21-6 管理者権限
“入室権限かな? もしかしたら警備装置やゴーレムに対しての権限かもしれない。どちらにしてもラッキーね”
管理者権限証とは一体何だろうとアルが考えているとグリィがそう言った。わざわざここにあるのだ。部屋の出入りの権限を管理するのか、或いは警備用のゴーレムや警備装置を保守作業する際に使うのか、確かにそういったものである可能性は高いだろう。
「じゃぁ、これを持って部屋に入り直す? 三階も行けるかな?」
“試してみましょ。まずは二階ね”
部屋にあった魔道具を全てマジックバッグに回収し終えたアルはグリィの言葉を信じて天井裏に開けた通路を戻り扉の前に戻った。
「いくよ」
管理者権限証を掲げるように持ちながら、恐る恐る扉を開ける。
「どう?」
“うん、今、交信してる。わっ、すごい、施設の管理者権限よ。警備装置やゴーレムにも命令できそう”
扉に貼り付けられた魔道具の赤い光が点滅し、緑色に変わった。
“いいわ。管理者権限が私たちにもあるって認めてくれたわよ。扉も開くはず。試してみて”
入室権限が認められたらしい。
「カードが無くてもいいの?」
“うん、もちろんよ。研究塔と同じね”
たしか、グリィは身分証としての機能を持っていて、研究塔でもパトリシアから与えられる形で管理者の権限を得ていた。それと同じということだろうか。
グリィの言葉を信じて、アルはカードを一旦ベルトポーチにしまい、魔道具の貼り付けられた扉のノブを掴んだ。いつでも攻撃されたら避けられるように身構えながらノブを回す。そっと中を覗き込んだ。
中に立つ両手が剣になったゴーレムののっぺりした顔が見えた。先程は浮遊眼での視覚だったので気付かなかったが、実際の眼でみると顔は人形ゴーレムのそれとよく似ている気がした。全身がつや消しの黒に塗られており、スマートな人形という印象である。両腕には金属製の筒となっていて、さらにそこから一メートルほどの鋭い両刃の剣が伸びている。
「大丈夫そうかな?」
完全に扉を開け、慎重に中に入っていく。ゴーレムは動かない。
「魔力切れとかじゃ?」
“違うわ。反応は返ってきているもの……。命令してみて”
命令? ふむ……。
「ゴーレムたち、右手を上げて」
アルがそう言うと、部屋の両端に並んだゴーレム4体は剣のついた右手をさっと上げる。
「おーっ、ちゃんと普通の言葉でも通じるんだ。これも持って帰れるかな?」
“管理者権限があるから問題ないはずよ”
ここにあるゴーレムはどれほど強いのかわからないものの、背後を守らせたり、拠点の警備をさせたりといった事に使えるのではないだろうか。研究塔にある守護ゴーレムはサイズが大きいので場所を選ぶが、このサイズなら人間が入れるところならどこでも連れていけそうだ。
このゴーレムが四体か。もし、魔道具のついた扉の前でグリィがすぐに出てと言ってくれなければ、魔道具のついた扉を詳しく調べたり、解錠呪文で開けようとしたりして、このゴーレムと戦いになってしまっただろう。であれば、もし勝てたとしても壊してしまわざるを得なかっただろう。グリィが居てくれてよかった。これは呪文の書とはまた違う形のお宝だろう。
「じゃぁ、ゴーレムたち。まっすぐに立った状態で機能停止」
ゴーレムは直立不動の体勢となった。そのまま動かなくなる。その状態でアルは4体のゴーレムをマジックバッグに収納した。
「権限を管理してたのはあの扉の魔道具?」
“ううん、扉の魔道具はその端末にすぎないわ。全体を管理しているのは三階にあるみたい。かなりの年月が経っているはずなのに、この管理している魔道装置が動いているというのは珍しいわね。もしかしたら魔力伝送網が使えるか、或いは研究塔みたいに魔力生成装置があるのかも? でもそれにしては植物を育てていた所の魔道具では魔力切れを起こしていたのが不思議ね”
魔力伝送網を使うなら、銀色の球体の構造物が必要だろう。だが、ここを空から見た時にはそのようなものが見当たらなかった。あるとすれば太陽のエネルギーから魔力を生成する魔力生成装置だろうか?
「とりあえず三階に行ってみればわかるさ。同じような扉があるはずなんだよね」
“うん”
アルは警戒しつつ三階まで上がる。三階の区画は二階と同じように閉ざされ、鍵がかかっていた。この鍵は実体のあるカギが必要で管理者権限でも開かないらしい。念のために罠などが仕掛けられていないかを確認した後、解錠呪文を使う。
カチャリ
「ルウドよ、幸運を」
アルは呟きながらゆっくりと扉を開ける。そこは二階と同じ魔道具付きの扉のある小さな部屋だ。入るとすぐに魔道具に灯っていた赤い小さいランプが緑色に変わる。
「おお、認証されたってこと?」
“うん、早かった”
アルはしばらく様子を見たが大丈夫そうだ。魔道具付きの扉に近づいていく。なにも起こらない。そのままノブを回すと簡単に扉は開いた。部屋の中には真ん中に2つの魔道装置が置かれていた。片方は一辺2メートル、もう片方は一辺60センチの共に立方体をした魔道装置だ。表面には管のようなものや丸型で中心の指針が動く表示器らしきものがゴテゴテとついている。大きい方の魔道装置から太い管が三本、天井に繋がっていた。そしてそれらを守る様に二体のゴーレムが立っている。下にあった四体と同じように両腕が剣となっているタイプのものだ。そして床にはたくさんの魔石が転がっていた。
「なんだろ……これは……」
普通の魔道具なら回収して持って帰ればよいし、小さい方の魔道装置はそれでも大丈夫そうだが、大きい方の魔道装置は天井に繋がっている管があり、このままではマジックバッグには収納できない。切り離す必要があるが、どうすればよいのかがわからない。
“うーん……マラキなら判るかも?”
そうか、研究塔に着いた時、研究塔の魔力生成装置についてはマラキが調べていた。もし、これもそうならある程度わかるかもしれない。
「なるほどね。じゃぁ、聞いてみるか」
アルは念話の指輪を起動し、パトリシアにマラキを呼び出してもらう事にしたのだった。
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