3-7 大口トカゲ狩り 2回目 続編
アルは大口トカゲが群れとなって浮かんでいるあたりの近くまで姿を隠しながら移動して、改めて様子を確認した。数は30体を優に超えており、それぞれの個体の大きさはまちまちで体長1m程のものも居れば、一番巨大なもので6mを超えているものも居た。あまり大きすぎると仕留めきれない可能性もあるが、ある程度の大きさがあるほうが高く売れそうである。この間の経験からすると体長3m~4mぐらいのものが良いのだろう。いつもは単体で草陰や岩陰に潜み獲物を狙う大口トカゲがこのように姿を見せ、狩る対象を選ぶことができるというのは貴重な機会である。
とは言え、群れのやはり端に居る個体でないと対象とするのは難しいし、それに使う幻覚呪文そのものにも幻覚を出せる距離は限られている。幸い、狩ることが出来そうな場所に理想的なサイズの個体は何体か居そうだった。アルはどこにその個体を誘導するか目星をつけてから一旦オーソンたちの居るところに戻ってきた。
「オーソンさん、手ごろなのが居たよ。たぶん3mをちょっと超えてるぐらいだと思う」
「どのあたりのやつだ?」
アルとオーソンはそうしてどこにどう誘導してくるか、その間、オーソンはどこに隠れてどう移動するかといった事を詳しく相談した。餌が竿であやつる実物から呪文であやつる幻覚に替わったというだけで、基本的には数日前に狩った時と同じような役割分担である。
「わかった、じゃあそれでいい。リッピとピッピはちゃんと隠れててね」
アルがそう言うと、リッピはすこし不満そうな顔をした。だが、ちょっと間違うとあの群れが一斉に襲ってくる可能性もあるのだとオーソンが説明すると不承不承ながら仕方ないと納得したのだった。アルはあらかじめ用意していたゴブリンの死骸を最後に仕留める予定の場所に置くと呪文を唱えた。
『知覚強化』 -望遠
『幻覚』 -肉塊
アルの手から1mほど先にふわりと目の前の死骸とそっくりの肉塊が現れる。アルはその肉塊から目を離さないようにしながら手を上下に動かす。すると肉塊もそれとおなじように上下に動いた。
「へぇ、本物が宙に浮かんでるみたいだ。不思議だな」
オーソンは思わず感心して声を上げた。どんな肉の臭いがするのかとクンクンと懸命に臭いを嗅いでいる。アルはそれを見てオーソンの鼻先にまで肉塊の幻覚を近づけた。オーソンはおおと驚いた顔をする。ちゃんと臭いもしたらしい。
「よし、じゃぁ始めるよ」
アルは再び大口トカゲの群れの方に歩き始めた。そして、そのアルと一緒に肉塊も移動していくのだった。リッピとピッピは馬車を連れて姿を隠すべく移動をはじめ、オーソンは肉塊と大口トカゲの群れを交互に見、大口トカゲたちが想定と違った動きを取ることは無いかずっと監視を続けた。アルのあやつる肉塊の幻覚はそのまま目星をつけた大口トカゲが居るところにまでゆっくりと移動していった。
ちらり……
その大口トカゲは移動してくる肉塊に目を動かした。知覚強化をしているアルだからこそわかった変化であった。その大口トカゲは何か飛んできているものがあると認識している。隣の大口トカゲの反応はなかった。
アルは肉塊の幻覚を慎重に大口トカゲに近づける。対象の大口トカゲはその動きをじっと目で追っている。アルは逆に肉塊を大口トカゲからアルの居る方向に移動させる。すると、大口トカゲは軽く水を掻き、肉塊を追うようにしてアルの居る方に移動を始めたのだった。
“かかった”
アルは思わず笑みをこぼした。鋭く口笛を吹いて後ろで見ているはずのオーソンに合図をする。すぐにピィッーピッとオーソンからの返事が返ってきた。アルはゆっくりと後ずさりしながら肉塊の幻覚を操り、対象の大口トカゲを誘導する。大口トカゲの移動速度は少しずつ速くなった。アルの狙い通り動いてきているのは1体だけだった。数日前と同じように岸の上に誘導していく。前回と違い、今回は目論見通り3mよりすこし大きい程度の個体であった。肉塊の幻覚に釣られて完全に陸に上がり、そして地面にあらかじめ置かれたゴブリンの死骸に気付くと、そちらに向かって走り始めた。そして死骸にかぶりつく。
<貫突>槍闘技 --- 装甲無効技
オーソンが背後から近づいて槍でぐさりと一発で止めを刺した。アルはそれを見て思わず歓声を上げる。オーソンはちらりとアルを見て少し得意げににやりと笑う。歓声を聞きつけたのかリッピとピッピの2人も顔を出し、地面に倒れ伏している大口トカゲを見て、やったとかすごいといった声を上げていた。
「さすが、オーソンさんだ」
アルも感心して何度も頷いた。オーソンは少し照れた様子で頭を掻き、そして片足を大口トカゲの死骸に乗せると槍を引っこ抜いた。
「いやいや、アルが上手に釣ってくれたおかげだ。いつもの釣りとちがって、餌にかかるのを待つ必要がないから、逆に効率がいいかもしれん。この調子で頑張るぞ」
オーソンの言葉にアルとリッピ、ピッピは頷いた。大口トカゲの死骸を馬車に載せる。これぐらいの個体であれば、1台の馬車に3体は載せられそうであった。アルは次の個体を釣るのに、再び群れが見える位置に向かったのだった。
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