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9-14 鳥になったアル

「相手が動いてくるのにまだ時間に余裕がありそうという判断で良いです? それなら、僕は連中のアジトや、仲間の数といった事を調べてみようと思うんです。パトリシア様が当日こちらにこられるのは確定なんですよね」


 アルは三人にそう言ってみた。もちろん今回の件では利害は一致しているだろうし、実際に何かできるとすればレビ商会だろう。レビ会頭はしばらく考え込んだ後、アルの言葉に頷いた。


「そうだな。このような裏があるとは夢にも考えていなかったが、テンペスト王国が何か動いてくる可能性はもちろんあり得る。今回、ナレシュ様の支援に注目してしまっていて、そういった配慮ができていなかった。子爵様が本当にテンペスト王国側に寝返っているかどうかはさて置き、何らかの準備は必要だろう」

「パトリシア様、ジョアンナ様には今回の事は言うべきかしら?」


 ルエラが思案顔で尋ねた。レビ会頭とバーバラはそろって首を振る。


「どうするか決まってからで良いだろう。まだ一週間先だ。逆にこの一週間は向こうがあまり手出ししてこないだろうとも言える。もし、向こうの戦力が少なく、犯罪の証拠が確実に掴めるのであれば、懇意にしている衛兵隊と共にアジトに乗り込むこともできるだろう。ただし、誰がテンペスト王国側に寝返っているかもわからぬこの状況ではこの事を知る人間は極力少ないほうが良い。この四人とあとはレジナルドぐらいまでだな」


「向こうに行ってるナレシュ様やデズモンドにはどうする?」


 バーバラがレビ会頭に尋ねる。向こうというと国境都市パーカーのことか。早馬を走らせれば三日程で連絡はできるだろう。


「そちらも、相手の戦力次第だな。今、ナレシュ様はようやく避難民の集落が形になり始めたという大事な局面だ。国境都市領主のパーカー子爵閣下の信頼も得つつある所なので、できれば動かしたくない。それに、中途半端に連絡しても御心配をかけるだけだ。もちろんテンペスト王国側の動きには注意が必要だろう。状況がもう少し明らかになってから報告という形で連絡することにしよう」


 今連絡を送ればデズモンドたちは帰って来れそうな気がする。パトリシアやセレナ、レビ会頭、ルエラが襲撃を受けて万が一の事があればどうするのだろう。彼が帰って来られれば状況はマシになる気もするが、それほど向こうも緊迫状態にあるということか。気になるが、自分が心配することでもないだろう。アルは当面、意識からナレシュたちのことを外すことにした。今の戦力で乗り切るしかないらしい。


「とりあえず、行ってきますね」


 検討は三人に任せ、アルは調査に向かう事にした。


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動物(アニマル)変身トランスフォーメーション』 -コマドリ


 アルはその足で《赤顔の羊》亭に帰ると、明日は用事ができたので行けないというオーソン宛ての伝言をアイリスに頼み、自分の部屋に帰った。そして、内からの閂を確認した後、知覚強化(センソリーブースト)魔法感知(センスマジック)肉体強化(フィジカルブースト)といった効果時間の長い強化呪文を自分にかけてから、動物(アニマル)変身トランスフォーメーションでコマドリに変身したのだった。


 動物(アニマル)変身トランスフォーメーション呪文については、習得を済ませてからいろいろと自分なりに研究し、様々な動物のサンプルを手に入れて変身も試していた。ネズミやリスといった小動物、スズメやコマドリなどの小鳥などはもちろん、とりわけ虫類などは他の動物などに狙われる事が多かった。都市の外にでて試した時には、何度も襲われかけてあわてて変身を解いたりしたものである。逆に、それらを襲う猛獣、猛禽になると今度は人間にみつかると大騒ぎされてしまう。どちらにしても気楽には使えなかった。

 だが、上手く使える場合もあった。今回のような街の中の場合もその一つである。小型の犬や猫、小鳥といった類は意外と安全なのだ。もちろん領主館や騎士の駐屯所といった魔法そのものが感知される可能性がある所や腹をすかせた人間が多いスラムでは気を抜けないが、それ以外のところではほとんど危険を感じる事はなかった。隠蔽(コンシール)呪文を使うとどうしてもゆっくりとした移動しか行えない。もし、相手が馬車などを使って移動し始めた場合、逃がしてしまうかもしれない。アルはそう考えて小鳥に変身して近づくことにしたのだった。

 そして、動物(アニマル)変身トランスフォーメーション呪文も隠蔽(コンシール)呪文と似ているところがあり、変身中は発声ができないために呪文が使えないものの、事前にかけた呪文は解除されずに残る。特に身体能力が変身した対象と同じものになってしまう動物(アニマル)変身トランスフォーメーション呪文の場合、魔法による能力の底上げは非常に重要であった。

 

 アル(コマドリ)は、グリィのアシスタントデバイスに足で触れた。変身した瞬間に着ていた服と共にペンダントとして身につけていたものも床に落ちたのだ。


“気を付けて行ってきてね”

「ヒンカララララ」


 アル(コマドリ)はそう囀って答えた。コマドリの聴覚は人より優れており、人の声を聞き分けることもできる。だが、人の声を発することはできない。アル(コマドリ)はあらかじめ小さく開けておいた窓からパタパタと飛び立ち、見張りの男たちが居た領主館の近くの路地に向かったのだった。


 《赤顔の羊》亭から領主館まで、早足で移動しても普通なら15分ぐらいはかかる距離だ。だが、コマドリであれば安全を優先し、軒先や街路樹をたどる様に飛んでも五分とかからない。領主館裏口近くの路地には、手持無沙汰気にまだ若い男のほうが一人、身を隠して裏口の監視を続けていた。その様子はじっと裏口を見つめるような事もなく、ただ手持無沙汰に座っているだけという風情である。アルも、あの時(アン)の兄貴と呼ばれていた男が一緒に居て、その顔を憶えていなければ気付かなかっただろう。かなりの腕の斥候だと思われた。


 残念ながら、その(アン)の姿は見えない。交代の時間にはまだかなりありそうだった。アルはしばらく若い男をコマドリの姿で観察したが、特に動きなどもない。夕方までこのまま待つか、一度引き上げるか、アルは少し迷い、そして(アン)の兄貴と呼ばれていた男が“正門のほうのガキに話を聞いてくる”と言っていたのを思い出した。この間にそちらの様子を確認しておくのも良いだろう。


 領主館は魔法に対する警戒も厳しいはずなので大きく迂回して正門に回る。正門と言うだけあって、領主館の正面は警備の衛兵の数は多い。ざっと見回しただけでは怪しい連中は見当たらない。だが、周囲を飛び回ると、正門が辛うじて見えるぐらいの一つの路地の奥に三人のあまり身なりの良くない少年たちが座り込んでいるのに気が付いた。年は十二、三といったところだろうか。身長でいうとアルとあまり変わらないぐらいである。

 その三人は少年というにはそろって表情に乏しく、じっと黙ったまま正門を見ていた。なにか虚ろ気な印象であった。アルの偏見かもしれないが、こういった連中が集まっていれば、なにかバカ話をしたりして楽しそうに喋っているものだ。なにか異様な雰囲気を感じただけであった。


 アル(コマドリ)は仕方なく、会話も動きもない双方をたまに行き来しながら監視の監視を続けたのだった。


読んで頂いてありがとうございます。

月金の週2回10時投稿を予定しています。よろしくお願いいたします。


誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。


いいね、評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。是非よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
ラピ◯◯は本当にあるんだ!
[一言] アルが死んじゃったみたいなタイトルなんだけどw
[一言] 街中には猛禽は居なくても コマドリなんて猫とかカラスとかに食われそう
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