表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
215/310

18-7 鉄鉱山調査 中編

 アルが上空から鉄鉱山に徐々に近づいていくと、前回よりすこし数は少ないものの、数条の煙が上がっているのが見えた。人族である可能性はかなり低い。どちらかと言うとまた蛮族がやってきて精錬や武器製造を始めている可能性が高そうであった。


 アルは慎重に前回と同様におおきく削り取られ山肌が露出している鉱山と思われる山の麓が見える辺りまで近づいた。やはり、煙をあげているのは、以前と同じく石を積んだ小さな塔のようなもので、その近くにはゴブリンらしき影がうろうろしている。前回に比べて、その数は少なく、ホブゴブリンの姿もないようだった。

 ただ、その近くに前回には無かった小さな小屋のようなものが建てられていた。アルが木々のあるあたりまで高度を下げ、そこに身を隠してじっと観察していると、その小屋から上半身が人間の男性、下半身がヘビの見たこともない蛮族らしきものが姿を現した。人間らしいといっても、ふつうより一回り大きくて筋骨隆々、肌は青色で、頭部から首筋、背中、肩から手の甲まで鱗のようなものに覆われていた。下半身は太い蛇で、伸ばせば五メートルぐらいはあるだろう。そいつはゴブリンに何か指示をしているような様子であった。

 アルは下半身がヘビの蛮族について、以前、領都で冒険者をしていた頃に誰かに聞いた記憶があった。確か、名前はラミアといい、魔法も使える危険な蛮族だという説明だったが、こいつがそのラミアなのかもしれない。


「ラミアだとしたら、魔法を使うって事だよね……これは近づくのは危険だなぁ」

“どんな蛮族なのか、そもそも本当に蛮族なのかも調べてからのほうが良いと思うわ”


 蛮族を放置するのは気になるが、どんな魔法を使ってくるのかわからない相手にうかつに近づくのは危険すぎるだろう。アルのつぶやきにグリィも賛成のようだ。隠蔽(コンシール)呪文や探知回避(ステルス)呪文を活用すれば、不意打ちする方法があるかもしれないが、そこまでして危険を冒す必要はないだろう。命は一つしかないのだ。


 ゴブリンだけなら前回と同じように魔法の竜巻(マジックトルネード)で退治しても良いなと思っていたのだが、そういう訳には行かなくなった。もし、ラミアの情報が手に入らず、すぐには対処できないとしても、こんな蛮族らしきものが居たという情報は彼の父たちにとって意味があるに違いない。


“ラミアらしいのが居る精錬している場所に近づかなくても、山肌が露出しているところの鉱石サンプルをとればいいのでしょ? それにまた大量の蛮族の死骸とか持ち込んだら、パトリシアたちはいい顔をしないわよ”

「まぁ、そうだね」


 いろいろと呟いているとグリィにそういって注意されアルは頭を掻いた。蛮族の死骸を放置すると逆に蛮族が増えたりする可能性がある。蛮族を倒した後はその死骸を埋めるなりの処分をするのが当然であるのだが、大量に蛮族を倒した際はその処理が問題だった。前回、この鉄鉱山でゴブリンやホブゴブリンを空から魔法の竜巻(マジックトルネード)を使って処理したときの死骸は結局、メアリーたちと別れた後、再び戻ってきて釦型のマジックバッグにつながる倉庫で一時保管した後、塔の堆肥処理設備で十数体ずつに分け、時間をかけて処理せざるを得なかった。釦型のマジックバックの先の倉庫の気温はまだかなり低かったのでそれほど腐乱が進んでいたわけではなかったものの、それでもかなりの悪臭を伴った作業であり、アルも二度とやりたくなかった。


 とりあえず今回の蛮族は倒さずに放置することにして、記録再生(レコード&プレイ)呪文を使ってラミアらしいものの姿や精錬している場所の様子を記録しておくことにする。あとは山肌からのサンプル調査だ。採取をしているゴブリンの眼を盗んで見本をとるのはアルにとってはたいして難しくない。赤茶色の縞がある部分がたしか鉄を多く含んでいる鉱石だという話だった。ついでに地肌も撮影してそれと紐づけしておく。そうして、蛮族たちにみつからないように注意しながらアルは一時間ほどかけてサンプルを集めたのだった。


「よし、作業完了。上空からみたのも記録したし、大丈夫かな」

“うん、あとはルート確認ね”


 アルはグリィと忘れたことはないかと確認した後、鉱山らしいところから無事立ち去ったのだった。


-----


「ただいまー」


 アルがチャニング村に帰って来たのは日も暮れてしばらくしてからだった。ルート確認だけでなく久しぶりのチャニング村周辺の狩りに夢中になっていたのだ。もちろん彼の後ろの運搬(キャリアー)呪文の円盤には血抜きなどの処理を済ませた鹿が一頭乗っていた。


「おかえり!」「おかえりー」「よかった」「ほらー大丈夫だったじゃない」


 アルが扉を開けると、安心した様子の母パメラ、姉ルーシーが駆け寄って来た。父ネルソン、兄ジャスパー、妹メアリーも心配してくれていたようで、アルの顔を見て微笑んでいる。


「遅くなってごめんねー。帰りに狩りをしててさ。裏の倉庫の所に置いておけばいい?」

「ありがとうー まだ肉は硬いだろうから一晩寝かすことにするわー。できれば吊るしておいて」

「了解ー」


「そういえば、いつもこんな感じだったな」


 アルとパメラとのやり取りを聞きながら、ネルソンがため息交じりに呟いた。


「どうでしたか?」


 家族の後ろからオズバートが顔を出す。


「うん、調査はばっちりだよ。でもやっぱりゴブリンたちは来てた。他に見たことのない蛮族が居てね……」


 アルは皆と一緒に居間に移り、見てきた風景を呪文で見せながら説明した。


「ゴブリンと一緒に居るんだから、蛮族なんだろうな。見たことが無いが……」


 ネルソンたちも首を傾げる。


「中級学校に行ってた頃、誰に聞いたのかははっきり憶えていないけど上半身が人間で下半身がヘビの蛮族が居て、それがラミアだって聞いたことがあるんだ。こいつがそれかどうかは全く確信がないんだけど、それだとすると魔法も使える蛮族ってことになるんだ。注意してほしい」


 アルの言葉に皆頷いた。


「マイロンやネヴィルにも明日、この映像を見せておいてくれ。そして、明日のルート確認だが、オズバートの他に、ジャスパーとネヴィルを連れて一緒に行ってくれないか。実際に道案内できる人間は複数居たほうがいい」

「わかったよ。父さん」


 ネルソンの言葉にアルは頷いた。


「アルフレッド、今回はいろいろと面倒をかけるな。頼りない親父で申し訳ない」


 ネルソンは少し寂しそうな微笑みを浮かつつアルにそう言って頭を下げた。


「何言ってるんだよ。みんなで助け合えばいいんじゃない? とりあえずおなかすいたよ。あとは明日でいいよね。オズバートさんも待ってもらっててごめんなさい。奥さんが待ってるよね」


 アルがそう言うと、ネルソンは嬉しそうな顔をして、アルの頭を撫でる。


「ありがとよ。わかった。面倒くさい話はここまでだ。飯にしよう」


「はい。じゃぁ、また明日……」


 オズバートは会釈をして帰っていく。アルたちはオズバートを見送った後、家族で食卓を囲み、久しぶりの家族団らんを楽しんだのだった。


読んで頂いてありがとうございます。

月金の週2回10時投稿を予定しています。よろしくお願いいたします。


誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。


いいね、評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。是非よろしくお願いします。



冒険者アル あいつの魔法はおかしい 書籍版 第一巻 第二巻 発売中です。

 山﨑と子先生のコミカライズは コロナEX 他 にて現在第8話公開中です。

https://to-corona-ex.com/comics/163399092207730


どちらもよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
すいません。ゴブリンの死体処理つながりで直前の旅先での戦闘のエピソードと混同してしまいました。 直しを入れていただいて、分かりやすくなりました。ありがとうございました。
>>大量に蛮族を倒した際はその処理が問題だった。 今のアルがキャリアーの最大積載量が具体的に何kgまで増大したかは分からないけど、少なくとも500kgくらい(ゴブリン10体前後)は積める筈。 死体を…
代わりの蛮族が来てるってのが問題だよね 組織だって行動してるって事だから
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ