18-4 戦争ですか?
「酷く? まさか?」
アルの反応を見て、デュラン卿とヒースは顔を見合わせ、しまったという顔をした。
「すまん、忘れてくれ。おまえさんがかの魔法使い殿の孫というのでな、つい……」
「戦争ですか?」
アルは真剣な顔をして聞いた。
「それは……」
デュラン卿は口を濁す。もちろんそれはそうだろう。だが、戦争となればパトリシアも気にするだろうし、国境都市パーカーに居るナレシュは最前線で戦う事になるのではないだろうか。
「セネット男爵に叙爵されたナレシュ様とは僕、中級学校で同じクラスだったんです。今、彼は……」
アルの言葉にデュラン卿は大きなため息をつく。
「そうか。口を滑らせた儂が悪かったの。だが、これだけで勘弁してくれ。まだ戦争は始まらん。安心せい。ただ、テンペスト王国のタガード侯爵家と同盟を結ぶことにはなりそうでな。これはどう考えても戦争の準備だろうと儂らは話しておっただけじゃ」
「同盟が戦争の準備?」
アルは首を傾げる。同盟を結ぶという事がどうして戦争につながるのだろうか。
「んー、だめか。儂らは当初プレンティス侯爵家がすぐにでもテンペスト王国全土を掌握するものと予測しておったのじゃ。王都制圧からセネット伯爵領制圧まで半年もかからずにやってのけたからのう。じゃが、そこからが予想外じゃった。儂らもその時点では情報を掴めていなかったのじゃが、テンペスト王家パトリシア姫がセネット伯爵家の城を脱出し生存しているとの噂が流れプレンティス侯爵家もそれを否定できなかった。その結果、新テンペスト王を称したプレンティス侯爵には従えないと王国騎士団から造反するものが現れたようだ。さらにタガード侯爵家もプレンティス侯爵のテンペスト王就任は認めないと宣言を出した」
パトリシアの生存はそれほどのインパクトを持っていたのか……。
「それで、ずっと内戦状態のままだったんですか?」
アルの問いにデュラン卿は渋い顔で頷いた。
「そうじゃな。タガード侯爵家はそれを打破すべく、ずっと我がシルヴェスター王国に救援を求めておった。侯爵家の嫡男の同母妹のノラ姫を派遣してまでな。じゃが、今までは王家も騎士団の上の方も及び腰じゃった。それが、ここで急に同盟を結ぼうかと言う話となった。つまりこれは救援する条件が折り合ったということじゃろうと儂は睨んでおる」
同盟しそうだというのは事実だが、状況が悪くなりそうというのはデュラン卿の予想ということか。とは言っても、これほどのベテランの騎士が言う事だ。可能性は高いのかもしれない。そんなことを考えていると、デュラン卿たちの料理が運ばれて来た。
「この話はここまでで勘弁してくれ。飯を食おう」
デュラン卿は話を切り替えた。とりあえずすぐに戦争が始まるわけではないらしい。レビ会頭にはこの情報をこっそり伝えておけば、きっと良いようにしてくれるだろう。アルもこれ以上の追求はあきらめて他の話をすることにした。
「わかりました。えっと、僕が以前領都に居た頃、この店に狩ったウサギを買い取ってもらってたんです」
「そうなのか? ここのウサギのグリルは旨かったが、それはアルが……」
料理の話に始まり、あとはしばらく黙って話をきいていたオーソンとヒースが闘技の話題で盛り上がったりして、夕食は楽しく終わったのだった。
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「……という事みたいです」
アルがレビ商会の屋敷に戻り、聞いた内容を告げると、レビ会頭は大きくため息をついた。
「成程。そう言う事になっていたのか。実はナレシュ様から数日前にシルヴェスター王家の方に随行してテンペスト王国に向かうことになったという話があったのだ。だが、その詳しい事は外交・軍事に関わるからと教えて頂けず、うちの傭兵団も同行させられないと断られたのだよ」
そんな情報、デュラン卿は食事の席で話をして大丈夫だったのだろうか? そして、それをレビ会頭に話しても良かったのか……。いろいろと聞いておきながら、アルは少し不安になった。
「あの、僕から聞いたという話は伏せておいてもらえると……」
アルの様子にレビ会頭はにっこりと微笑む。
「もちろんだ。騎士団側がわざと嘘の情報を流している可能性もある。ちゃんと情報はこちらで精査するから何も心配しなくてよいよ」
そんな可能性もあるのか。もちろん商売の世界はさまざまな噂や情報が飛び交う世界だ。そこでずっと成果を出し、商会を大きくし続けているレビ会頭はやはりすごい人なのだろう。
「ナレシュ様が随行するというのは気になるな。セネット家を名乗らせたのはもちろんシルヴェスター王家に思惑があっての事だろうが、タガード侯爵家と同盟を結ぶとなれば、その事は逆に領土への野望が明け透けすぎると警戒されてしまうだろう。本来であれば……、いや……」
レビ会頭はなにやら考え込み、すこしして首を振った。
「もう少し情報が必要だな。とりあえず、アル君ありがとう。それに関してはもう少し別の方面から情報を集めてから判断することにするよ。話は変わるが、オーソン君の治療まであと一週間。たのしみだね」
「はい」
オーソンは嬉しそうに頷く。そういえば、もう一つ、二人には話しておくことがあった。
「レビ会頭とオーソンにみせておきたいものがあったんです。自慢みたいな話なので申し訳ないですけど、いろいろと買い物をして荷物をこちらに運ばせていただいているし、一応こういうのを持ってると知っておいてもらおうかなって」
「ああ、そう言えばそこそこの量の物が運ばれてきていたね。第八倉庫が空いていたからそこに入れておくように指示はしておいた。しかし、木材などはどうするのかとおもっていたんだ」
アルは服の内側にある隠しポケットに移しておいた釦型のマジックバッグを取り出す。とりあえずカモフラージュ目的なので見せるのは容量が大きくて壁が壊れていないほう一つだけだ。
「これです。マジックバッグ。申し訳ないですけど入手元は秘密です」
「えっ?」
「なんと!」
オーソンとレビ会頭は目を丸くした。
「入る先の倉庫のサイズは二十メートル四方、高さ五メートル。結構な広さがあるので、今、運び込まれている物量は全部ここに収納できると思います。実は魔法発見呪文に反応しないので、公けにはできないのですけど、二人には一応知っておいてもらっても良いかなって思ってます」
「かなり大きいサイズ……魔法発見呪文に反応しない? なんと……それは」
レビ会頭はその危うさにすぐに気がついたようで、そのまま絶句した。厳重に警備されているところにでもこのマジックバッグを使えばなんでも持ち込める。もしこの魔道具の存在がわかれば危険物として王家なり辺境伯家なりに取り上げられてしまうかもしれない代物であるのだ。
実は同じものを複数、プレンティス侯爵家の魔法使いたちが持っているのをアルは知っているので、それを警告すべきなのかもしれないが、説明するには北にあった古代遺跡も含めて話をする必要があるだろう。そこまでの情報を話すつもりはアルには無かった。
「今までアル君の所持品には魔道具の反応がたくさんあったのだが、その反応がなくなったのはそのせいかね?」
当然、レビ会頭はその変化には気づいていたらしい。
「そうですね。魔道具は全部ここに入れれば、魔法発見呪文に反応しなくなります」
オーソンはいまいちその危険性は判っていなかったようだが、アルとレビ会頭とのやり取りを見て秘密にしないといけない魔道具なのだというのは理解したらしい。すこし顔が緊張している。
「なんというべきか……判断に困るものだね。本当に規格外だ。でも、まぁ、私がどうこう言うのも違う話だろう。わかったよ。アル君を信頼しておこう。そのうち、何かお願いすることがあるかもしれない。そのときはよろしくお願いするよ」
レビ会頭はすこしアルをじっと見つめた後、ゆっくりと微笑む。転移の杖の話を説明した時もそうだったが、ちゃんと話を聞いてくれて信頼してくれる。有難い話だ。この信頼を裏切らないように注意しなくては……アルは改めて心に誓った。
「はい。よろしくお願いします」
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