19-1 合流 【国境地図有り(※ただし暫定)】
領都および国境付近の地図です。
時間がなくて、きっちりつくることが出来ませんでした。二つの地図を強引にくっつけたので都市や山などのサイズがバラバラですし、くっつけた部分は誤魔化してありますが、位置関係の把握ぐらいに使ってください><
そのうち、時間をみつけてきちんとしたいとおもいます。
翌日、アルが目覚めたのはかなり日が高くなってからであった。前夜のオーソンの怪我が治った宴がかなり盛り上がったせいである。アルは使節団が国境を越えるのに間に合うかと少し焦りながら、二日酔いの頭痛と吐き気に堪えつつ、領都北部、メヘタベル山脈とよばれる山々の尾根を突っ切り、メッシーナ王国との国境の街、オリオンへと向かった。
途中、標高2000メートル級の山脈の尾根に廃墟らしきものを見つけたりもしたのだが、体調も良くない上に時間もない。近づくとひどい頭痛になることもあるので、場所の座標だけを記録するに留めざるを得なかった。
そのような感じで未練を残しながらも、アルはなんとか日が沈むギリギリでオリオンの街に到着した。そこではデュラン卿に聞かされていた通りの使節団らしき集団がおり、街はずれで野営を行っていたのだった。
「ふぅ、なんとか間に合ったみたいだ」
アルは疲れた様子ですこし肩を落としながら、そこから数百メートル手前の街道に降下した。人目がない事を確認してから移送呪文でいつもの大きな荷物を研究塔の移送空間から取り出す。基本的に荷物が少ないほうが楽なのだが、さすがに何日も旅行をしているはずなのに荷物が少なすぎると怪しまれると考えたためだ。
あらかじめデュラン卿から借りていたレイン辺境伯騎士団の従士を示す水色と白の縦縞のタバードを取り出して羽織り、いつもなら持たない長剣を腰に付けてから、その荷物を背負う。
タバードを着て使節団に合流するというのは、デュラン卿が一番目立たないだろうと提案してくれた行動であり、長剣などほとんど振った事もなく、邪魔だなぁとアルは思ったが、剣を持たない従士が居るはずもないのでそこは仕方なかったのである。
「あと、ひと踏ん張りだね」
“がんばれー”
グリィの応援に励まされながら、アルは使節団の野営地に入っていく。まず目指すのは自らの兄、ギュスターブが所属するレイン辺境伯騎士団第二隊である。今回、使節団の護衛としてシルヴェスター王国第二騎士団とレイン辺境伯騎士団第二隊、魔法部隊からそれぞれ一個小隊(一個小隊あたり約18人)が参加しているのだが、それぞれタバードの色が違うのでわかりやすい。アルはすぐに知った顔をみつけることができたのだった。
「オービル! 兄上は?」
オービルは従士オズバートの息子でアルと同い年の幼馴染である。そのアルが自らと同じ色のタバードを身に付けているのに気付いて、オービルは目を白黒させた。
「アルフレッド様、どうしてここに? それもその服装は……」
「うん、色々とあってね。第四隊副隊長のデュラン卿から手紙を預かっているんだ。このタバードもデュラン卿からの借り物さ。至急、兄上に会いたい」
「わかりました。こちらに」
オービルは先頭にたって歩いて行く。途中、不審そうな顔をした同じ色のタバードを着た男たちとすれ違ったが、オービルが一緒に居る事で何か事情があると察したらしく、特に誰何などはされずに済んだ。ようやく一つの天幕の陰まで着くと、オービルに少し待つように言われる。しばらくしてギュスターブがオービルと共にやってきた。
「どうしたんだ? アルフレッド」
「とりあえずこれを読んで」
アルはデュラン卿が書いてくれた手紙をギュスターブに渡す。彼はそれを受け取るとその場で開いた。
「なるほど、デュラン卿が気にされている事は判った。俺自身はそれほど危険なのかまだ納得できた訳ではないが、もちろんそれを疑う理由もない。指示された通りに動くことにしよう。デュラン卿に見せた記録とやらは改めて後で見せてくれ。そして、この手紙に書かれている二通の手紙は?」
「これです」
アルは セレナ宛とギュスターブが所属する小隊の小隊長宛の二通の手紙を手渡す。
「よし、行くぞ。ついてこい」
手紙を受け取ったギュスターブが今度は先頭を切って歩き出す。すぐに別の天幕につく。こちらの天幕は出入口があって完全に中が見えないようになっていた。
「第二隊所属、ギュスターブです。領都から緊急の連絡がまいりました。セレナ様に取次ぎを」
入口の前で声をかけると、アルより背の低い女性が顔を出した。髪は黒くまっすぐで、短めに切っている。服装は従士と同じタバードを身に付けてパンツスタイルであった。彼女はじっとギュスターブ、アル、オービルの顔を順番に見る。
「そちらは見ない顔ですね。誰ですか?」
その女性はアルを指して言う。
「私の弟のアルフレッドです。彼がデュラン卿からの手紙を持ってきたのです」
彼女はしばらくアルを疑い深く見ていたが、アルが視線をそらさずにいるのを見て軽く頷いた。
「わかりました。手紙をお預かりします。少し待っていただけますか?」
ギュスターブは二通の手紙を揃えて渡す。その女性は二通であるのに気がついて怪訝な顔をしてギュスターブの顔を見たが、彼が頷いたのを見て両方とも受け取ると天幕の中に消えていった。
「彼女は、オードリー。セレナ様の護衛役の従士だ。魔法が使えるともっぱらの噂だ」
ギュスターブの説明にアルは頷いた。たしかに天幕の中から、丁度今、アルの魔法発見に反応があった。おそらく手紙に何か魔法的な仕込みがなされてないか呪文を使って確認したに違いない。
しばらく待っていると、オードリーが顔を出した。
「ギュスターブ様、アルフレッド様、中にどうぞ。そちらの従士の方はお待ちください」
オービルは中には入れてもらえないらしい。申し訳なさそうにアルが手を振ると、オービルは問題ないとばかりに軽く頷く。天幕の中はテーブルが有り、すでにランプが灯されていた。オードリーの案内で二人が入っていくと椅子に座っていたセレナが立ちあがる。シンプルなドレスだが、やはりその豊かな金髪の巻き毛は変わっておらず、相変わらず姫という感じだ。
「ギュスターブ、ご苦労様。アルフレッド君も久しぶりね。ナレシュ君からよく話は聞いているわ。この旅の途中もね。まずは座って。そして詳しく話を聞かせて頂戴。そしてデュラン卿の手紙にあった男の姿も見せて欲しいの」
セレナ宛の手紙にもシプリー山脈の蛮族の採掘場らしい映像の話が書いてあったのか。だが、テンペスト王国の魔法使いの力は実際の様子を見てもらった方が判りやすいかもしれない。ゴブリンを倒すあたりを先に見てもらうことにしようか。オードリーが普通に魔法を使ったところを見ると、ここでの呪文の使用は特に断らなくても大丈夫だろう。
「わかりました。では、まずこちらの記録から……」
『記録再生 再生 50センチ窓』
アルはその記録の窓を初めてみるらしい3人の驚きの様子には触れず、セレナとギュスターブから良く見えるように調整して、再生用の窓を開いたのだった。
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「成程、これがテンペストのプレンティス侯爵家が我がレイン辺境伯爵領で暗躍している証拠ですか……そして、このレベルの魔法使いが向こうにはたくさん居るかもしれないと……」
セレナはじっと考え込んだ。その横でギュスターブが怒った様子で顔を真っ赤にしてなにか言いたげにしているが、そこは少し待ってほしいとこっそり手で合図をする。
「オードリーはどう思いますか?」
セレナの問いを受けて、オードリーは首を傾げる。
「まず、これほどの記録をどうやって撮ったのか……。これは本当なのでしょうか?」
そこからなのか……。テンペスト王国の魔法使いについて、それが脅威だとアルがいうのをデュラン卿は信じてくれたが、皆がすぐに納得してくれるわけではないようだ。数種類の呪文が使える事で精鋭とされていると聞いて危惧していたが、デュラン卿の言うとおりなのだろう。誰かアルの他に説明してくれる人はいないだろうか。そうだ、ゾラ卿はどうだろう。彼は元セネット伯爵家に仕えた魔導士だ。仕えていた事は皆に知られているのだろうか。その事自体は言えないにしても、魔導士の脅威については説明してくれないだろうか。
「今回の使節団にナレシュ様が参加されていると聞いているのですが、その配下でゾラ卿という方も同行されていませんでしょうか。彼ならテンペスト王国の魔法使いの実情に詳しいはずです」
アルの言葉に、セレナは頷いた。そしてナレシュとゾラ卿がセレナのテントに呼び出されたのだった。
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