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14-5 研究塔の島 探検


「わぁ、この砂、ほんのりとピンク色なんですね」


 砂浜まで下りたパトリシアは砂を掌にすくい上げ、じっと見つめると、大きな声を上げた。その横でグリィ・ゴーレムも表情はないものの、何度も頷いている。


「綺麗だね。ピンク色だ」


 アルも頷く。辺境都市レスターに近いミルトンの街には港があり、近くに砂の浜もあったが、そこの砂はこんなきれいな色ではなく、少し灰色のかかった色であった。だが、この研究塔のある島で南に伸びた岩礁あたりから内側の砂浜はずっと、うすくピンク色を帯びた白い砂浜であった。


「水も綺麗」


 グリィが呟く。水はかなり透明度が高く、海底は白い砂が続いており、ところどころにある岩場には、色鮮やかな縦縞の魚が泳いでいるのまではっきりと見える。


「あんな色の魚は見たことないな」


 転移(テレポート)の魔道具を使って移動してくると、研究塔のある島は辺境都市レスターより明らかに暑い。もちろん天気も全然違う。研究塔と辺境都市レスターを初めて往復した時にそれを不思議に感じたアルは、マラキにこういうものなのかと尋ねたが、彼は平然とそうですと答えを返してきた。その時に、彼は緯度や経度、海流といったものなども説明してくれた。ただし、内容が難しすぎたのでアルはとりあえず南にあるから暑い、天気はどこも同じという訳ではないといった理解であった。ただ、それ等の変化に伴って、魚や動物、植物などももちろん違ってくるようで、アルの知らないものも増えていた。


「本当......。すごくかわいいです」


 食べられるのだろうか……以前、辺境で大きなカニを見つけて、パトリシアやジョアンナたちと茹でて食べたことがあったが、その後、カニにも毒のあるものがあるのですよとマラキに教えられて驚いたことがあった。狩人として色々と教わった事も場所が違えば違って来るものもあるらしい。


「ねぇ、パトリシア、あの魚は食べられるのか、リアナが知っているか聞いてくれない?」

「はい……リアナも知らないそうです。塔にライブラリが残っていれば出来るはずなのですが、判別するためのデータが膨大すぎて、ここがいくら研究塔といっても揃えていないのですと言っています」


 そうか、さすがにそこまでは知らなかったか。


「ん? そのライブラリって物質(サブスタンス)索引(インデックス)とかじゃ?」


 物質(サブスタンス)索引(インデックス)というのは、辺境の古代遺跡で精製(リファイン)呪文や抽出(エクストラクト)呪文、分析(アナライズ)呪文と一緒にみつけたものだ。辞書のようなものだったが、それには載っていないのだろうか。


「リアナによると、分析をしたい対象に対して分析(アナライズ)呪文で出た結果をその物質(サブスタンス)索引(インデックス)と照合すれば、その構成内容を知ることが出来ますが、それは成分名に限られていて、詳しいところまでは判らないそうです」


 パトリシアが懸命にリアナの説明をアルにわかりやすく教えてくれる。分析(アナライズ)呪文を習得した後、使ってみた時には、以前しらべたことのある対象と今回しらべようとした対象とがどれぐらい一致しているかどうかを調べるための呪文でしかなく、有効な使い方がよくわからなかったのだが、そのような使い方があったらしい。だが、それで魚を調べても、その魚が食べられるかどうかの判定はできるのだろうか?


「難しいそうです」


 リアナの返答を伝えるパトリシアの言葉にアルはがっくりと肩を落とした。結局そうなのか……。微妙だが、使い方が一つ広がったので、今後何かに使える事に期待しよう。魚だけでなく、生えている植物や虫などについても、毒があるかは、すこしずつ触ったり、食べたりして試してみるしかないようだ。毛虫やサソリのように身体の一部に毒があるかもしれないので、そういった事にも注意が必要だ。薬草などについてはアル自身にも少しは自信があったのだが、ここだとあまり通用しないかもしれない。


「大丈夫よ、アリュ。試し方とかは、狩人のモリスにしっかり習ったでしょう?」


 グリィの励ましにアルは頷く。せっかくの海だったので、早速美味しいものを食べたいとも思ったが、こんなところで怪我をすると相談をする相手もいない。食べるものがないわけではないのだ。すこし調べてからにしよう。


「じゃぁ、アル様、砂浜はこれぐらいにして、島の探検に行きましょう!」


 パトリシアは嬉しそうにアルの手を取った。 グリィもアルのもう片方の手を取った。両手がふさがると、何かあった時に対処ができない。


「ここの安全を確認しに来たんだけど?」

「大丈夫よ、一度は上級作業ゴーレムが見てくれているし、今日は二体もついてくれているし」


 グリィがそう言う。後ろを振り返ると、そこには魔法の矢(マジックミサイル)呪文が使える杖を持った上級作業ゴーレムが二体、アルたちに軽くお辞儀をした。たしかに危険はそれほどないと思ってパトリシアやグリィ・ゴーレムを連れてきたのは確かだが……。


「私も手をつないで歩きたい……です」


 パトリシアが恥ずかしそうに小さな声でそう言った。アルはガリガリと頭を掻きたくなったが、両方の手は、パトリシアとグリィとつないでいた。


「うん、わ、わかったよ」


 アルはぎこちなく、そう返事をかえしたのだった。


-----


 アルたちはその後、ゆっくりと島を見て回った。島の真ん中から南西は蔦のからまった鬱蒼とした森であった。見たこともない木々ばかりだが、大きな獣などは居ないようで、獣道のようなものもない。塔のある巨岩が乗っている岩山以外は全体的にゆるやかな起伏があり、何本か細い川とも言えない水の流れがあるようだった。島の北西側はすべて岩場となっており、おそらく舟などを付けることはできないだろう。島の周囲は七キロほどで、途中、歩くのに危ない所は飛行(フライ)呪文を使ったものの、それ以外はずっと徒歩だったため元の砂浜まで戻ってきたときにはすでに日が傾き始めていた。


「なにもなさそうだね。植物と海産物のサンプルを採って帰ろうか。問題が無さそうなら食べれるかな」

「そうね。お魚はいっぱい居そうです」「エビやカニもね」

「だね。今度、漁をするための道具とかも入手してくるよ」


 アルの言葉に、二人は嬉しそうに頷く。再びアルは飛行(フライ)呪文を使い、研究塔のある巨石の上に戻るのに空に浮かび上がった。パトリシア、グリィ・ゴーレム、上級作業ゴーレム2体は全て運搬(キャリアー)呪文の椅子の上だ。パトリシアは鎧を身に付けているわけでもないし、2種のゴーレムもそれほど重くないので問題はない。


「夕日が綺麗」


 パトリシアが呟いた。空にはところどころふわりと雲がいくつか浮かんでいるだけだ。海面から高さ三百メートル。遮るものが何もない水平線に夕日が沈んでいくのはすばらしい光景だった。


「本当に、綺麗だね」

「アル様、今日は楽しかったです。ありがとうございました」「ありがと」

「うん」


 アルは椅子に座るパトリシアとグリィの手を取って、あたりが暗くなるまで、ずっと、夕日を眺めていたのだった。


活動報告やXでも報告させていただきましたが、ノベル第一巻の発売日が決まりました!


9月2日

出版社はTOブックスさんです。TOブックスさんのページでも、発売の予告が載っています。

イラストは sime先生


ノベル第一巻のカバーイラストはこれです


挿絵(By みてみん) 



真ん中はもちろんアルです。

いい雰囲気になっていると思いません?

sime先生からイラストを頂いて、私はおもわずおーっと声を上げてしまいました。


辺境都市レスターの門をくぐる所、遠くに見えている建物は《赤顔の羊》亭となっております。


今回の書籍化にあたっては、何度もWeb連載版を読み返し、読みにくい所を修正した上で、編集さんからもご意見を頂き、構成なども含めて色々と変えております。より、アルの世界が親しみやすく、わくわくしていただけるような内容になっていると思います。


こちらのWeb連載版同様、是非よろしくお願いいたします。


また情報がありましたら、活動報告とあとがきに載せて行く予定ですのでよろしくお願いします。


尚、今回のお話も読んで頂いてありがとうございます。

月金の週2回10時投稿を予定しています。よろしくお願いいたします。


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― 新着の感想 ―
良い絵だな〜
この話も全体的にパトリシアの口調が荒い気がします 二人の距離が縮まった描写の様な気もしますが、パトリシアの育ち的に距離が近くてもある程度の丁寧さは消えないものなのじゃないかと というかこの口調で文章…
[一言] >「それは、たぶんわからないみたい」 パトリシアの発言ですが、上記はすぐ上のアルの地の文に対して発言されています。
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