32-1 父からの手紙
「ただいまー」
アルは元気よくチャニング村の懐かしい自分の屋敷の扉を開けた。
「え? アル? うわっ! おかえり。急にどうしたの?」
部屋の中で用事をしていたらしいメアリーがアルに驚き、嬉しそうに飛びついてくる。4つ年下なのに身長はアルと同じぐらいになっていた。このままでは抜かれてしまうかもしれない。
「父さんからの手紙が届いてね。びっくりしてすぐに飛んできたんだ。父さんが子爵閣下になったって?」
5月、テンペスト王城でのんびりと過ごしていたアルに昨日父から手紙が届いたのだ。テンペスト王国とシルヴェスター王国は同盟関係が結ばれてはいるものの、それぞれの国内のように手紙送信呪文を使って自由に手紙をやり取りできるまでに至ってはいない。国同士の正式な使者を除けば、国家間でのやりとりは交易ギルドに所属する商人が運ぶしかなくそのため時間がかかったらしい。その父からの手紙には今年の年始に発表されたシルヴェスター王国内の反乱や論功行賞の結果として驚きの内容が書かれていた。
それによると、反乱の首謀者であったストラウドとユージン子爵は絞首刑、レイン辺境伯家とレスター子爵家は断絶、辺境伯、レスター子爵本人やその家族たちは全て貴族籍をはく奪されて平民となり、マーロー、グラディス、オーティスの街を治めていた男爵たちはまだ罪は軽いとして騎士爵に降爵、代官の地位を失う事になったらしい。
そして、以前のレイン辺境伯領は、東西に分割され、東側は王国直轄領としてセオドア王子が統治し、西側はパーカー子爵が功績を認められ伯爵に昇爵して治めることになったようだ。ここまではある程度予想できる範囲であった。
だが、次から書いてあった内容にアルは手紙を読みながら思わず驚きの声を上げた。アルの父が当主を務めるチャニング家はアルだけでなく、兄ギュスターブの、そして祖父ディーンが不当に評価されなかった分など諸々の功績によって騎士から一挙にシプリー山地全体の代官として子爵位が与えられてシプリー子爵を名乗る事となったとあったのだ。
旧レイン辺境伯領の西側1/3ほどと、あらたにテンペスト王国から組み込まれる事になった旧セネット伯爵領の一部がパーカー伯爵領であり、その寄子として、新たに辺境都市レスターの代官となったニコラス子爵(以前は男爵として国境都市パーカーの衛兵隊長を務めていた)、反乱を防いだ功を認められ旧テンペスト王国セネット伯爵領の東側(東セネット)を領地とする東セネット子爵となったセネット男爵 (ナレシュ)、その二人とならぶ地位に父は着いたということだった。
「ようやく届いたのね。ずっとアルから連絡がないし、パトリシア様に夢中でこっちの結果は気にならないのかしらってみんなで話してたのよ。母さんは止めてたんだけど、父さんが送る事にしたって言ってたわ」
「ごめん。悪い事にはならないと思って心配してなくてさ」
アルはメアリーに責められて頭を掻く。ゴーレムやアシスタント、魔道具に夢中になっていたとは口が裂けても言えない。奥から姉のルーシーも出てきた。アルに呆れた様子でメアリーは言葉を続ける。
「父さんと母さん、ギュスターブ兄さんはマーローの街よ。そこの領主館に引っ越して暮らしているわ。こっちに住んでるのはジャスパー兄さんとルーシー姉さんと私。もちろんオーソンさんもこっちよ。ジャスパー兄さんとオーソンさんはもうそろそろ鉱山から帰ってくる頃ね」
そうだったのか。アルは窓から外を見た。もうすぐ日が沈む。マーローの街まで行けなくもないが……。
「せっかくだから、今日はこっちで泊まって、明日マーローまで行ったら? 久しぶりだからいろいろと話したいわ」
ルーシーが落ち着いた様子でそう言った。前に来た時から半年以上が経っており、その間にはかなりいろいろなことがあった。
「それが良いわ。蛮族の事で相談したいこともあるし」
やっぱりか。メアリーは周りが危険だと止めるのにも関わらず、アルが中級学校に進学して家を離れた後、アルを真似てチャニング村の周囲の巡回をしていた。鉄鉱山が領地に加わるかもしれないとなった時はその周囲も巡回の対象にしていたし、今年になってからはさらにシプリー山地一帯までもが領地となったと聞いて心配していたのだ。アルが父の手紙を読んでいそいで飛んで来た理由の1つはこれだった。とてもまわりきれる範囲ではないし、チャニング村から南に行けば行くほど危険度は増す。決して安全な土地ではないのだ。危険な事をしていなければ良いのだが。
「そうだね。わかったよ」
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「とりあえず、鉄鉱山に蛮族が現れる頻度が高すぎるんだ。レスターでもこんなことはなかった。よっぽどあの鉱山は重要な所だったんじゃねえかな? そうじゃないとあの鉄鉱山に蛮族が頻繁に集まってくる理由が思いつかねぇ。あそこに砦みたいなのを作ったのはアルだろ。その時はどうだった?」
兄のジャスパーやオーソンたちが帰って来て再会を喜び、アルが帰りに捕まえてきた鹿や研究塔からもってきたワインを楽しみながら一緒に食事を済ませた後、4人は屋敷の食堂でとりとめもなくおしゃべりをしていたが、その時にオーソンが言い出したのはこんな話だった。そんなにたくさん蛮族が出ただろうか。
「うーん、たぶん、1日に数体、多い時で10体ぐらいだったよ? ゴブリンがほとんどかな。たまに狼みたいな魔獣が出た。不意打ちされるのがいやだったから壁を作り始めて、そのうち楽しくなって砦まで作ったんだ」
鉄鉱山に居たラミアを倒した後、鉄鉱山でしばらく暮らしていた時の事を思い出しながらアルは首をひねったが、それにオーソンはやっぱりなと呟いた。
「1日に10体のゴブリンは多いと思う。それもアルは空から周りを警戒するからやってくるたびに見つけることが出来たんだろうが、俺たちの場合は歩いて巡視しているから見過ごしてしまうことも多い。メアリーには本当は頼るべきではないと思っているんだが、一番よく地形を理解してて彼女のおかげで見つけることのできたのも多いから、ダメだとは言えない状態なんだ。それでも先月は30体ぐらいの集落を2回も作られた。今までのところはネヴィルや鉄鉱山の守備隊と協力してなんとか被害をださずに討伐できているが、これを繰り返すのは危険だと思う」
ミュリエル川を越えたところで鉄鉱山を見つけるまでは、対岸の状況はよくわかっていなかった。川のこちら側にゴブリンが集落をつくるのは年に1度あるかどうかぐらいの頻度だった。それに比べれば多いのは確かだ。
「ちょっと待ってね」
アルはトイレに立つと偽って一度席を立ち、小声でグリィに相談をした。
「たしか、コーリンからシプリー山地の蛮族集落にプレンティス侯爵家から依頼を受けてラミアたちが食糧を運んでいたという話を聞いたって言ってたよね。この近くに蛮族の大きい集落ってあるの?」
“プレンティス侯爵家がシプリー山脈で鉄鉱山の他に食糧を運んでいたのは、ここから南に10キロ程行ったところにある大きな蛮族の集落とマーローの街の西でナッシュ山脈の麓あたりの中規模集落の2箇所みたいね。蛮族集落自体は他にもあるらしいけど、鉄鉱山のあった所以外で食糧を運んでいたのはその2箇所よ”
2箇所か。以前、鉄鉱山でラミアを仲介役として蛮族に穀物入りの樽を渡していたプレンティス侯爵家の大魔導士エマヌエルを浮遊眼呪文の眼で追跡した際に、ホブゴブリンやゴブリン100体ほどが暮らしている集落にも立ち寄ったのを見た。あの時は、人々が住むところからは離れていたし魔導士を告発することや鉄鉱山の事に気を取られていることもあって、結局そっちの集落に対する対処はしなかった。しかし、鉄鉱山に蛮族が流れて来るとすれば、そういったところからなのかもしれない。プレンティス侯爵家自体は滅びたがまだ影響は残っているということか。
「中規模集落って前に見た事のある所? どっちも座標はわかる?」
“たぶんそうね。そっちはだいたいわかるわ。大きな集落は上位種ラミアに他のラミアが報告していたのをコーリンが聞いただけだから正確な場所はわからないわね”
2箇所の蛮族集落を潰しても根本的な解決にはならないだろうが、時間稼ぎにはなるかもしれない。大きな集落の方は潰せるかどうかもわからない。調べてみるしかない。
食堂に戻ったアルは鉄鉱山の警備体制をどうするかといった事を話していたみんなに話しかけた。
「父さんや兄さんに会って早くお祝いしてあげたいけど、こっちのほうが気になる。とりあえず、明日、空から鉄鉱山の周りを調べてくるよ」
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