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9-1 帰還

お待たせしました。1週間お休みさせていただき、申し訳ありませんでした。

今日から週2回の投稿再開です


 辺境都市レスターでアルナイトの納品を無事に済ませたアルが、定宿にしている《赤顔の羊》亭に到着したのはマラキと別れた日の夕方の事だった。


「ただいまー」

「おかえりなさい」


 宿の前で掃除をしていたアイリスが明るい表情のアルを出迎える。


「部屋は空いてます?」


 いつも泊まっているとは言え、帰ってくる日を決めて予約をしていたわけではない。もし、空いていないとなれば別の宿屋を探さなければいけないのだ。だが、アイリスはにっこりと微笑んで頷いた。


「大丈夫ですよ。怪我とかしませんでした? 洗濯物とかあれば、出してくださいね」


 アイリスは怪我などをしていないか確かめるようにアルの周りをくるりと回り、何かふと気が付いたようにして顔を近づけ、自分と背を比べてみている。


「アルさん、身長伸びました? 前は同じぐらいでしたよね」

「あはは、ちょっと伸びたかもですね。洗濯は後で出すのでよろしくおねがいします」


 アルは照れたように頭を掻いた。


「そうそう、丁度行った先で旅の商人がいろいろと珍しい商品を売ってたんです。店の装飾にこんなタペストリーとかどうかなぁって。あと、スカーフも鮮やかなのがあったのでどうかなぁ」


 アルはそう言って、背負い袋の中からタペストリーとスカーフを取り出した。タペストリーは白い地に赤色で羊が描かれており、《赤顔の羊》亭の名前にぴったりだと思って買ってきたのだった。そしてスカーフも赤地に細かい白い縞模様が染められたものが鮮やかで美しく、ちょうど四枚あったのでいつもお世話になっているラスさんたちにと思って買ってきたのだ。どちらも隣国テンペスト王国独自の技法で作られており、このあたりでは少し珍しい柄であった。


「わぁ、素敵。アルさん、ありがとう。パパやママに見せないと!」


 アイリスは丁寧にお辞儀をしてアルから嬉しそうにそれらを受け取った。そして箒を片手に奥に走っていこうとして、慌てて立ち止まり、アルに振り返った。


「二階のいつもの部屋が空いています。アルさんはそこを使ってください。預かっていたお荷物はあとで兄さんに持って行ってもらいますね」


 アルが頷くと、アイリスは奥に走って入っていった。アルは手を振りながらしばらくその後ろ姿を見ていたが、その後は荷物を背負い直して中に入っていったのだった。


-----


 宿の食堂に顔を出すと、すでに食堂の席の半分以上は埋まっていた。アルはその中でオーソンが一人で食事をしているのを見つけて、そのテーブルに座った。


「ただいま、オーソン」

「おう、おかえり、その様子だと無事依頼は終えたのか。でも、結構かかったな。何かあったか?」


 フォークで皿の肉を口に運びながらオーソンがそう聞いた。


「うん、まぁいろいろとね。僕の場合、怪我とかがないからさ。温泉に行く理由が難しくてね」


 アルは、オーソンにアルナイトを採掘するために温泉に行くのを麓の村で鹿を狩る仕事を請け負った事でカモフラージュした事を説明した。ただし、テンペストの遺体の事は話すのを止めておく。遺体の場所はマラキが守っているとは言え、誰でも行ける所であり、この食堂だと誰が聞いているかわからないのだ。


「そうか、その年で温泉が好きっていうのは居ない訳じゃないだろうが、不思議がられるだろうからな。あそこでアルナイトが採れるのはできれば隠しておきたい」

「アルさん、今日は何にします? 今日のおススメはトンガリブタのガーリックソテーです」


 アイリスが丸いトレーをもって声をかけてきた。いつも着けている頭巾が先ほどお土産に渡した赤いスカーフに変わっていた。


「うん、じゃぁ、おススメで。あ、さっそく着けてくれたんだ。似合ってるね」

「ありがとうございます」


 嬉しそうにアイリスが微笑み、厨房に居る父親のラスに注文を伝える。その様子を見てオーソンは横でニヤニヤしていたが、急に何かを思い出して少し真剣な顔になった。


「そうだ、アル、あの宝剣なんだがな。この間、クインタから連絡があった。なんとレイン辺境伯爵家から問い合わせが来たんだってよ。それで、ちょうどキノコ祭りの頃にこっちに来る予定だったユージンとかいう子爵様に見せるって話になったらしい。その時によ、見つけた場所とか状況とかを詳しく聞かせてくれって事なんだよ。一緒に来てくれるか?」


 オーソンが言う宝剣というのは、ムツアシドラを倒した後で、犠牲になった者の骨などが散乱していた藪の中でみつけたかなり装飾が施された剣の事だ。かなり価値がありそうだったものの、由緒のありそうな品でもあったので、一緒に見つけた魔法感知に反応した指輪と共にクインタという冒険者ギルドで受付をしている女性に発見物として預けていたのだ。早速それの所有者が現れたということか。


「いつ頃?」

「キノコ祭りの数日前って事らしい。まだこの都市に着いてないから、着いたらこっちに連絡してくるって話だ」


 キノコ祭りまではあと2週間ほどだ。もしレイン辺境伯爵家の持ち物という話であればかなりの礼が期待できるかもしれない。さすがに冒険者ギルドを通じての話だ。宝剣を手に入れるための嘘などでもあるまい。


「いいよ。どうせ遠出をする予定はなかったし」

「助かったぜ。マドックとナイジェラは仕事でしばらく帰ってこないからよ、一人だとちょっとなと思ってたんだ。お前さんなら中級学校を出てて、貴族の礼儀作法もすこしは知ってるだろ。頼りにしてるぜ」


 アルとオーソンがそういう話をしているとアイリスが料理を運んできた。分厚くてよく脂が乗った肉だ。ガーリックのいい匂いがしてくる。


「わぁ、美味しそう。いただきまーす」


 アルはフォークとナイフを受け取って肉を切り分けると、ニコニコとしながら食べ始めた。


読んで頂いてありがとうございます。

月金の週2回10時投稿を予定しています。よろしくお願いいたします。


誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。


いいね、評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。是非よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] もうパトリシアじゃなくてアイリスでよくね? アリシアっていたっけ…?混ざった奴…?
[一言] 大金を払った後に闇討ちしてこそ貴族 コワイネー
[一言] 普通なら貴族なんて雲の上の存在だからねぇ なろうには割合にフレンドリーな貴族が多いけど
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