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5-11 アシスタント

2023.6.9 レビという名前がアシスタントと商会で2度出てきているというご指摘がありました。私の誤りです。 アシスタントのほうの名前をレビからマラキに変更させていただきます。混乱させてしまい申し訳ありません。




“良いだろう。だが、空には道しるべとなるようなものはないし、座標を言ってもそなたには理解できぬであろう。そろそろそなたのアシスタントも会話をする準備ができたようだ、彼女に位置を伝えておくので聞きながら飛ぶと良い”

「うん、お願いするよ」


 しばらく間があいて、たどだどしい口調の幼い女の子の声が耳に響いた。


“アリュ……?”


 舌足らずのこの声……この呼び方?


“ねぇ、アリュ……?”


 アルの頭の中に一人の幼い少女の姿が浮かんできた。金髪の幼い少女……。手をつないで……雨の晴れ間にでかけた森、やさしい笑顔……。ちょっと待って、……まさか? アルは大きく目を見開く。


「グリィ?」


 アシスタントの声は幼い時に失った双子の妹、イングリッドの声と全く同じだった。アルは混乱した。どうして妹の声なのか……。


“そのアシスタントデバイスをそなたは握りしめ想いを込めてきたのだろう。アシスタントはずっとその温かい思いに包まれていたと言っていた。私はこういう例は聞いたことがなかったが、長い間そういう行為が続いた結果、そのアシスタントデバイスには新しいアシスタントが生まれたようだ。普通であれば最初から私のように完成した人格として生まれるのだ。魔力が極端に少ない状態が長く続いたため、機能を制限したのかとも思われるが……”


 今までなら細かなところまで説明をするマラキが珍しく歯切れの悪い説明をした。


「もしかして、イングリッドの魂がここに?」


 人が死んだときに強い恨みなどがあれば、その場所や物に宿ることがあるとアルは聞いたことがあった。人に害を及ぼすような場合はアンデッドとして滅ぼされる存在になるが、稀に家を守ったりすることもあるという。


“そのデバイスは私よりも後の時代に作られたもののようでわからない部分が多いのだ。ただし、私から知識を受け取る(ダウンロード)こともできた。つまりアシスタントであるはずだ”


「グリィ? グリィじゃないの?」


 アルは胸元からペンダントを取り出し、両手で持つと祈る様にじっと見た。


“私は……わからない。きちんと憶えているのは13日前、私をじっと握りしめてなにか魔法を使ってくれた時……その時に私は生まれ変わり、世界にかかっていた霧のようなものが晴れた気がする。それまでの記憶は曖昧なの。暗い時、明るい時、いろんな時がとぎれとぎれよ。いつも一緒なのはじっとアリュが私を握ってくれていたこと。ずっと温かい気持ちだった”


 声は記憶にあるものとそっくりだったが、話し方は3才とは思えない。とは言え、当時のイングリッドがどのような話し方だったのかはっきりとした記憶はなく、今の話し方とどう違うというのか明確に指摘することはできなかった。

 アルはぎゅっと唇を結ぶと考え込んだ。目を瞑り、かるく天を仰ぐ。そしてしばらくして口を開く。


「……僕はすごく混乱してる。何か騙されているんじゃないかという疑い、もしかしてグリィは死んでいなかったんじゃないかという微かな、いや、愚かな?希望、でも、それ以上にグリィの声を聞けて嬉しい」


 そこでアルは一度言葉を切り、深呼吸をした。ペンダントの水晶の中の光はゆらゆらと瞬いていた。


「僕はこのペンダントを大事に思ってる。爺ちゃんにもらってから、ずっと肌身離さずに持ってた。心が苦しいときはこのペンダントをじっと握ってた。だからその結果としてグリィがこうやって話しかけてきてくれたんだって事なんだよね。アシスタントなのか、本人の魂が宿ったのか、気になるけど、今はそれも全部含めて君を受け入れたい。ありがとう、そしてよろしくね。グリィ」

 

 ペンダントの水晶の光は一層強くなった。


“こちらこそよろしくね、アリュ”


 イングリッドにマラキから聞いたテンペストの研究塔の位置を聞くと、それは距離だけでも飛行呪文で丸2日飛ぶぐらい離れており、さらに高い空の上に浮かんでいるのだという。飛行呪文を手に入れるだけで行けるか、アルは少し不安になった。だが、そこに行けば確実に古代遺跡があるという話であった。

 

「では、マラキ、とりあえずテンペストさんの子孫だという姫は彼女の叔母さんだという人の所に連れて行くようにするよ。あとは彼女が生き延びられるように頑張ってみる」


 そこまで言って、アルはオーソンを納得させないといけないことを思い出した。捌けた彼の事だ。どうせ好きにしろと言ってくれるとは思うのだが……。


“うむ、よろしく頼むぞ。イングリッドも幸せにな”


 アルは再びマラキをテンペストの棺の中に戻したのだった。


-----


 翌日、アルたちは朝早くに残った鹿肉と集めた野草、袋の底に残った豆で作ったスープで腹ごしらえをすませると、麓のクラレンス村に移動した。オーソンの体重はこのひと月でかなり減っており、装具を外せばパトリシアと並んで運搬(キャリアー)呪文の円盤に座ることができたので行程はかなり捗った。そこで当面の食料と、村人の着古しであるがパトリシアとジョアンナの着替えや寝るための毛布なども調達することができたのだった。

 ジョアンナに髪を編み直してもらったパトリシアの顔は暗いままであったが、昨日夜に温泉を利用してさっぱりとしており、くすんだ金色の髪は綺麗なプラチナブロンドになっていた。目鼻立ちが整っていることもあって、かなり目を惹きそうで、逆にスカーフで隠すようにしたほどである。ジョアンナも女騎士だというのは目立つので破損の激しい鎧は服と一緒に調達してきた籐籠に入れることとし、男性農夫の服にぼろ布を巻いた剣といった服装であったが、ばっさりと切った髪もあいまって、妙に艶めかしい感じがした。町を歩くと、さぞ女性にモテるだろうといった(さま)である。


「まだ昼過ぎだな……。明るいうちにオーティスまで行っちまうか?」

 

 オーソンは空を見ながらそう呟いた。最初彼は2人の素性に驚き、同行することについて最初は恐れ多いとかどう喋ったらいいのか困るとか言って嫌がったものの、レスター子爵から礼が貰えるかもしれないと説得するとしぶしぶ納得してくれた。足元はまだ覚束ないものの、少しずつ回復はしてきており、意識もはっきりしていた。


「そうだね。ジョアンナさんの足も速いからなぁ、オーティスの街なら宿屋もある。そこまで行けば明日の夜にはミルトンの街、明後日の夜には辺境都市レスターに着けるかな」


 行きはオーティスの街から1週間かかったクラレンス村であったが、それは村の名前が判らずに尋ね歩く必要があったからであり、街道をまっすぐ行けばそれほどの距離でもない。それも湯治場からクラレンス村まで移動する際にわかったことだったが、ジョアンナは肉体強化(フィジカルブースト)呪文が使える騎士であった。さすが国王の姪の護衛に抜擢された騎士である。そのため移動については肉体強化(フィジカルブースト)呪文を使うアル以上の速度を出すことができる。比較的珍しい運搬(キャリアー)呪文を使うのであまり噂にならぬように極力人目は避けながらの移動にはなるが、それでもかなりの速度での移動を見込めそうだった。


「ああ、足の悪い俺だと下手したら1週間ぐらいかかる距離なんだけどな。運搬(キャリアー)呪文に肉体強化(フィジカルブースト)呪文か。魔法使いってのは偉ぶってるだけじゃねぇんだな。いや、単にアルがすげぇのか」


「そうだな。足場の悪い山地であるとはいえ、肉体強化(フィジカルブースト)呪文を使えるようになって以来、私が追いつけないかもしれぬと感じたのはアル殿が初めてだ。誇っても良い事だと思う」


 逃げ足で褒められてもなぁ……と少しアルは思ったが、おそらく正直な感想なのだろうと素直に受け取ることにする。


「そうですね。アル様……」


 そう言って、パトリシアは深く澄んだ緑色の瞳でじっとアルを見つめてくる。その表情は真剣そのものでアルはどうしたらいいのかわからないような気持ちになった。


「で、レスターに着いたらどうするんだ? 聞いた話だと、一応パトリシア様の事は隠したままのほうが良いだろう? でもタラ様なんて直接連絡とれるはずもねぇが」


 パトリシアの叔母であり、レスター子爵の正夫人であるタラに一般の人間が直接連絡をとれるはずもない。だが、パトリシアが身分を明かすのは隣国テンペストで政変を起こした新王の耳に入る恐れがあって極力避けたいところである。


「うん、もうそろそろナレシュ様も前期の授業を終えて帰ってくる頃だと思うんだ。だからケーンを通じてナレシュ様に連絡を取ろうと思う。あとは、それが無理そうなら、レビ様経由で直接タラ様に連絡をとってもらうかだね」


 アルと中級学校で同じクラスだったナレシュは上級学校に通っている。上級学校は中級学校と同じく前後期制で、春と秋にそれぞれひと月ほどの長期休みがある。これは故郷が遠く、普段寮生活を送っている生徒が帰郷できるようにという配慮からであった。中級学校では8月末の試験が終われば休みであった。もしそうなら帰ってきているかもしれないとアルは考えたのだった。


「なるほどな。じゃぁ、任せた。俺はしばらくアルの運搬(キャリアー)の椅子の上でのんびりと景色を眺めてることにしよう」


 オーソンの言葉に、私もとパトリシアは微笑んだ。


“私も眺めてるね”


 アルの胸元で揺れているペンダント、アシスタントのグリィも彼しか聞こえない声でそう囁いた。


ここで、第5話は区切りとします。


1時間後に連続投稿で登場人物の紹介を入れます。こちらは私の整理用でもありますので、読み飛ばしてもらっても全く問題ありません。


前書きに2回投稿であると記載してほしいとの要望があり、載せようと思いましたが実際にしてみようとすると、これはここで話が終了するのだなという予告になってしまう事に気が付きました。


載せますと言ったのですが申し訳ありません。ここで重ねて言うだけに留めさせていただきたいと思います。


******************* 本日は2回投稿です ****************************


ここまで読んで頂いてありがとうございます。

以降も月金の週2回10時投稿を予定しています。よろしくお願いいたします。


そして、誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。


いいね、評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。是非よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] グリィィィィィィィィィィィィ!!!!! え、待って待って待って待って待って。ちょ、マジで!? いやこんなん泣くわ俺。てかもう泣いてるわ。 は〜〜〜〜〜、良かった…! 良かったなぁ、アリュ……
[良い点] うう、グリィに出会えて泣きそう
[一言] 記憶力に難ありな読者なもんでため読みしました。 5話目、面白かったです。 アル君自身は気楽で自由な立場だしドラマチックさとはすぐに無縁になりそうでしたが特大のドラマが向こうから来てくれまし…
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