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2022年 光の家庭  作者: ヒトミ
第一部 本然の自分に還る
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信仰告白

 そうして自分に軸ができていったある春の日、私は両親に自分の信仰を打ち明けることを決めたのだった。母と待ち合わせをして、川辺にある満開に咲いた桜を一緒に眺めて、カフェでお茶をした。

「あのね、実は信仰を持っているの」

 と、新興宗教の名前を母に伝えると、

「本当に最悪だわ……」

 とだけ言い、母は静かに涙を落とした。私は只々それを見ることしかできなかった。


 そこから、しばらく大変憂鬱な時を過ごすこととなった。

 あの日、母は海外赴任していた父に伝え、父が一時帰国するタイミングで私達は再度話し合いをすることになった。始まる前から空気は重々しく、この場から離れたかったけれど、ちゃんと親と向き合って対話することを心に決めていた。

 そして、始まった。父も母も頭ごなしに怒るということはしなかった。

 この宗教に対する両親の印象、「人様に迷惑だけはかけてほしくない」、「勧誘だけは絶対するな」という心配と忠告、そして、「どんな娘であれ、親としてずっと愛している」という愛情を伝えられた。私も答えられるだけ答えようとしたけれど、涙と想いはとどまることなく溢れ出て、平静を保って話せず、全く収集がつかない状態となるばかりだった。

 自分が信じたものを、自分の中でやってきただけだ──。

 けれども、新興宗教の信仰を持つということが親に多大なストレスを与え、結果、それが迷惑をかけることになるということも理解はできたし、両親の十分な愛情や想いもわかるのだった。

 しかし、一方で親への信仰告白も並々ならぬ決意だったのだ。

 信仰の一世となる私達の信仰告白は親の反対により棄教となる可能性もあり、慎重にした方がいいと教会の人達から言われてきた。だから、自分の中である程度、教理への確信と神様や信仰の霊的体験で信仰が固まらなければ、信仰告白には踏み切れなかった。ゆえに、そうして強く決意したものを簡単に棄てることは難しかった。 

 共存し合えないこの問題はずっと頭を悩ませ、結局、その後数年間、信仰の黙認という形で打開点を見いだせないまま、どこかわだかまりとなって残ってしまうのだった。


 親への信仰告白を含め、「新興宗教」というレッテルは時に私の足を大きく引っ張った。

 そして、それは、親孝行な娘になるという私の夢の一つをも、限りなく遠くへ持って行ってしまった。

 それでも、信仰は棄てたくなかった。だから、せめて社会では立派に活躍する姿を見せようと努力した。


 当時、私は知人の紹介で入った経営コンサルティング会社で働いていた。東京に上京してきた頃から、価値観ややりたいことが変わっていったからだった。今までとは畑違いの業界で、業務に携わりながら、上司や先輩に感化され、簿記や会計の勉強を始めていた。はじめは新しい知識を学ぶことが純粋に面白かった。けれども、それはいつしか、社会の中での成功の形、証明として「会計士になる」にすり替わっていってしまった。

「新興宗教」というレッテル、元々の自己肯定感の低さからくる承認欲求、信仰からくる使命感など様々な要因が雁字搦めに絡まっていたのだ。むしろ、絡まっていることにも気づかないで、昼は仕事、夜は公認会計士試験の勉強をひたすら勤しんでいた。必死だった。

 けれども、本質からずれたやり方なんていつまでも続くわけがなかった。

 無理とストレスがたたって、ある朝、身体が動かなくなり、起きることもできなくなった。仕方なく会社に休みの連絡を入れて、昼近くになって、やっと少し動けるようになり、鍼灸院へ行くと、先生は言った。

「限界を超えちゃったんですね」

 私の中にあった張りつめていた糸のようなものがプツンと音を立てて一瞬にして切れてしまった。幸い身体はすぐに回復した。けれど、勉強をする気が一向におきない。どうしよう。ここまでやってきたのに。でも、心の踏ん張りがきかないことは自分でもわかる。

 そんな私を見かねて、一緒に生活していた、信仰の友達多恵ちゃんが言った。

「一度私の親と会ってみませんか。話しを聞いてもらったらいいと思います」


 多恵ちゃんは呉服屋さんの娘さんで、信仰の二世だった。私より十歳年下の大学生だったけれど、とてもしっかりしていた。どんな人にも暖かい目で見守って寄り添える子だったし、時折見せる所作や祈り、彼女が選んだものには品性を感じさせた。子供の頃から親御さんにとても愛されて、躾けられて育ったのだろう。そのご両親が用事で東京に来るのだという。

 多恵ちゃんとカフェに向かうと、すでにご両親は席に座っておられた。お父さんは真面目そうで、姿勢よく腰掛けられていて、お母さんは笑顔でいらして和やかな方だった。

 多恵ちゃんのご両親は信仰の一世で、お二人とも、何かのきっかけで教会に入教し、教会の中で出会って結婚した夫婦である。だから、世代は違えど、私にとって一世の先輩であったし、一世の信仰観や直面する課題についてもよく理解をされていた。

 私が自己紹介とこれまでの過程や悩んでいることを話していった後、お父さんははっきりと言われた。

「神様の祝福、結婚に向けて準備をしなさい。これは神様の導きの中で与えられるものだから、神様と心を合わせて、準備することが大事になってくる。特に一世が神様の祝福を受けるのは、簡単なことではない。色々な環境が内外共に整ってきた流れで、与えられるものなんだよ」

 実際に経験したことを元に発せられる言葉には重みがあった。多恵ちゃんのお父さんの言葉は、私の迷いをスパっと断ち切ったのだった。ようやく、未練があって宙ぶらりん状態になっていた勉強を一旦手放すことを決めた。今、やることは勉強ではなく、結婚の準備なのだ。

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