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21-2 古代遺跡到着

 アルはマーローの街、オーティスの街、そして領都を経由し、無事にメヘタベル山脈と呼ばれる領都の北側の山々が連なるあたりにまでやって来ていた。


 今回の旅は特に急ぐ理由もなく、アルは大きな街や都市に着くたびに珍しいものがないかと市場を巡ったり、面白そうな呪文の書がないかと聞いて回ったりしたので、ここに到着するまで1週間程かかっていた。だが、どこへ行ってもテンペスト王国へ出陣した騎士団の話ばかりで、何か騒然としており、領都では、兄のギュスターブたちの借りている家にも立ち寄ったが、皆任務中で家にはおらず、結局会う事はなかったのだった。

 期待した呪文の書も結局、購入したのは風生成(クリエイトウィンド)呪文(第二階層、10金貨)1つだけだった。

 この風生成(クリエイトウィンド)呪文は、単に風を送り出すためだけの呪文である。戦闘には使えそうもないが、店員に勧められた際、シロケナガボンゴと遭遇した北の古代遺跡に換気のための魔道具を思いだしたのだ。今後、古代遺跡を探索する際に悪い空気を追い出すのに使えそうな呪文であった。


 このメヘタベル山脈の山々はアルが生まれたシプリー山地の西側にそびえたつナッシュ山脈に比べると、高さも三千メートル級ほどのものしかなく、山肌もなだらかであった。その分、木々の緑は濃い。

 アルは広い山々の上空を飛びながら、以前ちらと見た古代遺跡の廃墟らしきものを探した。グリィがアルがそれを見つけた時に居た座標は覚えていてくれていたものの、今は季節がすすんでおり、山々は深い緑に覆われていて容易に廃墟の姿を見つける事は出来なかった。


「どうしようか?」


三時間ほどその周囲を飛び回ったアルは途方に暮れた様子で思わず呟いた。


“絶対にこのあたりにあるはずよ。あれから半年も経っていないのだもの……あ、あれ。木が三本突き出ているところ。あそこの横”


 グリィが言う所に眼をやると、アルにもちらりと白いものがあるのに気がついた。風雨にさらされてかなり汚れているが、天然の岩などではなく何かの建物の一部だ。


 アルはゆっくりと周囲を飛んで確認してみる。木に覆われてなかなかその全貌はつかめなかったが、そこにはおおきな建物が四つあるようだった。そのうちの一つはおそらく三階建てで、およそ幅70メートル、奥行は40メートルといったところだろうか。崩れている所がいくつかある。そして、あとの三つは丸くおおきなドーム状になっており、直径はどれも30メートルほどだ。こちらも2つは天井に大きな穴が空いていて中が見えている。その中は周囲の山の中とあまり変わらない雰囲気であった。


「おお、あったよ。すごい。良く見つけられたね。でも、こんなところにどうしてこんな建物を建てたんだろう……」


 アルは思わず呟く。


“うーん、たぶん、こんなところだから、今の時代の建物ではないのは確かだけど……よくわかんないね。”


 グリィの言葉にアルも頷く。シルヴェスター王国とメッシーナ王国を隔てるこのメヘタベル山脈はほとんど開発されていない。もし人がいるとしてもせいぜい狩人ぐらいだろう。これ程大規模な建物を建てる者は居ないはずだ。壁の老朽化の具合からしても古代遺跡だと期待できそうだ。


「とりあえず安全なところを探そう。そこから浮遊眼(フローティングアイ)だね」


 建物は崩れているところもあったので、浮遊眼(フローティングアイ)呪文の眼なら侵入し放題だろう。だが同時にこの間の失敗を繰り返さないように注意しないといけない。アルは安全そうなところを探して周囲を見回した。


-----


 アルは少し離れたところで浮遊眼(フローティングアイ)呪文を解除し、疲れたとばかりに大きなため息をついた。空を見上げると、日はかなり傾いている。

 遺跡らしきものを空から見つけた後、森が少し開けたところを確保して周囲も警戒しながら浮遊眼(フローティングアイ)呪文でその古代遺跡らしきものを調べていたのである。


 眼が侵入できた範囲の印象からすると建物はかなり老朽化している。また、内にはかなり落ち葉や埃などが堆積していて、しばらく人が入ったような形跡は見つからなかった。


 ドーム状の建物の横には大きな室温調整用の魔道装置、他にも壁に多くの光の魔道具や用途がわからないが魔法感知(センスマジック)に反応して青白く光るものが多数残されていた。それから推測すると他にも様々な物が残されていることが期待できそうである。


 残念な事にドーム状の建物の一つには人の代わりに巨大な生き物が一頭住みついていた。ケナシオオヒグマと呼ばれる、シルエットは巨大な熊、ただし、体毛がまったくなく、トカゲのような長い尾を持つ魔獣である。アルの知る範囲では領都付近では一度だけ出没したことがあり、その時の個体は体長2.5メートル、体重が400キロであった。討伐戦の際には時速60キロ近い速度で討伐隊に参加していた魔法使いに突進しようとし、魔法使いを庇った大盾を持った戦士が10メートル以上吹き飛ばされたと記録にあった。

 ここに住み着いている個体はその領都付近で出たものより一回り身体が大きく、体長はおよそ四メートル、体重も1トン以上ありそうだった。こんなものの突進を受けたら吹き飛ぶのも10メートルでは済まないだろう。


 ドーム状の建物のうち1つと、三階建ての建物の一部には開いた窓や崩れた壁がない所もあり、浮遊眼(フローティングアイ)呪文の眼では中をみることができないところもあったのだった。


「もう日が暮れそうだ。夜になるとまた違う魔獣がでてくるかもしれない」

“そうね”


 アルはそう呟き、少し考えた後、今日はここで探索を打ち切って近くの人族が住む所を探すことにした。この辺りを詳しくは知らないが、南に行けば領都からの街道に当たるはずで、それ沿いには村ぐらいあるだろう。

 ケナシオオヒグマの討伐記録は一例しか見たことがないが、そこには”空を飛ぶ””魔法で攻撃した”という記述はなかった。なので、空から貫通する槍(ピアシングスピア)呪文を使えば倒せるだろうとは思ったが、長時間、浮遊眼(フローティングアイ)呪文を使った事で、かなりの疲労も感じていたし、発見出来ていない小さな魔獣や警戒装置が残っている可能性も否定できない。そういった事も考えての判断である。わざわざ危険を冒す必要はない。


「帰ろう、帰ればまた来れる」


 アルは飛行(フライ)呪文でふわりと宙に浮くと、ゆっくりと飛び始めたのだった。


読んで頂いてありがとうございます。

月金の週2回10時投稿を予定しています。よろしくお願いいたします。


誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。


いいね、評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。是非よろしくお願いします。


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諸々よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
風生成があれば風上風下を自ら作り出せるな… 風量調節したら攪乱とかにも使えそうだし、温度調節呪文と組み合わせたり出来たら凍える風作れそう オプションの恩恵が大きそうな呪文だぁ
急に木村提督で笑いました
風生成、風(=空気の移動)を発生させる呪文ということなのかな、街中でぶっぱなせる非殺傷系の攻撃手段としての使い道に優れてそうです。単純な呪文みたいなので発動が早そう、連打も効きそうなのでおもしろい。
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