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23-12 救出


 アルたち4人は茂みを利用して石塀沿いの所まで移動した。石塀に身体を貼りつかせるようにして見つかった様子はないか周囲を再確認する。ここまでくればもう石塀の上の見張りからは死角となって見えないはずだ。


「ここでいい?」

“あと2メートル進んで……うん、そこなら向こう側に茂みがあるから大丈夫。高さ2メートルまでにしてね”


 おおよその位置まで移動するとアルは小さな声で確認する。グリィからはすぐに返事が返って来た。彼女は先ほど周囲を一周してきたときに遠くから見た様子に照らし合わせて、穴を開ける場所を判断してくれているのだ。


“レビ会頭。見張りは大丈夫ですか?”

“大丈夫だ”


 念話で確認もしておく。ここからはもう一気に行くしかない。


「いきます」

石軟化(ソフテンストーン)


 アルは石塀に穴を開けた。石塀自体の厚みは50センチほどで、それも素材は石だけであったので、形を変えるには全く問題はない。開けた穴の分、余ってくる石材を十センチぐらいのでっぱりとして石塀の表面に大量に貼りつける。呪文として習得し、鉄鉱山の採掘場にまるで砦のような建造物をつくることによって熟練度を上げたアルには容易なことだった。


 足場が出来たのを見て、ブレンダは軽く頷き、出来上がったばかりのでっぱりを利用して身軽な様子で壁をよじ登り始めた。その一方でアルたちは穴をくぐって中に入り、木の茂みから敷地の様子を見る。人影は見当たらない。頭上には見張りが通るための幅2メートルほどの石の通路となっているのだが、それを支える石の柱が5メートルおきぐらいに設置されていた。


 少し待っていると頭上で騒ぎ声が起こった。おそらく石塀の上に登ったブレンダが戦いを始めたのだろう。敷地のほぼ中央、アルたちからすると三つの建物の向こう側にあるおおきな屋敷のほうでもブレンダが起こした騒ぎに気付いたのか動きがあるのが見える。アルとレジナルド、オーソンの三人は視線を合わせ頷きあった。ブレンダは十分注意を惹いてくれているだろう。三人は一気に走り出す。


 アルたちの潜んでいたところからレビ会頭たちが監禁されている建物までは約100メートル。走っておよそ20秒というところだ。一気に走り抜け無事にその建物の壁にたどり着いた。

 オーソンは左右に誰かいないのか目配りをしている。レジナルドはレビ会頭の事が余程気になるらしく、既に予備の武器を数本抱え込んでいた。アルは石軟化(ソフテンストーン)呪文を再び使って人が通れる穴を開けた。微かに感じられる頭痛……あと何回使って大丈夫だろうかと不安になる。穴が開いたと同時に、小さな声で大丈夫ですかと言いながらレジナルドが中に飛び込んでいく。


 ガシャン!


 いきなり、隣の建物の壁が崩れた。距離は20メートルほどしか離れていない。馬車小屋だろうと見当をつけていたのとは別の建物である。崩れた壁の中には10人ほどの男たちが居た。男たちの中心に居るのはユージン子爵の部下ブルックだった。ブルックは得意げににやりと笑う。これは罠だったのか。魔法発見(ディテクトマジック)には反応がなかったので完全に意表を突かれた。


「待ち伏せだ」


 オーソンがレジナルドに声が届くように叫びながら、槍を片手にアルを庇って前に出る。


「やれ」


 ブルックの指示で6人の男たちがまっすぐこちらに突っ込んでくる。ブルックと4人は建物から出たあたりで止まった。そのうち2人はクロスボウ、1人はロングボウを持っている。


素早い(クイック)魔法の矢(マジックミサイル)


 アルは剣を片手に持ち向かってくる男たちに魔法のマジックミサイルを放つ。魔法の衝撃波マジックショックウェーブ呪文が一番よかったのだが、この男たちとの距離が短く間に合いそうになかったのだ。飛び出した矢は4本。一般的にはこれで十分と言われるかもしれないが、アルとしてはまだ満足できるほどの熟練度にはなっていない。向かってきた男たちは6人居たが、4人はアルの魔法のマジックミサイルを胸に受けて倒れた。残りの2人はオーソンが槍を振るって足止めをした。そのうち1人はそのまま止めを刺す。


「金髪の小僧を狙え」


 ブルックの指示に飛び道具を持っていた三人が一斉に矢を放つ。


<射射>射撃闘技 --- 5回射撃

<速射>射撃闘技 --- 2回射撃

<雨射>射撃闘技 --- 矢の雨


 射撃の闘技! アルはそれらがどのようなものなのかよく知らなかった。クロスボウの二人が使った<射射>と<速射>はそれぞれ複数攻撃の闘技、ロングボウが使った<雨射>は斜め上に矢を放つと、放物線を描いて大量の矢が対象の一定範囲に降り注ぐ集団攻撃の闘技である。幸い、直線で飛んで来た<射射>と<速射>の合わせて7回の攻撃は、エリック救出の際に使用した(シールド)呪文の効果が残っており、六角形の光がそれを防いでくれた。だが、一拍置いて、山なりに雨のような矢がアルとオーソンを襲う。


素早い(クイック)鎧作成(クリエイトアーマー) 全身金属鎧』


 アルは咄嗟にラミア討伐の際に使ったのと同じ呪文を使った。全身が金属の鎧で覆われる呪文である。矢の闘技であれば金属鎧なら耐えれるのではないかと思ったのだ。だが、それは半分正しく、半分は誤りだった。頭部に降り注いだ矢は弾けたものの、曲線の少ない背中側などでは矢尻は金属鎧を貫通したのだ。何箇所か背中、肩のあたりに熱いものを感じる。


「くっ……う……」


 思わず痛みに声が出た。だが、そこで矢が当たる音は止んだ。辛うじて致命傷にはならずに済んだらしい。


 一方、オーソンは槍を振るって山なりになって降って来た矢を打ち払った。ほとんどの矢は地面に落ちる。だが、防ぎきれなかった1本が左腕に突き立った。オーソンも思わず「うぐっ」と唸る。その衝撃で槍を落とした。だが、その程度で済んだのは幸運だったと言うべきだろう。


 アルはよろめきながらも矢の雨が止むのを待って素早い(クイック)鎧作成(クリエイトアーマー) 呪文を解除した。肩と背中に刺さっていた矢はそれほど深くなかったようでそのまま地面におちた。


「アル、大丈夫か?」


 オーソンが剣を抜き、いままで戦っていた男を右手一本で斬り下げる。矢が刺さったままの左手は利かないらしくブランとしたままだ。


 それとほぼ同時にレジナルドが焦った様子で空いた穴から飛び出して来た。彼の後ろに武器を持った2人の男女が続く。


「すまん!」


 レジナルドはそう叫ぶなりオーソンの横を通り抜けた。その勢いのままブルックを守ろうと剣を持って構えていた男を蹴り飛ばし、ブルックに斬りかかる。続いた2人もクロスボウやロングボウを構えていた男たちに斬りかかった。


「銀髪の男がブルック、ユージン子爵の部下だよ!」


 アルの背中を生温かいものが流れている気もするが、それを気にしている場合ではない。身体は動くから大丈夫だろう。レジナルドたちが戦いに加わり、人数はほぼ同じ。ブルックはできれば捕らえてパーカー子爵に引き渡したいところだ。


麻痺(パラライズ)


 アルの呪文が効き、ブルックを含めてまだ戦っていた男たちの動きが急に鈍った。抵抗されることなく、全員に呪文の効果があったらしい。


「後は任せろ!」


 レジナルドが下から上に剣を振るいブルックの剣を弾き飛ばした。続けてその喉元に剣を突き付ける。その横でクロスボウやロングボウを持っていた男たちのうち、クロスボウを持っていた2人は腰の剣を抜く暇なくレジナルドの後に続いてきた2人に斬られ、残りのロングボウの男にはオーソンが剣を突き付ける。

 そうして、ブルックとレジナルドに蹴飛ばされて倒されていた男、そしてロングボウの男はこれ以上抵抗できず、両手を上げて降参せざるを得なかったのだった。


読んで頂いてありがとうございます。

月金の週2回10時投稿を予定しています。よろしくお願いいたします。


誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。


いいね、評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。是非よろしくお願いします。


冒険者アル あいつの魔法はおかしい 書籍版 第1巻~ 第3巻 発売中です。

山﨑と子先生のコミカライズは コミックス1巻、2巻 発売中

        Webで第12話が公開中です。

https://to-corona-ex.com/comics/163399092207730


諸々よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
オーソン想定以上に強かった だがまた傷物に 何かヘンなの憑いてない?
返答ありがとうございます。ここで言う『アルの鎧』とは普段着ている大口トカゲの鎧のことです。魔法で鎧を作るとその鎧の上から更に魔法の鎧を作ると思ったので、弓が二重の鎧を突き破ったのかが気になっての質問で…
魔法がある世界で細かい事はとも思いますが... クロスボウで2、5連射とか撃った後に矢が分裂したりするような設定なのでしょうか? アローレインは弓スキルとしては良くある類いのものですが、一本で撃った矢…
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