたけれど、とりあえずはおつき合いをしているという形なんだからそういうものなのだろうと思い、その言葉をのみ込んだ。
「ありがとうハミルトンさん」
わたしはそう言って、彼が差し伸べてくれていた手を取る。
ロンドのエスコートで馬車に乗って着席すると、ほどなくして馬車は動き始めた。
「とても楽チンね。ハミルトンさんはいつもこうやって歴代の恋人たちと登校していたの?」
これまた素朴に思った疑問をロンドにぶつけると、彼は何やら意味ありげな表情を浮かべて言った。
「歴代の彼女なんていないよ。個人としての付き合いはアニーが初めてだ」
嘘でしょう?あんなに男女問わず周りに侍らかしておいて?
あ、“個人として”という事は複数人と同時におつき合いをしていた、という意味なのかも。
ふむふむそうかと一人勝手に納得しているわたしに、ロンドが言う。
「呼び方が戻ってるんだけど」
「へ?」
「呼び方がハミルトンになってる。ロンドと呼んで欲しいと言ったよな?」
「あー……いや、わたしがそう呼ぶのはおかしいかなーなんて」
「アニーが呼んでおかしいなら家族以外、他の誰も呼べなくなるぞ?」
「えー……だってほら、ねぇ?」
「わけが分からない。とにかくファミリーネームで呼ぶのは禁止、分かった?」
「わ、わかった」
ロンドにしては珍しく強めに言われて、わたしは頷くしかなかった。
そうこうしているうちに学校に着き、
わたしたちはまた好奇と嫉妬と奇怪な目線に晒される。
朝イチはキツいけど、ロンドと朝バシャなんて貴重な経験をしたな~と心のロンドメモリアルに記録しておいた。
───────────────────────
しばらくは小刻みな朝・夜投稿となります。
という事は?
明日の朝、投稿ありまーす!
よろしくお願いします(´>∀<`)ゝ