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8-10 ゴーレム、そして謎の部隊

「アル、魔力制御マジックパワーコントロール呪文で人形ゴーレムとこの上位作業ゴーレムに無理をしない範囲で魔力を補充してもらえないかね。ずっと動かしていなかったはずだが、かなりの年月が経っているようで魔力が底をつきそうだ」


 マラキ・ゴーレムは、すぐ近くに立っていた小さなゴーレムの胴体部分に手をやってそう言った。巨大なゴーレムより、身長百四十センチほどのこのゴーレムがなぜ上位なのだろうか。他の十体ある巨大なゴーレムのほうが力は強そうなのにと思いながら、アルは2体に順番に魔力を補充した。


 補充をすませた上位作業ゴーレムは動き出そうと一歩踏み出した。だが、バランスが取れずにすぐに転倒した。


「セルフチェックします」


 転倒したまま、その上位作業ゴーレムは音声を発した。このゴーレムも喋れるらしい。


「右脚に異常感知。右脚第三部位が稼働できていません」

「上位作業ゴーレム、左脚1本で立つことは可能か試してみよ」


 上位作業ゴーレムは、時間をかけて右脚は上げたまま、両腕をつかい左脚一本で立ち上がった。バランスをとっているが、なんとか立っている事は出来そうだ。


「跳ねて移動することは可能です。ただし、かなり不安定で転倒する可能性は高いです」


 身体を動かすたびに上げたままの右脚はぶらぶらと揺れて、その反動でかなりぐらついてしまっているように見える。


「右脚が邪魔にならないように固定しようか?」


 アルはそう尋ねてみる。だが上位作業ゴーレムはそれには反応しなかった。


「アル、他のゴーレムもそうだが、以前伝えた緊急停止コマンド以外の命令はテンペスト様から権限を与えられた者でなければ反応しないようになっている。そして、ゴーレムは一つの命令しか受け付けることが出来ないし、そなたの言った右脚は邪魔になるのではないかといった助言も理解できないのだよ。だから、こういうしかないのだ。……上位作業ゴーレム、その姿勢を維持せよ」


 マラキ・ゴーレムはそう命令すると、上位作業ゴーレムは片足で立ったまま、じっと胸を張った。それを確認してマラキ・ゴーレムは上位作業ゴーレムに近づき、ぶら下がっている右脚の足首をアルからロープを貰って胴体に固定した。


「上位作業ゴーレム、すこし移動して状態を報告せよ」


 上位作業ゴーレムは片足でひょこひょこと飛び跳ねるようにして移動をしてみせた。


「かなりバランスが向上しました。地面が平坦であればですが、おそらく転倒せずに移動が可能です」

「ゴーレムを使役するというのはこのような感じだ。アル、提案ありがとう。これで、移動もなんとかできるだろう。とりあえず私とこの上位作業ゴーレムならそれほど目立たないだろう。場合によっては運搬(キャリアー)呪文で運んでもらう必要もあるかもしれないが、載せてもらう事は可能だと思う。どうだろうか」


 マラキの話に、アルは頷いた。アルナイト鉱石も運ぶ必要があるのだが、以前オーソンを運んだ時の事を考えても大丈夫だろう。マラキはその様子をみて言葉を続けた。


「私にしろ、上位作業ゴーレムにしろ、本来戦闘能力はほとんどない。だが、守護ゴーレムが手に持つ魔法の矢(マジックミサイル)の杖を持っていけば少しは自分の身を守れるはずだ。他にも上位作業ゴーレムはこの墓所を作るのに使った石や金属を加工するための杖を胴体に格納している。これで、ゴーレムについてはある程度分かってもらえただろうか」


 アルは頷いた。他にも何か魔道具があるのではと興味は惹かれるが、それは後で聞くことにして、これからどうするのか、移動するとしても一時的なものなのか、それとも永続的なものなのか。


「最終的には研究塔にと思うが、アルはまだ到達できていないのだろう? それまで身を隠すのに良い場所に心当たりはないだろうか?」


 遺体を安置して大丈夫な場所。いくら梱包(パッキング)呪文や保持(リテント)呪文に守られているとは言え、屋外というわけにはいかないだろう。とはいえ、《赤顔の羊》亭で一室を借りて寝かせるなども無理だ。どこかで人の知らない洞窟などがあれば一番良いのだが……。アルはしばらく考え込んだ。


「石や金属を加工するための杖っていうのは、どんな事が出来るの? 洞穴を掘ったりとかできたりする?」

「これは杖の形をした魔道具で、石軟化(ソフテンストーン)金属軟化(ソフテンメタル)という2つの呪文を使うことができるのだ。これらの呪文は一回の行使で1立方メートル分の石なり金属なりを粘土のように柔らかくできる」


 そんな呪文があるのかとアルは感心した。魔法というのはどれだけの数があるのだろう。石軟化(ソフテンストーン)を使えば巨大な宝石が作れたりするのだろうか。金属が柔らかく出来るのなら、戦っている相手の武器はどうなのだろう。

 思わずいろいろと考え始めてしまったアルだったが、そんな場合ではないと急いで思考を切り替える。それらの検証は一旦安全な場所を確保できてからで良いだろう。それで新たな墓所を作るわけにはいかないのだろうか。アルがそう尋ねるとマラキは首を振った。


「そなたは魔力制御マジックパワーコントロール呪文が使えるから、使用回数は気にせず、時間さえかければ洞窟を作ることは可能だろう。だが、加工した石は明らかに人工物とわかる見た目で強度も加工前より落ちる。また、掘って出てきた石をどこに廃棄するのかも考えなければならぬ。簡単に新たに作るというわけにはいかない。それに時間をかけるぐらいなら、その時間を使って研究塔をめざすべきだろう」


 確かにマラキの言うとおりだった。人が来ないところ……。アルは以前にナレシュを襲った盗賊が根城にしていた廃村を思いだした。少し距離は遠いが、つい数か月前も寝たままのオーソンを運んだ経験もある。以前アルが最後に身を潜めた教会なら建物もまだしっかりしていた。


「廃村……それは良いかもしれんな。それに教会なら棺桶ぐらいあっても不思議ではないだろう。或いは他の建物などの廃材を用いて教会の鐘楼の上あたりに隠し部屋を作るのも容易だろう」


 マラキの言葉にアルは頷いた。


「でも、本当に移動するんですか? これだけのゴーレムが居るんです。さっきの魔法の杖をつかって通路を埋めるとかもできそうですよ?」


 アルは最後に確認するタイミングかと思って念押しに聞いてみた。これだけの墓所だ。おそらく数年かかって作ったに違いない。これだけあっさりと移動してしまってよいのだろうか。


「この墓所の存在は明らかになってしまった。いままでのように墓泥棒がこそこそと入って来るというレベルなら良かったが、アルが見たのはなんらかの部隊なのだろう? ということは今までとは比較にならない数の連中がやって来るという事だ。しばらく凌げたとしても時間の問題だろう。加工した岩は痕跡が残るし脆い。財宝を求めて結局はすべて掘りつくされることになるだろう。それに相手はテンペスト様の末裔が開いた国の部隊ときている。守護ゴーレムを使って一時的に壊滅させたとしても後味が悪いだけだ」


 たしかにマラキのいう通りだとアルは思った。


「じゃぁ、急いで移動の準備をしましょう。テンペスト王国が墓所を荒らすつもりがあったのかなかったのかわかりませんが、あれほどの部隊が、すでに墓の途中まで来てしまっている以上、ここにはきっと戻ってこれない。忘れ物などないようにしないと」

「そうだな」


 そうしてアルたちは移動を始めた。


-----


 アルたちが大急ぎで保存用の魔道具に安置されたテンペストの遺体などを毛布にくるみ、2体のゴーレムと一緒に墓所から湯治場の横の洞窟にまで移動したのはその日の昼をすこし過ぎた頃であった。地震で崩れた痕跡を消す作業を始めたマラキ・ゴーレムを洞窟の奥に残し、アルだけが、様子を確認しようと洞窟の入口をふさぐ崩れた瓦礫の隙間を通って外に出ると、デュランとヒースの2人が自分たちのテントを畳み始めていた。


「お帰りですか?」

「ああ、残念じゃが戻らねばならなくなった」


 アルが声をかけると、デュランが手を止めてそう答えると、腰が痛むのか叩きながら背伸びをした。


「もしかして戦争ですか?」

「いや、まだそうと決まったわけではない。見張りが山の向こう側でまたテントを見つけたらしくてな。これからどうするか会議をするらしい。どうせ、何もないと思うがのう」


 少し前に山の向こう側、テンペスト側で騎士団のテントらしきものがみつかったと大騒ぎをしたとクラレンス村の自警団のエセルが言っていたが、それがまた起こったのか。そちらとアルが墓所でみつけた部隊に関わりがあるのだろうか。


「そういえば、アルは飛行(フライ)呪文がつかえるか?」


 デュランの問いにアルは首を振る。ここでも飛行(フライ)呪文か。


「そうか。テントの様子を探るのに飛行(フライ)が使える魔法使いが居れば簡単なのじゃがな。アルは若いから、まだ持ってなくて当たり前じゃな。聞いてすまんかった。騎士団の魔法使いでも飛行(フライ)呪文が使えるのは数人しかおらぬからのぉ。以前から現場からは具申しておったのに、予算がどうとか人が足りないとか言って話は進まなんだ。今更になって懸命に育てようとしておるらしい。このまま戦争になったらとても手が足りぬ。困った事じゃ」


 それで、飛行(フライ)の呪文の書は売り切れになっているのか。浮遊眼(フローティングアイ)呪文で山の向こう側を見るというのは無理そうだ。アルなら烏かスズメなら変身できるので行けるかもしれないが、このあたりは鷹か鷲といった猛禽類が居そうで怖い。提案するのは猛禽類に変身できるようになってからの方が良いだろう。

 デュランなら現役の騎士なので墓所でみかけた旗についても知っているかもしれないと一瞬思ったが、それをどこで見たのかと尋ねられることになるので止めておくことにした。


「祖父の話をもう少し聞いてみたかったですが、残念です。お気をつけて」


 荷物を背負って麓に向かう2人を、アルはそう言って見送ったのだった。


読んで頂いてありがとうございます。

月金の週2回10時投稿を予定しています。よろしくお願いいたします。


誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。


いいね、評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。是非よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 鳥変身、既に可能。
[良い点] あんまり抵抗しても逆にすんごいお宝があるからだ!になるんかな。盗掘されてました痕があるのがいいのか、そこそこつかえそうがいいのか。正当なテンペストの後継者アイテム探しだと面倒くさいやろなあ…
[一言] さすがにパトリシアの所には連れて行かんかw 廃村はレスターから1日くらいの距離なんだっけ
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