9-10 遺骨回収
一週間後の夕方、アルはブルックと共に遺骨回収の仕事を無事終えて再び辺境都市レスターに帰って来た。旅程そのものは数週間前に辿った道であるので日数はすこし余分にかかった位で他に大きな問題も起こることはなかった。
ブルックは、アルが想像した通りユージン子爵家に仕える準騎士であった。騎士と準騎士の違いは、騎士は騎士爵と呼ばれ世襲であり、れっきとした貴族階級であるのに対して、準騎士は騎士と立場はほぼ同じである(準ずる)ものの、功績によって与えられた一代限りの階級であるという点であった。
二人は領主館に荷運び人たちと到着すると、共にユージン子爵家の執事であるジョセフに報告を行った。彼はヘンリーの遺骨の入った棺に恭しく礼をした後、中を確認して大きく頷いた。
「ブルック、ご苦労。詳しいことは後で報告書を作成して提出せよ。アルフレッド殿も協力感謝する。ユージン子爵閣下も安心される事だろう」
ブルックとアルは丁寧に礼をする。すると、たしかコンラッドと呼ばれた男がトレイに巻物と金貨を載せたトレイを運んできた。
「アルフレッド殿、昨日無事に飛行の呪文の書が届いた。あと、今回の依頼料、約束の金貨3枚だ。両方とも受け取って、受取証にサインをしてくれたまえ」
“やったねっ、アリュ。ようやく飛行ね。これで私の身体が手に入る”
グリィの声も嬉しそうだ。領主館には来たが、今日は子爵に会うことはないだろうと考えたし、この都市について直接報告に来たのでアシスタントデバイスは身につけたままだ。
ついに飛行呪文を手に入れた! アルは思わずにっこりと微笑んだ。頬ずりせんばかりにして呪文の書を受け取り、急いで金貨を仕舞う。
「ありがとうございます」
「アルフレッド殿、協力感謝する」
ブルックは、まるで騎士を相手にしているかのようにアルにきちんとした礼をした。
「いえいえ、こちらこそ問題なく仕事を終えることが出来てよかったです」
アルはにっこりと微笑んで返事を返した。ブルックは口数こそ少ないものの必要な指示や確認作業は的確で、特に威張ったりすることもなく、一緒に仕事をしても本当に楽な相手であった。
「いや、それは、アルフレッド殿が斥候としても、また、魔法使いとしても有能であったからだ。とても15才とは思えぬ。それに、食事の用意を手伝ってくれたのは本当に助かった。今まで任務中の食事など腹さえ膨れれば何でもよいと考えていたのだが、これほど士気に差が出るとは思わなかった。目が覚めた思いだ」
食事を手伝ったというのは、習得したばかりの温度調節呪文の練習も兼ねて食料として持ってきたパンを温めたり、スープを作ったりするのを手伝ったりしたことだろう。たしかにカチカチに硬くなったパンはすこし温めると断然美味しくなる。誰でも少しはがんばろうという気になるだろうが、アル自身は荷運び人と一緒に仕事をしたことなど数えるぐらいしかない。そんなに差が出たのだろうか。
「あはは。それは良かったです」
アルはとりあえずそう答えて頭を掻く。
「うむ、そうなのだよ。また機会があればよろしく頼む」
ブルックの答えにアルはにっこり微笑んで頷いた。そして、逸る気持ちを抑えきれず、ジョセフたちに礼をして部屋を退出したのだった。
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飛行!飛行!飛行!
アルは心の中で繰り返しながら、小走りで《赤顔の羊》亭に帰りついた。挨拶もそこそこに部屋に行こうとしたのを、アイリスが慌てて止める。
「アルさん、おかえりなさい。三日前から、ジョアンナさんからの使いだという人とルエラさんからの使いだという人、このお二人が何度もアルさんに用事があるって訪ねて来ています。二人とも帰ってきたらすぐに連絡をしてくれとの事です」
何かあったのだろうか。ジョアンナはユージン子爵とセレナがパトリシアに対する何か申し入れをするのではないかと危惧していたがそちらに動きがあったのかもしれない。ルエラも同じ用件だろうか。すぐに連絡が欲しいというが、もうすぐ夜になる時刻である。さすがに女性を訪ねて良い時間ではない。
アルは少し迷ったが、レビ商会に顔を出すことにした。異変があったとすれば、そちらで情報は手に入る可能性は高い。着いた時にはもう日は沈んでおり商会の出入口は既に閉まっていた。だが、裏口に回ると、そちらの出入口はまだ開いていた。
「こんばんは。バーバラさんは居ますか?」
幸い、バーバラは詰め所に居たようで、アルが尋ねるとすぐに通された。詰め所には他に誰も居ない。
「よく来てくれたね。ルエラ様には今、召使の子が呼びに行ってる。もうすぐ来られるだろう」
「さっき帰ってきたところなんです。この時間なので迷ったんですが、とりあえずこちらに顔を出しておけばよいかと思って……」
アルの答えにバーバラは頷き席を勧めた。この時間だというのに、ルエラは自分と会おうとするのか。余程の緊急事態なのか。
「助かるよ。ついでに話しておきたいことも有ったんだ」
ついでにとはどういう事だろう。緊急事態だというのなら、その用件が先ではないのか。アルは色々と疑問を感じながら、バーバラに勧められるままに対面の椅子に座る。
「実はね、あんたがみつけた《黄金の龍》亭の部屋だけど、交渉を繰り返して何とか部屋の中を調べることが出来たのさ。でもまぁ、予想通りほとんど何も残ってなかったよ。でもね、なんとなくさ……」
「なんとなく、何です?」
アルは身を乗り出すようにして尋ねた。
「高級な宿屋だと衣服を洗濯してくれるサービスとかがあるじゃないか。連中もそれを利用してた。残された服を見るとね、服がうちの国とはちょっとちがっているのさ。飾りとか、釦が使われずにその代りに紐を使っているとか、そういう特徴がね。そう思って調べてみた。あれはね、テンペスト王国で作られた服だと思う」
テンペスト王国製の服ということはあの連中はテンペスト王国から来ている密偵か何かということか。アルの問いにバーバラは頷いた。
「そうさ。でも、その連中の意図はわからない。あの後の足跡も辿れなかったしね。単にレイン辺境伯の動きを調べに来て立ち寄っただけかもしれない。ナレシュ様がかなり目立つことをされているからね。そしてこのレビ商会もナレシュ様を手助けしているのでそういう意味では不思議ではないかもしれない。でも、もう一つ可能性があるよ」
バーバラがアルをじっと見る。パトリシアの事か。テンペスト王国を簒奪したプレンティス侯爵はおそらく彼女の事を探しているだろう。血縁が居る辺境都市レスターに見張りを置くというのは考えられることだ。アルは不安を憶え、自分の胸元、グリィが宿るアシスタントデバイスがあるあたりをぎゅっと握りしめた。
「ということは……」
アルがそう言いかけたところでルエラが侍女を連れてやってきた。
「こんばんは。アルフレッド君。来てくれてよかった。唐突で悪いけど、あなたに質問があるの。あなたはパトリシア様の事をどう思っているのかしら?」
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