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2022年 光の家庭  作者: ヒトミ
第二部 日本の陰陽結び
18/26

九州トリップ① 高千穂

 熊野神社に行く前日の夜、明子からラインのメッセージが入ってきた。

「九州にある幣立神宮に行きたいんだけど、一緒にいかない?」

 時に明子の言葉や提案は私の思いもよらないところからやってくる。今回もそうだった。コロナ禍で旅行も帰省も避けていた私にとってはまさに斜め上からボールが飛んでくるようなお誘いだった。

 幣立神宮には毎年八月二十三日に「五色神祭」というものがあるという。世界人類の肌の色を五色で表し、世界人類の祖神である五色人が集い、五大人種が互いに認め合い、助け合う和合の世界を祈願する祭だそうだ。

 二十三日はさすがに急なのだが、明子は来月の例祭に行こうと考えていた。

 私は正直迷った。しかし、心はやはり正直だ。明子の唐突なお誘いに、心はワクワクし、行きたい!と言っているのが分かった。

「いこっか、九州」

 私達の一泊二日の熊本弾丸ツアーはこうして決まった。


 当初、高千穂と弊立神宮を回るはずだった。しかし、予想外のことが起きた。出発二週間前に片道の便が欠航となったのだ。仕方なく、急遽、二泊三日に切り替え、旅行の事前打ち合わせをした。

「ねぇ、明子はどこにいきたい?」

 全日程を運転するのは明子だ。あまりにも長距離すぎるのは悪いなと思い、私は熊本市内や阿蘇の辺りの地図を開きながら明子に聞いた。

「鵜戸神宮に行きたい。見て、これ面白そう」

 と彼女はのんきそうに私に写真を見せながら、答えた。地図を見てみると、鵜戸神宮は宮崎県の下の方、ほぼ鹿児島県だった。またしても私の予想を超えてくる返しだ。

「こんな長距離大丈夫なの⁉ 飛行機は熊本空港発着だよ」

「うん、大丈夫」

 余裕そうに彼女は言う。そんな彼女の頼もしい返事に私も欲が出て、言ってしまった。

「宮崎県の西都市にね、邪馬台国があり、卑弥呼がいたと『古代日本正史』の本に書いてあったの。西都市の西都原古墳に行きたいんだけど……」

「うん、全然いいよ。行こう」

 彼女は気楽に答えた。西都市に行けることになったのだ。やった!思いがけない流れに驚きと興奮がどっと押し寄せ、心が躍った。


 九月十四日の早朝、成田空港で明子と待ち合わせた。

 私は荷物を最小限にして身軽で来た。一方で、明子は荷物がたっぷり入った大きいリュックサックを背負ってきた。

「一緒にお茶飲もうと思ってさ、アウトドア用のお湯沸かせる鍋や固形燃料とか持ってきたよ。山行くわけじゃないのにね」

 変な方向に行ってしまった彼女の興奮がおかしく、思わず笑ってしまった。飛行機に乗るのも一年半ぶりだ。いつにもましてドキドキする。

 加えて、数日前から台風十四号が九州に迫っていて、飛行機が欠航するのではないかと冷や冷やもしていた。そんな台風も今は東シナ海で停滞してくれているらしい。なにはともあれ、私達はなんとか出発できたのだった。

 熊本空港に到着し、レンタカーを借り、私達はまず日本神話ゆかりの地である高千穂へ向かった。高千穂は宮崎県北西部に位置し、五ヶ瀬川上流域にある。高千穂神楽も有名で、この町へ入ると、様々な所で神話のモニュメントを発見した。

 高千穂峡に到着だ。高千穂峡は阿蘇山の火山活動によって噴出した火砕流が、五ヶ瀬川に沿って帯状に流れ出し、急激に冷え固まることで、柱状節理ちゅうじょうせつりが生じ、浸食されてできたⅤ字渓谷で、国の名勝・天然記念物に指定されている。高さ八十メートルから百メートルにも達する高絶壁が東西に約七キロメートルにわたって続いているのだ。

 また、「眞名井の滝」も有名だ。約十七メートルの高さから水面に落ちるこの滝は、「日本の滝百選」に選ばれている名瀑だ。自然が創り出した見事な絶景を堪能しながら、歩を進めていった。

 その後は、高千穂の神社巡りを行った。高千穂峡に近い高千穂神社に始まり、槵觸くしふる神社、荒立あらたて神社、天岩戸あまのいわと神社、天安河原あまのやすかわら瀬織津姫せおりつひめ神社を訪れた。

 はじめは、高千穂神社だ。ご祭神は高千穂皇神たかちほすめがみと十社大明神であり、古来より高千穂郷八十八社の総社として崇拝されてきた神社である。

 大きな銅板巻き鳥居をくぐり、参道を進み、石段を上ると銅板葺きで入母屋造の拝殿が見えてくる。

 本殿は銅板葺きの五間社流造で、欅材を用いて丁寧に作られた装飾やこの地方の伝説をあしらった彫刻が随所に施されていて、非常に充実していた。また、本殿の縁側の一部には、一間社両流造、銅板葺きの稲荷社も設けられており、こちらもとても珍しいものだ。

 そして、境内には、「夫婦杉めおとすぎ」という根元の幹が繋がった二本の巨大な杉も立っていた。この杉の周りを夫婦、恋人、友達と手をつないで三回まわると縁結び、家内安全、子孫繁栄の三つの願いが叶うという。

 次は槵觸神社に訪れた。天孫降臨の地として伝えられる「槵觸の峰」に創建された神社で、瓊々杵尊ニニギノミコトをはじめ、降臨された神々を祀っている。元々は峰そのものが御神体とされていたが、一六九四年に社殿が建立された。

 濃茶色がかった大きな銅板巻きの鳥居をくぐって、木々の間にある広くて長い参道を進んでいくと、相撲場が見えてくる。その先をさらに進み、こう配が急な石段を登れば、到着だ。

 銅板葺きで軒唐破風、入母屋造の拝殿と銅板葺きの三間社流造の本殿となっている。本殿には、鳳凰や龍、二十四孝といった立体的な彫刻が施され、細やかな意匠は目を見張るものばかりだった。

 三番目に向かった先は荒立神社だ。ご祭神は猿田彦神と天鈿女命アマノウズメである。天孫降臨の道案内をつとめた猿田彦神が天鈿女命と結ばれ、荒木を用いて急いで宮居を建立したという。その後、神社建立の際、この伝えを元に、荒木で白木造りにしたことから、「荒立宮」と称したことが、社名の由来である。

 木製の神明鳥居を通り、石段を数段上ると、銅板葺きで切妻造平入りの本殿・拝殿が見える。境内には、「七福徳寿板木」や「未来板木」などのいくつかの板木が設置され、木槌でそれぞれ七回打つと願いが叶うというユニークな願掛けもあった。

 その後は天岩戸神社西本宮と天安河原へ向かった。天岩戸神社には、岩戸川を挟んで、西本宮と東本宮があり、両社とも天照大神を祀っている。

 西本宮の入口には大きな木製の神明鳥居が立っていて、その先を進むと、石造の二の鳥居が見えてくる。その先、右側に神門があり、神門をくぐると正面に社殿が建っている。日本神話の天岩戸神話で、天照大神が岩戸に隠れた洞窟が、西本宮の御神体となっているため、本殿はなく、拝殿のみの作りとなっている。

 天岩戸を拝む場合は、神職さんが定期的に案内するため、社務所での受付が必要となる。神職さんの案内、お祓いを受け、拝殿の右側から私達は拝殿裏手にある遥拝所へ向かった。岩戸川対岸の断崖の中腹に、天岩戸はあった。崩れた後の一部しか見えないが、あるにはあるのだ。

 拝んだ後は、社殿へと戻り、神職さんの話を聞いて解散となった。拝殿の左側には、切妻造妻入の御旅所や神楽殿も見かけた。

 全ての参拝を終えて、天安河原へ進む。天照大神が岩戸に隠れた際に、天安河原で八百万の神々が集まって相談した所だという。思兼神おもいかねのかみ八百萬神やおよろずのかみを祀っている。

 西本宮から岩戸川に沿って約五百メートル、約十分歩くと、天安河原の洞窟に辿りついた。別名「仰慕窟ぎょうぼがいわや」と言われるこの洞窟は、間口四十メートル、奥行三十メートルの大きなもので、中央に木製の鳥居が立っている。

 洞窟内には六、七段ほどの小さな石を積み重ねたものがびっしりと敷き詰められていて、その光景は洞窟の暗さと相まって、異様な雰囲気を醸し出している。あとで調べると「願いを込めて小石を積むと願いが叶う」という願掛けだったらしい。それを知らないで見ると、奇怪な儀式か何かが行われたかのようだった。

 洞窟の奥にある銅板葺流造の天安河原宮で早々と参拝をすませた。そして、精霊でも出てきそうな不思議な雰囲気の洞窟を立ち去った。

 気付けば夕暮れにさしかかっていた。夢中で回っていて、お昼もまともに食べていなかった。少し疲れを感じ始めた時、明子は言った。

「あと、瀬織津姫神社に行きたいな」

 ここまで来たのだから、行くしかない──。今日最後の神社へ向かった。ご祭神である瀬織津姫は大祓祝詞に登場するは祓い浄めの女神である。永ノ内川と岩戸川の合流地点にある瀬織津姫神社は、目立たない場所にあり、夕方近くにしっとりと降る雨は静かさをいっそう際立たせていた。

 天岩戸神社東本宮の通りから人気がない道路を徒歩十分程、歩く。道路際に小さな標識が見え、木の小さな鳥居をくぐると、さらに細い山道のような道に入り、永ノ内川の断崖に沿って下っていく。その先に小さな社はあった。

 小さな社に辿りついた時にはこみあげるものがあった。たくさんの神社を巡り終えて、疲れきっていたし、雨が降っているのに、傘もさしづらく、服も濡れた。この細く奥深い道がどこまで続くのかもわからず、少しイライラも出てきて、ただ無言で突き進んでいたところだった。

 そんなイライラと疲れを川の音と共に、瀬織津姫は祓い清め、癒してくれたのだった、私達は一日を終え、南阿蘇の地で一晩すごした。

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