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【書籍化&コミカライズ】冒険者アル -あいつの魔法はおかしい  作者: れもん
第3話 (自称)駆け出し冒険者アルの冒険者生活① 大口トカゲ狩り
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3-2 大口トカゲ狩り 続編

 アルは急な斜面を下って水面に近い辺りまで移動すると、竿をふって餌をできるだけ遠くに投げた。水面に浮いてきた餌を竿で操って動かしながら大口トカゲが近づいてくるのを待つ。

 川の幅は本格的な雨期の前であるのでまだ40m程である。対岸は湿地帯が広がっており多くの水鳥の姿がみえた。


 しばらく竿を動かしていると、近づいてきたのは大口トカゲではなく、魚の群れだった。体長10㎝~20㎝ほどで、ピラーとよばれる鋭い歯を持つ肉食魚である。血の臭いで集まってきたのだろう。すぐに餌の肉が食い尽くされてしまいそうな勢いにアルは慌てて竿を動かす。ピラーはそれを追いかけてくる。急いで動かす。そうやって何度か繰り返していると、そのうちに急にピラーの群れが姿を消した。

 アルは水面を見回し、すぐに水面に浮かんだ大口トカゲらしき鼻先と目を見つけた。彼は鋭く口笛を吹いてオーソンに知らせつつ、竿を操って大口トカゲを避けるように餌をうごかす。大口トカゲもそれに合わせて反応する動きを見せた。アルはそれを繰り返しながらもゆっくりと斜面を後ろ向きに上る。

 ピィッーピッと指笛の音がした。アルの口笛に対するオーソンからの準備完了の合図である。アルは竿自体をくるくると回転させて紐をまきつけるようしながら、斜面を上がる速度を上げていく。大口トカゲもそれにあわせて水中を移動し、アルが斜面を上り切るのとほぼ同時に大口トカゲは岸に上がったのだった。アルとの距離は10m程だろう。大口トカゲの体長は4m程、オーソンが言っていたものより育ってしまっている個体だが、だからといって止めることもできなかった。


 アルはもう十分引き付けただろうとゴブリンの死骸に向かって走った。大口トカゲはその後ろをまるでネコのように両足で斜面を飛び跳ねてアルが走るのと同じぐらいの速度で駆け上がる。だが、大口トカゲはすぐにアルを追いかけるのを止めた。途中でゴブリンの死骸に気付いたらしい。オーソンの目論見通りである。

 大口トカゲは注意を払いながらゴブリンの死骸に近づいていった。その時にはオーソンが槍を片手に大口トカゲと川の間に移動し終え、背後から近づいていく。アルは物陰に隠れて次の準備をした。大口トカゲがゴブリンの死骸にかみついた。それをみてオーソンが左手を上げた。物陰に隠れていたアルはゆっくりと狙いを定めながら立ち上がった。


魔法の矢(マジックミサイル)』 


 大口トカゲは肉を食うのに顔を大きく動かしており、目を狙った魔法の矢は3本とも目標を外れ硬い革に弾かれる。大口トカゲは敵意をむき出しにして、アルの方をにらみつけた。だが、大口トカゲはアルを警戒するあまり背後が疎かになってしまっていた。


<貫突>槍闘技 --- 装甲無効技


 オーソンはそのタイミングを見逃さなかった。足を引きずり、つんのめるようになりながらではあったが、大口トカゲの背後に近づき、両手で持った槍で大口トカゲの足の付け根、革の柔らかい所を一気に突き刺した。体重が乗った槍は深々と大口トカゲの身体を貫く。プギーと大口トカゲは大きく鳴いた。



「やったぞっ」


 オーソンの声が響き渡る。大口トカゲは尻尾を振ってオーソンを打ち払おうとしたが、すでに力が入っていないようで、その場に踏ん張ったオーソンを弾き飛ばすことはできなかった。それでもしばらくは大口トカゲもその場でのたうち回り抵抗をしつづけたが、やがて力を失い動かなくなった。オーソンは大口トカゲの身体を足で踏みつけつつ刺さった槍を抜く。傷口からは血がこぽこぽと溢れ出る。


「オーソンさん、やったね」

「おう、アル、やったな」


 2人は拳同士を合わせてお互いを称え合った。


「オーソンさんの槍の攻撃がすごかった。闘技は初めて見たよ」


 闘技というのは、武器で使う必殺技のようなものだ。何度も同じ型をくりかえすことによって強い効果を生み出す闘技というものをつかうことができるらしい。


「そうなのか。お前さんが注意を引いてくれたからな。おかげでうまく止めをさせた」


 オーソンも満更ではない様子だった。


「でかいねぇ……」


 アルは思わず大口トカゲの死骸を見ながら呟いた。体長はやはり4mを超えている。どっぷりとした身体は400キロを超えていそうだ。魔法の矢が通じなかった大口トカゲの表革をアルはゆっくりとなぞった。ごつごつしてたしかに硬そうである。


「ああ、そうだな。運べるかどうか……とりあえず試してみるか。馬車までもっていけば何とか乗せれそうなサイズだがな」


 オーソンはロープをかけようと身体を少し持ち上げようとしてみたが、大口トカゲはびくともしない。


「ちょっと待ってよ。強化の呪文試していい?」


 アルはオーソンに尋ねた。


「ああ、いいぜ」


肉体強化(フィジカルブースト)』 -筋力強化 接触付与


「おい、その魔法って……? 騎士連中が使うやつじゃねぇのか」


 アルはオーソンの身体に触れて呪文を使ってみたが、何も起こらない。


「ん? どうした?」


「いや、まだ修行中だからね。発動率が低いんだ」


肉体強化(フィジカルブースト)』 -筋力強化 接触付与

肉体強化(フィジカルブースト)』 -筋力強化 接触付与

肉体強化(フィジカルブースト)』 -筋力強化 接触付与


 何度か唱え、オーソンの身体に力がみなぎった。


「おお、こいつは、すげぇ、身体が軽い」


「これで、どう?」


 オーソンは大口トカゲの死骸を持ち上げようとした。先ほどまではびくともしなかった巨体がなんとか持ち上がりそうに感じられる。


「いけるかもな」


肉体強化(フィジカルブースト)』 -筋力強化

肉体強化(フィジカルブースト)』 -筋力強化


 アルは自分にも同じように呪文を使った。今度は2回目で効いたらしい。


「じゃぁ、オーソンさん、そっちを持って。まずはロープをかけよう。これで運べそうかい?」


「ああ、なんとか馬車まで運べそうだ。このまま解体業者まで持ち込めたらかなりの金になるぞ」


「リッピにもチップをたっぷり出してあげないとね」


 アルとオーソンは嬉しそうに微笑み、がっちりと握手をしたのだった。



読んで頂いてありがとうございます。

月金の週2回10時投稿を予定しています。よろしくお願いいたします。


誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。


いいね、評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。是非よろしくお願いします。


2023/03/30 別の話の感想にて接触の援護呪文について相手の承諾なしで使用できないという記述が以前あったにもかかわらず、今回オーソンに使用しているとご指摘をいただきました。その通りです。

尋ねて受け入れるという記述を追加しました。今後は気を付けたいと思います。

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― 新着の感想 ―
[良い点] スキルが足りない呪文を成功するまで何度もかけるの、MMOを思い出しますね 獲物取りすぎたり採取しすぎたりして、重量軽減魔法が発動するまで一歩も動けなかったりした思い出(笑)
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