20-8 ラミア討伐
「よし、では行くぞ。突入ルート、石壁の配置、蛮族どもの動きの予想、全部頭に入っているな。ネヴィルは俺の補佐、オービルはアルフレッドにゴブリンどもを近づけさせるな。行くぞ」
そう言って、ギュスターブは馬用の鎧もついた栗毛の愛馬にまたがり、オービルからこれも愛用の槍を受け取った。鉄鉱山に巣食う蛮族を退治するのは半ば仕事のようなものだと第二隊の隊長に頼み込んで、領都から馬を含めた装備一式を借り出して来たのだ。
盾呪文は自分も含めて4人、打撃強化呪文はギュスターブとネヴィル、オービルの3人に付与を済ませており、呪文による戦力強化もばっちりである。
ギュスターブを先頭に、アルたちは蛮族たちが巣食う鉄鉱山に侵入していく。複雑に石壁が構築されて、進路をふさいでおり、身長の低いゴブリン、ホブゴブリンはその陰に身を隠しているようだが、戦場の俯瞰図が頭に入っているアルたちには何の問題もない。逆に壁沿いに進むことによってラミアからの視線が遮られ、長距離からの呪文攻撃を受けずに済むので有難い位である。
アルたちがラミアの居る小屋に近づいていくと、わらわらとゴブリンたちが10体ほど出て来た。ホブゴブリンも1体居る。
「よし、予想通りだ。任せろっ」
<突撃>槍闘技 --- ダメージ増加技
ギュスターブは鐙で馬の腹を軽く蹴った。馬はそれに応えるように軽く嘶くとホブゴブリンに向かって疾駆しはじめた。手前に居るゴブリンは馬の突撃に慌てて進路から逃れようとしたが、そのまま馬はゴブリンを蹴散らした。そしてギュスターブの手の槍がホブゴブリンの胸に突き刺さる。ホブゴブリンは耐えることができず、そのまま後ろに吹き飛んだ。
アルたちはそれを急いで追う。まだラミアの姿はない。ギュスターブに追いついたネヴィル、オービルは手に持った槍や剣で残ったゴブリンたちを瞬く間に倒したのだった。
「さすがだね。兄さん、ネヴィル、オービルも凄いよ」
アルの言葉にギュスターブはにやりと笑みを浮かべる。
「何を言ってるんだ。ラミアが居なければアルフレッドが呪文でこいつらを倒すのは簡単だろう。それよりお前の呪文のお陰で武器の破壊力も段違いだ。騎士団所属の魔法使いより効果は高いかもしれんぞ」
「おお、よかった。あ、ラミアが出て来たよ。ホブゴブリンとかも一緒だ。いまは右手の石壁の向こう側」
アルは上空に浮かばせた浮遊眼の眼から得た情報を皆に告げた。ギュスターブ達の顔が真剣なものに変わる。武器を振って付いた血を飛ばし、アルが指さした方向を見ると、丁度そのとき石壁の上からラミアが顔をのぞかせた。
『長距離魔法……『痙攣』』
ラミアの詠唱をアルはすかさずキャンセルする。痙攣呪文のびりっとした刺激に驚いたのか、ラミアは間抜けな表情を浮かべた。石壁をぐるりと迂回すべくギュスターブはふたたび馬の腹を軽く蹴った。ネヴィルはその反対側に向かって走り出す。アルはオービルに守られつつ、ギュスターブの後を追う。このあたりの連携は事前に話し合った通りだ。
<薙払>槍闘技 --- 範囲攻撃技
石壁の向こう側には、ラミアを守る様に待ち構えていたホブゴブリンとゴブリンが居たが、ギュスターブが槍を振り回すとそれを恐れてか隊列が崩れる。
『長距離魔法……『痙攣』』
ギュスターブに向かって呪文を放とうとしたラミアだったが、アルはまたすかさずその詠唱を打ち消した。そしてその時にはもう、石壁の反対側に回ったネヴィルがすぐラミアの背後にまで到着していた。その勢いのまま、ラミアに向かって槍を突き出す。
<貫突>槍闘技 --- 装甲無効技
身体を貫通し、ネヴィルの槍の穂先がラミアの腹から突き出た。ラミアはその衝撃で天を仰いだような体勢になった。
「えっ? 貫通……?」
だが、突いたネヴィル自身もその手ごたえに驚きの顔を浮かべていた。打撃強化呪文の効果が予想外だったのかもしれない。事前に練習をしておくべきだっただろうか。ラミアは、自分の腹から突き出た槍の穂先を右手で握りしめると後ろをふりむこうとした。だが、それをみたギュスターブが続けて槍を突き出す。
<貫突>槍闘技 --- 装甲無効技
「ギャッ、ギャギャギャ!!」
ラミアは何の防御もできず、二本目の槍に貫かれてぐったりと倒れた。
「ギャギャギャギャーーーーー」
周囲に生き残っていたホブゴブリン、ゴブリンたちが悲鳴にも似た声を上げた。一斉に逃げ始める。
『魔法の矢』
アルの手から青白い矢が放たれる。逃げ出そうとしていたゴブリンたちの背に次々と突き刺さった。だが、すべてのゴブリンを対象とすることはできず、ホブゴブリンは倒せたものの、何体かのゴブリンはそのまま周囲の森に逃げ込んでいった。
「追わなくていいっ」
ギュスターブがおいかけようとしていたネヴィルを制止した。周囲の森の中は未開地でもあり、他に魔獣などが居るかもしれないのだ。
「これで十分だ。やったぞっ。ネヴィルお手柄だ。アルフレッド、オービルもよくやった。おおおおおっ」
ギュスターブは、拳を握り天に向かって突き上げた。
「やりました! ギュスターブ様が気を引いてくださったお陰です。チャニング家の勝利です」
ネヴィルも拳を突き上げる。
「やったね」
オービルとアルも笑顔を浮かべ、二人の横で掌を打ち合わせたのだった。
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「あとは、死骸をさっさと片付けて撤収するぞ。アルフレッド、ラミアの死骸が運搬呪文で運べるか確認してくれ」
「うん」
ラミアの体長は伸ばせば6メートルぐらいはありそうだ。できれば領都に死骸は運び報告したいとギュスターブに相談されてはいたが、載せきれるのか少し心配であった。円盤の形を変え、ラミアの死骸をすくい上げるようにして載せてみると、無事に円盤は地上から浮かんだ。
「大丈夫そうだよ」
「よし、逃げたのはゴブリンだけだ。しばらく放置しても大丈夫だろう。魔導士もラミアもやっつけたからな。これでチャニング村はきっと蛮族の脅威から解放される」
ギュスターブの言葉に、アルだけでなく、ネヴィルたちも頷いた。領都ではオズバートが、警備に必要な人員の手配にすでに着手している。ギュスターブたちが領都に着くのと入れ替わりで、工事を請け負ってくれることになったレビ商会の担当者や、騎士団を退団し新たにチャニング家に仕えることになった、ギュスターブの元同僚の者たちと共に出発する予定になっていた。
彼らが到着し、依頼した騎士団が付近の蛮族や魔獣を掃討してくれれば、チャニング村一帯はかなり安全な場所になるだろう。アルの双子の妹、イングリッドのような悲劇はもう二度と起こってほしくない。アルはそんなことを思いながら、兄や従士たちと共にゴブリンたちの死骸を埋める穴を手分けして掘り始めるのだった。
ここで、第20話は終了とします。話の終わりということで、登場人物一覧を整理して1時間後、11時に追加で更新します。
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