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23-3 敵の正体 前編

「やばいね。向こうにはプレンティス侯爵家の魔導士が、それも2人以上居そうだよ」


 アルは近くに居たデズモンド、レジナルド、レダの三人にそう告げた。オーソンがプレンティス侯爵家の馬車を直接見たことはないはずだが、紋章のない特徴的な馬車だ。見間違いの可能性は低いだろう。本当は屋根のところに目立たないように書いた数字を確認したいところだが、その余裕はない。一応魔導士が居るという前提で進めるほうがいい。


「え? どうしてわかったんだ?」

「今、オーソンと念話で話した。オーソンは別荘の近くに残って様子を見てるって言ってたでしょ?」


 アルは今聞いたばかりの情報を伝える。三人は顔を見合わせた。


「馬に乗って先に出たというのは騎士なのか?」


 アルはそこまではオーソンに尋ねていなかったと改めて質問する。騎士ではなく、馬に乗った傭兵みたいな連中だという返事が返って来た。この二つは戦力として全然違うらしい。


「そうか……」


 デズモンドたちは腕を組んで考え始めた。その様子を見て、アルは自分の知覚強化(センソリーブースト)呪文を暗視と弱い望遠 から 触覚と弱い暗視に切り替えると、地面に這うようにして両手と頬を地面に付けた。ユージン子爵の別荘までもそれ程離れてはいない。地面を通じて伝わる振動は、微かだがその存在を伝えてきた。


「南東と北東に騎馬が居るよ……それぞれ10前後。どっちも西に向かってるけど、それほど早い速度じゃない。こっちを迂回してるのかもしれない。さらに東に多数の足音と馬車……もう出発したのかな?」


“武装した連中が出発したぞ。馬車2台もいっしょだ”


 アルが確認したのとほぼ同時にオーソンからも念話が伝わって来た。その情報も三人に伝える。


「普通なら、まっすぐに全部そろってこっちに向かってくるはずだ。まさか包囲して絶対に逃がさないようにしようと考えているとか?」


 レジナルドが自信なさげにそう話す。


「いえ、たしかに可能性はあるかもしれません。一応その方向で考えて行動すべきでは? しかし、それだと逃げるのは難しいのかも」


 レダが不安そうにそう言う。最悪の状況を考えて行動することは大事かもしれない。この状況だと同じところに留まっているのは危険だろう。じっと考え込んでいたデズモンドが口を開く。


「アル、以前、バーバラに使った暗視の魔法をメンバー全員に使ってもらうことはできるか? あと、空からこの森の地形を確認して、待ち伏せできそうなところを調べて欲しい」


 地形はわかるが、待ち伏せ出来るというのはどういう事かわからない。アルは一旦首を傾げたが、あまり話をしている時間もないと判断して浮遊眼(フローティングアイ)の眼を上空に移動させつつ、デズモンドに呪文を受け入れるように念を押してから知覚強化(センソリーブースト)呪文で暗視を付与する。

 

記録再生(レコード&プレイ) 再生 1メートル平方』


 今浮遊眼(フローティングアイ)の眼に映っている森の情景を記録再生(レコード&プレイ)呪文を使って記録し、それをすぐに目の前に1メートル平方の枠を作ってそこに映し出して見せた。


「今、僕たちが居るのはここ、振動から伝わってくる騎馬の2つの部隊の位置がこことここ、そして、馬車を含む本隊と思われる部隊の位置はここだよ。待ち伏せに適したといってもわからないから、これを見て判断してくれる?」


 映し出されている森の情景に、それぞれの位置を示す石を置く。デズモンドとレジナルド、レダは顔を見合わせた。


「移動はゆっくりしかしていない。相手も明りをつけていないからだと思う。それと、暗視を出来る呪文は時間がかかるよ? 相手に触れて呪文を受け入れてもらうという形じゃないとこの呪文は付与できないので一人づつになる。それも同じ呪文をパパパッって連続で使えるわけじゃないから、間に10秒ぐらい間をあける必要もあるんだ。全員だとあと20人は居るから、4、5分ぐらいはかかるかな?」


 そう言いながら、次は……といった様子でアルはレジナルドに触れ、知覚強化(センソリーブースト)呪文で暗視を付与した。あと19人と呟く。


 森の情景をじっと見ていたデズモンドが大きく頷く。


「バーバラがアルの使う呪文はすごいって言ってたのがよく判った。ほんとすげぇな。よし、地形は頭に入った。馬と荷物はここに置いて、まず北の騎馬の連中を叩く。先頭は暗視が効いている俺とレジナルドが務める。ロープを持って走るから、まだ暗視が付与されていない連中はそのロープを掴んで必死についてきてくれ。アル、移動中に列の後ろから順番に付与してもらえるか? レジナルドのロープを掴んでいるやつ優先で、俺のロープをもってるやつはその後だ」


 暗い森の中をその状態で走ると言うのか。たしかに全員に付与するのを待っていれば本隊らしい連中に捕捉されてしまいそうではあるし、体格からするとデズモンドが圧倒的に大きいのでそれが理にかなっているのかもしれない。人を指揮した経験のないアルは戸惑うばかりだが、デズモンドは自信満々だ。できると判断しているのだろう。

 そして、相手は二手に分かれているので10人ほどの集団でしかない。この暗闇で不意を突くことができるのならうまく倒せそうだ。そうすれば逃げ道を遮断される恐れはなくなり、危なくなった時には逃げ出しやすいだろう。


「わかったよ。レダ様とあと2人、僕の後ろに運搬(キャリアー)の椅子を作るからそこに座って」


 順序はすぐに決まり、荷物は下生えの茂みに簡単に隠した。アルはその間に運搬(キャリアー)呪文を使い、その椅子にレダを含めて3人を乗せた。


「じゃぁ、行くぞ」

「わかった。出発」


“こっちは移動するね。騎馬が僕たちを包囲しようとしてるみたいだから、まずそっちを先に倒して、逃げられるようにするんだと思う。念話が切れちゃうかもしれないし、オーソンの方は上手く判断して必要なら逃げて”

“わかった”


 オーソンには念話で説明しておく。捕まったりしないように注意して欲しい。危険と判断したらその場を離れてもらっていいのだ。 アルはふわりと浮き、先を走るデズモンドとレジナルドたちの後を追いかけ始めた。


-----


麻痺(パラライズ)

魔法の矢(マジックミサイル)』 


 馬の手綱を引きながら移動している集団に対して、アルとレダは念話を使ってタイミングを合わせ、同時に呪文を唱える。そして、それを合図のようにしてレビ商会の傭兵団は前後から同時に襲い掛かった。アルを含むレジナルドが率いる隊は前から、デズモンドが率いレダの居る隊は後ろからだ。それぞれの隊の弓使いの矢が馬に当たると、その集団が曳いていた馬は竿立ちして暴れ出す。たちまち集団は大混乱となった。


「うぎゃぁああ」

「なんだ? なんだ?」

「ひぃいいい」


 暗闇の中で馬に蹴られるものなども出て、すぐにその集団は組織として戦うどころではなくなった。近くの仲間を斬る者なども居て、戦いはあっという間にレビ商会の傭兵の勝利で終息する。レビ商会側では馬に噛まれた者が1人、転んで足をくじいた者が1人居たぐらいで、大きな怪我をした者は誰も居ない。大勝利であった。

 レジナルドとデズモンドは倒れている敵方の集団の一人一人の顔を見、息のある者は縛り上げつつ、身分を示すものなどがないか調べ始めた。


「指揮していた2人の正体はわからないが、他は輝ける盾が1人、黒いナイフ団が3人、セブンスネークの連中が4人だな」


 輝ける盾とセブンスネークというのはアルも聞いたことがあった。前者の輝ける盾というのは有名な傭兵団で、普段は隊商の護衛などの依頼をこなしているが、26年前のテンペスト王国との戦いに参加して武勲を上げたという歴史をもつ傭兵団である。

 そして、後者のセブンスネークは領都のスラム街で麻薬を取り扱い、暴力を売り物にしている悪名高い組織だ。二の腕に数字の7と蛇のタトゥを入れて仲間同士の結束の証としており、何度も衛兵隊が取り締まりをしているが、組織の幹部はいつも捕まらない事で有名だった。

 少なくとも表向き、輝ける盾とセブンスネークに繋がりがあるとは思えなかった。どちらかというと敵対関係にあるもの同士だろう。どうして、その2つがここに居るのかわからない。


「2つは判るけど、黒いナイフ団っていうのは?」

「輝ける盾と同じく傭兵団だ。あんまり評判はよくなかったが、安く護衛任務を受けるというので最近人を増やしてるって話は耳にしてた。しかし傭兵団が2つも他国に身売りするとはな」


 傭兵団が他国の利となるような活動をするのは当然ながら違法行為である。わかってやっていたのだろうか。


「ユージン子爵が雇い主だとしたら、知らずにいたのかも?」

「セブンスネークが混じってる時点で、怪しいと考えるべきだろうと思うがな」


 レジナルドが吐き捨てるように言う。


「輝ける盾と黒いナイフ団はどうしてそれだとわかったの?」

「こいつさ」


 そう言って、デズモンドは白い小さな金属製の盾の形のペンダントと大振りの黒いナイフを見せた。おそらくそれが隊員の証ということなのだろう。脱退した元メンバーというのならそんなのを身に付けてはいなさそうだ。ということは正規メンバーか。


「そのアクセサリとナイフ、あと髪の毛と服を貰っていい? 潜入につかえるかもしれない」

「他は良いが、服は上着だけにしてくれ。時間が無い。本隊に追いつかれる前に、もう一つの騎馬部隊も潰しておきたいんだ」


 えっ? とアルは驚いた顔をした。逃げ道を確保したので、てっきりここから逃げ出すのだと思っていたのだ。そう説明すると、デズモンドはにやりと笑い首を振る。


「何を言ってるんだ。こっちは見えて、向こうは見えないんだぞ。それもこっちは相手の位置がわかってるときた。こんな圧倒的に有利な状況は滅多にない。残ってるもう一つの馬の別動隊を潰した後は、本隊にもできるだけ損害を与えておかないとな。会頭を救出する必要があるんだ。逃げ出すのはその後さ」


 敵には魔導士がいるというのに大丈夫なのだろうか。デズモンドの言う事もわからなくはないが、不安が募るアルであった。


読んで頂いてありがとうございます。

月金の週2回10時投稿を予定しています。よろしくお願いいたします。


誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。


いいね、評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。是非よろしくお願いします。


2025.7.18 東西間違えていたので修正しています。

「南西と北西に騎馬が居るよ……それぞれ10前後。どっちも東に向かってるけど、それほど早い速度じゃない。こっちを迂回してるのかもしれない。西の方に多数の足音と馬車……もう出発したのかな?」

 → 南東と北東に (中略) どっちも西に (中略) さらに東に


冒険者アル あいつの魔法はおかしい 書籍版 第1巻~ 第3巻 発売中です。

山﨑と子先生のコミカライズは コミックス1巻、2巻 発売中

        Webで第12話が公開中です。

https://to-corona-ex.com/comics/163399092207730


諸々よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
レビ商会チームからすれアルのサポートでの奇襲がようやく得た突破口の筈です 有利なうちに一気に決めたいですよね 馬車は無難で「身内にだけは識別できる」と便利に使われてたっぽいですね お揃いが何台もある…
今回かなり魔法を使ってますね MP切れが不安だなあ
相手に魔法使いがいるとするのであれば倒した相手を喋れないようにするとかしているのかは気になる所ですね
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