4-1 冒険者ギルドにて
オーソンを見送って数日経った夕方の事だった。その日の仕事を終わらせたアルは冒険者ギルドを訪れて依頼の木の札をじっと眺めていた。稼げてないわけではなかったのだが、呪文の書がすぐに買えそうなほどに大きく稼げるわけでもなく、この都市に来た目的である古代遺跡発見への手がかりも全くない。現状を打破できるようなことは無いかと考えていたのだ。
「あんたは、たしかアルとか言ったね。今日はどうしたんだい?」
丁度冒険者ギルドのカウンターには彼が最初にここに来たときにも居たクインタという女性が居て、アルに話しかけてきた。午前中は混雑している冒険者ギルドであるが、この時間ともなれば訪れる冒険者の数も少ない。
「ああ、いい仕事がないかなぁって」
クインタは怪訝そうな顔をした。彼女の耳には最近活躍している新人として彼の名前が時折聞こえてくることがあった。稼ぎなどについて詳しくは知らないが、仕事に困るほどではないはずだった。
「そこそこ稼いでるんじゃないのかい?」
「んー、オーソンさんに色々と教えてもらって、生活していくぐらいはなんとか……」
アルはそう言いながらも依頼のかかれた木の札を眺めている。
「ああ、そうだったのかい。そういえばあいつが最近、若いのと組むようになって元気になったって聞いてたが、お前さんの事だったんだね。そりゃぁよかった。ありがとよ。心配していたのさ。でも、もしそうなら、どうして仕事を探してるんだい?」
クインタはアルの話を聞いて何度か頷いたが途中で首を傾げた。彼女はオーソンの事をよく知っていた。彼は経験豊富な冒険者だ。彼と組んでいる以上、おそらくというか確実に稼げているだろう。
「オーソンさんは別の依頼で数日前から出掛けちゃって、今は僕一人なんですよ。それに僕はこっちに古代遺跡が多く残ってるっていうから来たんです。だから、できるだけいろいろと歩き回りたいんです。なので、そういう仕事がないかなぁって思って」
そこでようやくクインタは納得した。そして彼のおかげでオーソンが元気になっているのならその礼も兼ねて何かいい仕事を紹介してあげようという気になった。
「もしあんたが魔法使いとして働く気があるならいいのが1つあるよ。ここから先の辺境の村を回る隊商の護衛の仕事だ。そういうところを巡りたいんだろ」
アルは目を輝かせて、クインタの居るカウンターに飛びついた。
「そうです、それそれ。そういうのが良かったんです。でも魔法使いとしてですか? 斥候じゃダメ?」
アルは少し思案顔で尋ねた。魔法使いとしてやっていく自信はまだなかった。
「戦士や斥候は希望者がいっぱいいるからね。ギルドとしてももっと実績がないと紹介できないね。ただし魔法使いはどこも手が足りてない。魔法感知呪文は使えるんだろ? それなら見習いとして紹介してあげるよ。他に魔法使いも居るからそれのやり方を見て覚えたらいい。ただし、あまり稼ぎは期待しちゃだめだよ」
見習いと聞いてアルは少し安心した。オーソンや他の人からもお前の魔法はすごいと言われていたものの、きちんとした師匠が居たわけでもなく、それほど自信があるわけでもなかったからである。それも他の魔法使いと一緒の仕事であれば護衛の仕事でどのように振舞えばよいのか知ることもできそうで、彼としては有難い限りであった。
「もちろんです。よろしくお願いします」
「じゃぁ、明日も仕事を終えてからでいいから顔をだせるかい? それまでに雇ってもらえるか聞いておく。とりあえず1度試しにってことでいいね。長期契約になるかどうかはその後自分で交渉しておくれ」
アルはうんうんと頷いた。初めての魔法使いとしての仕事である。非常に楽しみであった。
-----
翌日の夕刻、仕事を早めに切り上げて冒険者ギルドを訪れたアルに、クインタは北一番街のエリックという魔法使いの屋敷を尋ねるように告げた。クインタの説明では、護衛任務の契約自体は交易ギルドだが、そのエリックというのが今回の仕事でのアルの直接の上役になるらしい。彼が役に立ちそうだと認めないと雇ってくれないという話であった。
彼の屋敷はすぐに見つかった。貴族が住みそうな立派なお屋敷で周囲は塀で囲われており、鉄格子の門のところには門番小屋があってそこには使用人らしい初老の男が座っていた。
「こんにちは。ここはエリック様のお屋敷ですか?」
「ああ、ぞうだ。何が用か? 弟子入りなら受け付けではおられんがらざっざと帰れ」
その使用人は酷いだみ声であった。言葉のところどころが濁ってしまい酷く聞きづらい。
「あの、アルといいます。冒険者ギルドの紹介で、隊商の護衛についてこちらを訪ねるように言われました」
男はアルをまるで品定めするかのようにじろじろと見た。
「ぞうか、若い男という話だったが、ほんどうに若いな。ぢゃんと魔法は使えるのだろうな。エリッグ様は厳しいお方だ。もし使えぬのに使えると嘘を言っておるのであれば今のうちに尻尾を巻いて帰った方が良いぞ」
アルはにっこりとほほ笑み大丈夫ですと答えた。男はしばらくいぶかしげにアルの様子を見ていたが、仕方ないとばかりにため息をつくと鉄格子を開き、アルを迎え入れたのだった。
読んで頂いてありがとうございます。
月金の週2回10時投稿を予定しています。よろしくお願いいたします。
誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。
いいね、評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。是非よろしくお願いします。