3-4 大口トカゲの革鎧
「うひょう、良いね、良いね。このサイズで傷もほとんどない。超イイよ」
話をするより見たほうが早い、オーソンとコーディにそう言われて、解体場でアルが待っていると、そこに30代後半だろうと思われる男性がやってきた。少し小太りで身長はアルと同じぐらいである。彼は解体台に置かれた大口トカゲの死骸を見てかなり興奮している様子である。
「あの人がデニスさん?」
その雰囲気に気圧されて小声でアルが尋ねるとオーソンとコーディは2人して頷いた。
「それで、大口トカゲの皮で鎧を作りたいって人はどこ? スゴイセクシーな女の人だったら嬉しいな、まさかオーソンじゃないよね? マッチョな男に黒のレザースーツ、んー、でもそれもアリかな。でもそれだったらおなかの肉はちゃんと減らしてください。そうじゃないと似合わない……」
デニスはテンションが高いまま、ブツブツと何かつぶやき、そう尋ねた。アルやリッピの姿は目に入っていない様子だ。
「いや、こいつのを作って欲しいんだ」
オーソンが半ば自分の陰に隠れるようにしていたアルの背中を押しながらそう言うと、デニスはようやくアルに気が付いたようで、じっと彼の方を見た。
「この子? まだ子供だよね?」
すっかり冒険者が板についたという様子のアルではあるが、確かにアルの身長は155㎝、この3ヶ月ほどで4㎝伸びたものの、まだ子供と大人の間位といった顔つきである。横でオーソンは苦笑を浮かべた。
「アルと言います。一応冒険者として生活しています。オーソンさんに勧められたんです」
デニスは思案顔である。
「ふぅん、それはごめんなさい。えっと、オーソン? この子に大口トカゲを勧めた理由を教えてほしい」
「こいつは、最近俺と組んでるが、単独でも活動している魔法使いだ。まだ若いが将来はかなり有望だと俺は踏んでる。だからだよ」
魔法使いと聞いて、彼は驚いた様子だった。まじまじとアルを見る。
「ということはどこかの貴族の御子息かなにかで?」
アルは懸命に首を振った。
「御子息って柄じゃないですね。貧乏騎士の3男、もちろん僕自身も貧乏しています」
そう聞いて、デニスは腕を組む。
「これほどの逸品の革、駆け出しの子が身につけるには正直勿体ないと思う。でも、オーソンが将来有望だというのならそれを信じてみることにしよう。その様子だと、あまり派手じゃないほうがよさそうだな。だが、これからまだ身体は大きくなるだろう。どうするかな……」
「そのあたりは任せる、でいいだろ。値段はどれぐらいだ? 一体丸ごと渡すから、コーディのところの解体費用を抜いたら、残りで革鎧はできそうか? あとはリッピの支払いぐらいが出ると俺としては有難いんだが……」
デニスは大口トカゲの各部位のサイズなどを測りどの部位をどのように利用するのか考えているようだった。費用の見積もりなどもしているのか時々コーディと耳元で囁き合って指で何か符丁のようなものを交わしている。アルはいろいろと尋ねたかったが、その様子に口をはさめずにいた。しばらくしてコーディとデニスはオーソンたちのほうを向き直った。
「私が大口トカゲ丸々を買取る金額は8金貨ね。これは状態が極めて良い上に、サイズも大きい。それを考慮して精一杯の金額よ。そこまではいい? ならその続きはデニスに任せるわね」
コーディが言うと、オーソンは頷いた。もともと3金貨ぐらいと聞いていたので驚きの値段である。アルも不満はなかった。何も疑問がない様子をみてデニスが続ける。
「2つ提案がある。1つは2人の言うようにこの個体の革を使って革鎧を作るという案。それだと、一番いい所の革を使って作るから今オーソンが着てるのと同じぐらいの防御効果が見込めるだろう。ただし、それだと費用は買取った8金貨だけでは足りないと思う。詳しいことはもう少し見積もらないとわからないが、あと4金貨は覚悟しておいてほしい。それに作業期間としてひと月はもらいたい」
アルはオーソンの顔をちらりと見た。オーソンは成程という様子でうんうんと頷いているが、そんな金額はとても出せないと思った。新しい呪文の書の夢はさらに遠ざかる。アルとしてはありえない気持ちであった。
「もう1つの方法は、この個体は買取で完結させ、代わりに私の手元にある大口トカゲの革をつかった革鎧をアルの身体にあわせて調整して渡すという案だ。もちろん私特製のものだから、普通に売っている大口トカゲの革鎧より当然性能は上だ。とは言っても、1つめの案ほどじゃないがね。こっちだと、7金貨。買取金額から1金貨残る計算だな」
「もちろん後者で」「もちろん前者だ」
アルとオーソンの言葉が重なった。お互い顔を見合わせる。その様子をみて、コーディとデニスはぷっと噴き出した。
「だめだよ、オーソン、今回の儲けを山分けしてもらうとしてもリッピに支払うのを考えたら僕の取り分は3金貨。貯めたのを合わせても払えるのは7金貨が精いっぱいだよ」
「お前なぁ……。俺が着てる鎧と同じぐらいの防御効果ってのはすごいんだぞ。革鎧でそれだとすれば一生ものと考えてもいいぐらいだ。それが12金貨で手に入るってのは超格安なんだ。デニスに感謝しろ」
「だって……」
さらに言いつのろうとしたアルの額をオーソンが小突く。
「大口トカゲ釣りは今日だけじゃない。あと1週間ぐらいは続くんだ。今日ほどのはないにしても、鎧代ぐらいは稼げるだろう。それまでは立て替えてやってもいいし、その後も稼ぐ所があるから心配するな」
アルは、明日の稼ぎを当てにしてというのは不安であったが、確かにオーソンのいう事もあながち間違いではない気もした。そして勢いに押されて頷いてしまった。
「よっし、とりあえず有り金を全部払っておきな。リッピへは俺が払っておいてやる」
「じゃぁ、詳しいサイズを測ろうか」
そこからは話はとんとん拍子に進み、アルはこれで本当によかったのだろうかと徐々に不安になるのであった。
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