神社に行くとケモ耳っ娘に会った そしてほのぼのした
夏のある日、僕は暇だったので神社に行きたい。神社が家のすぐ傍にあるのと、僕が寺や神社のような古い建物に魅力を感じているからだ。
今住んでいる場所は、温泉地で足湯もある。家の前にはバス停、無人駅、足湯そして神社しかない。なので買い物するにはバスか汽車に乗るか徒歩十五分で着くスーパーへ寄る。
家に居る僕は退屈なので色々な記事を携帯電話で読んでいた。記事の見出しに(明日から猛暑が厳しくなりそうです。)と書いてあり、ふと思った。
昨日は雨が降っていて神社に行けなかった。今日は晴れているから行きたい。けれど外から聞こえる蝉の声のせいで、外が暑そうだと勘違いする。神社に行くかどうか悩む。どうするか迷っている時、携帯電話が目に留まる。その時、先程見た記事の文章を思い出し、気が変わった。
部屋を出て玄関に行くと、家の扉を開けたくなった。何故なら夏の蒸し暑さを感じないからだ。
靴を履く所に着くと少し戸を開ける。外の方が玄関より涼しかった。扉を開けた瞬間、ひんやりとした風が全身を優しく包み込む。風が僕に「外に出て神社へ行こうよ。」と誘っているようだった。
玄関の戸が開けっ放しだったので閉めてから靴を履いた。家から外へ出て鍵を掛けた後、神社に向かって歩き始める。
久し振りに外の空気を吸ったりそよ風を浴びたりするのは、癒される。たまに吹く風が気持ち良いので、気分が穏やかになる。
そんな事を感じつつ歩き続けると神社に着いた。普段から見ているのに、何故か初めて見たような気持ちになった。神社は遠くから眺めると普通の広さだけど、中に入ると狭い。
鳥居を潜った後、真横に手水舎という参拝者が身と心を清める場所があった。そこで手を清めようと掌に水を掛けると、程好い冷たさの水が体を優しく冷やしてくれる。ふと、「気持ち良い。」と声に出しながら何度も手に水を掛けてしまった。
御賽銭箱の方へ向かって三、四歩進んで行く。箱の隣にはおみくじがあり、一銭と文字が書いてあった。一銭という昔の単位である点が不思議だ。それよりおみくじが引きたいので、小銭が入ってるポケットに手を入れる。普段から財布を取り出す事自体が面倒臭いから、三百円程ポケットに放り込んでいる。
手を両方のポケットに突っ込んで変な感じがした。お金が全然入っていない。おみくじを引いて楽しみたかったけれど残念だ。せっかく神社に来たので拝みたい。
まずは鈴紐を手に持ち、そのまま鐘を鳴らす。ガラガラとどこか懐かしい音が聞こえるのと蝉の声も耳に入って来る。しばらく余韻に浸りつつ本殿をぼんやりの見詰めていた。本殿は障子戸なので自分の影がうっすら映っている。すると障子扉から人の形をした影がこちらへ近寄り、襖がゆっくり開く。現れたのは巫女服を着た白狐の少女。人間の姿に白い狐らしい大きな尻尾と長めの耳がある。
少女が僕の顔をじっと不思議そうに眺め、
「誰じゃ? 若僧が神社に這入って来るとは珍しいのじゃ。所で何しに来たのじゃ?」
と尋ねて来た。しかし急に訪れた理由を教えて欲しいと云われても、どのように答えれば良いのか分からない。頭が真っ白になっているので、ぼけっと突っ立っていた。
「あの......白駒お姉様この方は一体誰ですか?それと黒江はお腹空いたのです。」
「後で作るから待っといて欲しいのじゃ。」
「は~い。分かりました。」
と巫女服を着た黒猫少女が嬉しそうに喋りながら本殿の中へ入って行った。
僕はそろそろ家に帰ろうと思った時、狐の少女が賽銭箱を指指しつつこう云う。
「賽銭せぬのか? 妾的には五十厘入れて、御神籤引いて欲しいのじゃ。」
「ほ、本当はそういう事したいんだけど、今お金持ってないから。」
「そうなんじゃな。あっ、なら妾の年を丁か半で当てたら特別にタダで御神籤引かせてやるのじゃ。」
「丁か半って......何?」
「丁が偶数で半が奇数の意味なのじゃ。さぁ早う丁か半か当てるのじゃ。」
「ちょ、丁。」
「正解なのじゃ。ほな御神籤引いても好いのじゃ。」
おみくじ一回五十厘と書いてある所に向かう。おみくじは木箱の中に入っていて、箱の上は大きい穴が空いている。この穴に手を入れて一枚選んだ。白い紙に手書きの文字で御神籤と書いてあった。この紙を白い少女が横目で見た後、
「御神籤というやつは所謂神のお告げじゃからよく読むのじゃ。」
と話した。
「白駒お姉様、お昼ご飯はいつ作るのですか?」
本殿から黒江の声が聞こえ、白駒は尻尾を大きく動かしながらこう言う。
「ほな今から昼御飯作るから大人しくそこで待っといて欲しいのじゃ。」
この言葉を聞いて黒江は明るい声で返事する。その後、白駒は僕の所に来て一緒に食事しないかと誘う。白駒の尻尾の動きを見たら、嬉しいのかと思った。恐らく久し振りに参拝者が来ておもてなししたくなったのだろう。
「若僧よ、ひとつ言いたい事があるのじゃが、その......あるじと呼んでも良いか?」
「別に良いよ。と、ところで何と呼べば......。」
「妾の事か? 白い駒と書いて白駒と云うのじゃ。あっ、そうじゃ今昼じゃしついでに食って来れば良いのじゃ。」
「え、良いの?」
「別に構わぬのじゃ。折角来たんじゃし。早う中に這入って呉れぬか?」
白駒が本殿に戻ってから僕もそこへ行く。本殿の中に初めて入るのと昼食がここで食べられるから、心躍った。今幸せと思ったのは神社に来てたら嬉しい事が続いたからだ。
本殿の中に入る事が出来て感動し、声が漏れてしまう。白駒と黒江に変な目で見られた。
「何で部屋に這入っただけで驚いとるのじゃ?」
「お兄様少し変わってるのです。あの白駒お姉様今日のお昼ご飯は何ですか?」
「今日は茄子の味噌炒めと味噌汁なのじゃ。黒江が昨日茄子料理食べたいと云うてたから作ったのじゃ。」
「えへへ嬉しいのです。丁度こういうのが食べたかったので......。」
黒江と会話している時、白駒は料理を卓袱台に置く。黒江は目を輝かせながら食卓に着いた。そして黒江が猫耳を動かしつつ、白駒に食べても良いかと尋ねる。白駒はこくりと頷いた後、食べて良いと答えた。
「じゃぁ、食べちゃいますね。あっ、お兄様も宜しいですよ。」
そう話したのち、幸せな顔をしながら食べる。
僕はずっと立っていてそろそろ食事しようかなとした。その瞬間、白駒が一言こう言う。
「食う前に何か云う事あるじゃろ?黒江。」
すると黒江は首を傾げつつ黙り込む。三秒ぐらい経った後、黒江の尻尾が天井に向かって真っ直ぐ立つ。
「も、もしかして……いただきます言うのを忘れてましたか?い、いただきますなのです。い、言いましたよ?」
「ふむっ……食っても宜しいのじゃ。次からは気を付けるのじゃぞ?のう、黒江。」
「は、はい。気を付けます。あと白駒お姉様の作った料理とっても美味しいのです。」
「ありがとうなのじゃ黒江~。ほんであるじは食わぬのか?遠慮せんと沢山食うても構わんのじゃぞ?」
「う、うん。じゃあ、いただきます。」
「おかわりしたかったらしても良えんじゃぞ?なぁ、あるじと黒江よ。」
白駒は喋りながら卓袱台の方へ近付くと、一瞬動きが止まった。何か忘れたらしく再び台所に向かう。食器棚から箸を取り出した後、食卓に着く。彼女がいただきますと言ったのち、僕と黒江に「おかわりしても良いんじゃぞ?」と話した。
僕はご飯をおかわりしようと台所に行ったけど、炊飯器が見当たらない。なので黒江に尋ねる。
「えっと、食器棚の横に羽釜があるので、その中に米入ってますよ。」
「教えてくれてありがとう。それとしゃもじはどこにあるの?」
「杓文字も羽釜の中に這入っとるのじゃ。」
「うん、分かった。じゃあおかわりして来る。」
「わざわざ云わんくても好いのじゃ。見りゃ判るのじゃ。」
「そ、そうだね。」
そして羽釜の方へ向かった。米を少し入れてから、座っていた所に戻る。席へ着いたと同時に黒江がやかんを持って来てこう話す。
「お茶飲んでも構いませんよ?暑いですし。」
と言うと白駒は彼女の場所に近付く。
白駒は黒江の頭を撫でながら微笑んだ。
「黒江、ちゃんと気遣い出来て偉いのじゃ。」
その言葉を聞いて甘え声でゴロゴロと鳴く黒猫少女が居た。その子が白駒の頭に手を伸ばしつつ、
「し、白駒お姉様ぁ……く、黒江の頭ナデナデしてくれたので、お礼にナデナデお返ししてあげちゃいますっ。ナデナデ~」
「ベ、別にせ、せんくても好えのじゃ。なぁ黒江後で沢山撫でちゃるから、頼みたい事があるのじゃ。」
「頼み事って何ですか?」
「優藍を起こしに行って来て欲しいのじゃ。」
「わ、分かりました。」
「うむっ、頼むのじゃ。」
数分後、黒江ともう一人の声が聞こえた。
「ねぇ黒江お姉ちゃん今日昼ご飯が何?」
「今日は茄子のお味噌汁と茄子の煮浸しなのです。確か優藍ちゃんあんまり茄子好きじゃないですよね?」
「うん。食べる事出来るけど、普通かな……。」
二人が喋りながら卓袱台の所へ向かう。黑江の隣に居る少女は淡い青色の髪、髪型はモブカット。青髪少女の一番目立つ所は、左目と右目の色が違うという事。左目が赤で反対側は青い瞳をしている。それと尻尾も生えている。形はトランプのスペードと似ている。
先程白駒は優藍を起こして来いと黒江に云っていたので、青髪の子が優藍だろう。
白駒が黒江達の所に来て何か話し、優藍はこちらを横目で見た。
白駒の巫女服を軽く引っ張りながら優藍は僕の方を指指して一言呟く。
「イ サラン ヌグ?」
異国語で白駒と黒江に話し掛け、優藍は後退りする。優藍の所に黒江がやって来て、
「あまり指で人を指さない方が良いですよ?」
と注意した。
優藍が潤んだ瞳と声でこう訴える。
「う、うん……そうだね。な、何かごめんね……に、兄さん。」
僕の事を兄さんと呼ぶ少女は謝った。この時彼女は嫌な思いをしたのかと心配になる。そして自分から「何かこっちこそごめん。」と優藍へ伝えたのち、顔を伏せてしまう。
十秒程無言の時間が流れ、会話がしにくい。気不味い空気のまま家へ帰ろうとした瞬間、白駒が一、二言言葉を残す。だが声にならない声で云っていたので、聞き取れない。白い少女が発した空白の台詞を気にせず、自宅へ行こうとした。
「あるじ……ちと待つのじゃ。」
白駒の少し大きな声に驚き振り向く。まず目に入ったのは、白駒の手にお守りが何故かあった事。次に黒江と優藍が僕の居る場所から去ろうとする様子であった。
僕は白駒にどうしてお守りを持っているのかと問う。
「あるじが……その御守りとか欲しそうな気がして……。じゃからこれ遣るのじゃ。」
嬉しいけれどもただで貰うのは何となく申し訳無いので、手を横に振り要らないと伝えた。すると少女は僕に話し掛ける。
「要らぬと云うよりも、御守りを只で貰うのは何か厭なんじゃろ?乞食みたいじゃし。」
「ま、まぁそうかな。それとお守り欲しいけど、ただでは欲しくないかな。」
「ほな、明日ここに来て鈴紐を鳴らして呉れぬか?そして一銭と五十厘を妾に渡して欲しいのじゃ。」
「分かった。忘れないようにするね。」
「あっ、忘れん様に紙に書いて、あるじに遣るから少し待って呉れぬか?」
「うん。ありがとう。」
「どういたしましてなのじゃ。」
白駒が本殿に戻っている間、じっと待つ。けれども僕は大人しく待機する事が苦手だ。頭の中で「もっと神社の辺りをうろつきたい。」と思った瞬間、本殿の扉に手を掛けていた。何故なら気紛れで態度やしたい事が賽の目みたいに変わるからだ。もうこの時僕は白駒の言った言葉を忘れている。
「あるじ、どこ行こうとしとるのじゃ?御守りなんぼするか書いといたのじゃ。因みに一銭と五十厘なのじゃ。」
「あっ忘れてた。それとありがとうね。」
「忘れん坊なんじゃなぁ。まぁ取り敢えず明日必ずここに来て欲しいのじゃ。約束じゃ。」
「分かった。じゃあそろそろ帰るね。」
「ふむっ。気ぃ付けて帰るんじゃぞ。あるじ。」
「うん。気を付けるね。じゃあまた明日。」
「うむっ。ほなな~なのじゃ。」
白駒と言葉を交わした後、僕は家に向かって歩く。何となく白駒の視線を感じた。神社の方へ目を遣る。白駒が両手を大きく振りつつ僕に邪気の無い笑顔でこう言う。
「着て呉れてありがとうなのじゃ。あるじ。」
僕も少女に手を振った。
この神社に訪れたらおみくじをただで引けれたり、白駒が僕へ料理を振る舞ってくれたりして嬉しかった。だから僕は白駒にお礼の言葉を伝える。その言葉を聞いて白駒の尻尾が動いた。
神社に行くと色々な思い出が出来て楽しかったので、また参拝したい。それに明日もこの神社に来る。理由は「一銭五十厘のお守りを買う」という約束を白駒としたからだ。
次の日になれば今日みたいな面白い体験が出来るかも知れない。そんな事を考えながら自宅へと向かった。
家に帰っている時、少し強い風が吹く。歩いていたら足音以外の音が聞こえる。物音の正体は手に持っている紙だった。その紙は白駒が「御守りの値段を書いた紙」と云いつつ僕に渡した物。これを無くしたらお守りがいくらするのか分からない。それでは困るのでポケットに大事な紙を入れた。
ふと脳内で明日、神社、お守りの単語が浮かぶ。それと同時に一つの心配が生まれる。果たしてお守りを買えれる金が財布の中にあるかどうかだ。不安になった原因は僕がよく無駄遣いしてしまうからだ。
僕は昔親に「阿呆みたいに衝動買いしたら本間に欲しい物買われへんで。」と言われた事がある。この台詞が両親の声で再生されて喧しい。
そんな考え事をしながら歩き進んでいると家の前に着く。鍵をポケットから取り出す。扉を開けたと同時に「楽しかった。」と呟く。
今日は訪れた神社でおみくじを引けれたり、神社に居る少女が僕に昼飯を御馳走してくれたりしたから嬉しかった。この幸せに浸りつつ自宅の扉を閉めた。
第一話 神社での思い出 完