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されど神に感謝すべし(結成編)  作者: 近衛モモ
Secret base by the sea
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友達の友達


 その日の放課後、呑気に廊下をテチテチ歩いていた優都。


 するとそこへ、さらに能天気な二人がやってきた。


 稲早 兎と、夜中迷。


 夜中 迷は初対面だ。兎が仲良くなった女子生徒とは彼女のことらしく、二人が声を揃えて仲良く、それもわざわざ廊下の端から、


「桜庭先輩、やっほー!」


 と声をかけてくるので、他人のふりをして無視して帰るわけにもいかなかった次第である。


 今時、やっほー!なんて声のかけ方をする人を初めて見た。と、心の中だけで呟く優都。


「やっほー!はいいけど、廊下の端から呼ばないでくれ。」


「こんちわっす、先輩! 今日は友達のいない先輩に友達を紹介するっす!」


「こんなに気の利く後輩見たことない。憎い…。」


 褒めながら憎しみを抱く優都。兎は基本的に存在が余計なお世話なのである。


「夜中 迷と申します! 縮めてよまちぃとお呼びください!」


 両手でびしっと優都を指差す。少し子供っぽい仕草の夜中 迷。通称よまちぃ。


 高い位置で髪を二つに結って、濃紺のセーラー服を着ている。中学の時の制服だろうか。


 優都は初対面の人を前にすると、苗字で呼べばいいのか名前で呼べばいいのか悩んでしまうほど、友達居たことないので距離感が掴めないのだ。


 なので、こうして自分からアダ名を提供してくれる人は大歓迎である。


「わかった。よろしくな、よまちぃ。」


「はい! よろしくお願いします優都様!」


「様?」


 様なんて呼ばれたことがない。


「なんか、先輩は本尊なんで尊いらしいっす。」


 という兎からのよくわからない説明が来る。俺、大仏か何かだと思われているのかな。と優都は心の中だけで思った。


「先輩と後輩といえば、まさしく学園モノの定番!よまちぃ感激です!まさか高校生活始まって即刻、推せるCPを発掘出来るなんて、やはり物欲センサーは実在するのですね!」


 やたら早口になって捲し立てる迷が面白いので観察していると、


「はい、それはともかく…。」


 と、兎が話を横に流していく。


 どうやら兎は、事前に迷のこの早口ペースに耐性があるようだ。


「彼女は俺と同じクラスで、席が近いんで話とかしてたら、めっちゃ気が合って…。で、色々あって仲良くなったっす!」


 色々あった部分は潔くすっ飛ばしていく兎。


「肝試しに一緒に行くって言っていたのは彼女か?」


「そっす! それで、今日はその話を先輩にしようと思ってたっすよ。」


 それでようやく話が本題に入るというわけだ。


 優都は幼い頃から霊媒体質に悩まされていながら、わざわざ肝試しに誘われているのである。


 自分のその体質について、人に打ち明ける気は全く無いのが、優都の悪いところだ。


 人を信用して頼るようには出来ていない。


「実はウチ、親父が不動産やってるっす! んで、事故物件とかいくつも抱えちゃってんすけど、俺らが遊びに行って何もなかったら、オバケいないってわかるじゃないすか! だから、手伝い感覚で、廃墟の様子を見に行くっすよ。」


「一応、親父さんの仕事の手伝いではあるんだ?」


 そう言われると安心してしまうのは、空き家に不法侵入するつもりではないらしい、ということだ。


 建物を管理している会社に許可を取れるというなら、怒られたりする心配はなさそう。


 そして、目的が明確で人の役にたつというなら、ただ軽はずみに遊びに行くわけではないようなので、気の持ちようが違う。


「まぁ、人の役にたつのなら…。」


 そういうことなら話は簡単。優都の場合、霊障が起きるかどうか確認するだけなので、これほど適任な被験体もいない。


 もういっそのこと、それで食べていけるくらいである。かなりハードワークになるのは間違いない。ピクトさんくらい働く。


「優都様は何か怖い事があれば、いつでも兎様に抱きついてもらって大丈夫ですよ!」


 という迷のアドバイス。特になんの足しにもならない。


「それで、その事故物件って?」


 優都が話しを本筋に戻す。


「街はずれの丘の上にある空き家っす! 前からオバケが出るって噂があって、人が寄り付かないんすよ。まぁ、街から離れたとこに建ってるんで、立地が悪くて買い手がつかないだけかもしんないっすけど…。」


 という兎の紹介物件を、実は優都も迷も知っていた。結構前から気にはなっていたのだ。


 外観はとてもお洒落で、三角のお屋根もついた可愛らしいおウチなのだが、優都お気に入り物件にも関わらず人が出入りする気配は全くない。


 もう随分前から空き家だということは、この街に住む人間ならみんなが知っている。


「あの三角屋根のおウチ?」


「よまちぃも見たことあります! あの家は、何か事件でもあったのですか?」


 優都の住んでいる街は、餓者髑髏が飲み込んだ海沿いの町ほどは小さくないが、それでも都市のように広くはない。


 事件があれば噂くらい耳に届いていそうだ。実際、以前に爬虫類専門家に飼育されていた大蛇が脱走した時は、街中でかなり騒ぎになって、警察が出動したことがある。


 優都も近所だったので泣きそうになった。


「事件っていうか、事故っすかね? その家には老夫婦が二人で暮らしてたんすけど、おばあちゃんの方は足が悪くて、車椅子に乗ってたっすよ。でも、その車椅子の事故でおばあちゃん亡くなって…。おじいちゃんは、あの家にいると辛い気持ちが消えないからって、出て行っちゃったっす。」


「そんな話し、初めて聞いた。」


 目を丸くする優都の横で、迷も同じような目になっている。


「それで、その事故とオバケとは、なんの関係があるのでしょうか?」


「車椅子のオバケが出るっすよ! 通りかかった人が、空き家の窓辺に動く車椅子を見たらしいっす。」


「え…?」


 兎の話に思うところがあり、優都は思わず声を上げてしまった。


「じゃあ、オバケって、そのおばあちゃんなのか?」


「噂じゃそうなってるっす。おばあちゃんは家の中で亡くなったらしくて、今も地縛霊になって、そこにいるらしいとか。あの家に近寄ると、庭から誰かに呼び掛けられるとか。」


 ふむ。と、優都が顎に手を当て思案する間が空いた。話を聞きながら、何か妙に喉に詰まるような感覚を覚える。


 仲が良かった老夫婦。妻に先立たれた老い先短いご老体。


 幽霊になったおばあちゃん。


「悪い事するような霊じゃないといいけど…。でも、なんか引っかかるなぁ。」


「悪い事するとかしないとか、霊にもあるんすかね? とりあえず、火の玉が出たとかいう話しもあるっす。」


「うーん、ますますおばあちゃんっぽくない。見に行ってみないことには、なんとも言えないけど…。」


 この時はまだ、優都が何に引っ掛かっているのかということは、兎も迷も理解を得ないままだった。


 優都自身も、自分が何に不具合を感じているのか、明確にはわかっていないので、説明のしようがない。


 ただ、優都の胸の中にある想いは一つだけハッキリしている。


 何故だか話に聞く車椅子のおばあちゃんは、兎の言う地縛霊とは印象が違いすぎるように感じた。


「その、動く車椅子が出るという物件は、いつ見に行くのですか?」


 続いてよまちぃが横から口を挟む。


「親父に鍵借りて、内覧許可貰ったのは、今週の土曜日っす!つまり、明後日っすね!」


 今日は木曜日。真昼は明日が初登校日と言っていたので、そのあとすぐに二連休のお疲れ休みといった流れらしい。


「そっか。明後日休みなんだ…。」


「だから、みんなで肝試しするっすよ!んで、そのあとはお好み焼き食べに行って反省会ってことで!」


「はい!?」


 急に聞いていない予定が増えて、優都は驚愕する。


「外食するなんて、聞いてない。」


 お小遣いの心配はもちろん、優都は少食なので外食に苦手意識しかないです。


 食べきれなくても、置いておいて明日の朝御飯にするということが出来ないので、食べきれるか心配になってしまう。


 あと友達いないので、家族以外の人と外食に行った経験はない。


「お好み焼きって、お腹いっぱいになるやつ?」


「え?なるっすよ?三枚くらい食べれば。いっぱい頼めばいっす。」


「頼まない!むしろ、一つが食べれるかわかんない!」


「あー…、そういう心配っすか。桜庭先輩細いんで、何食べて生活してるんだろって思ってたんすけど。胃が小さいんすね、きっと。」


 優都は胃も小さければ、肝も小さくて、ついでに心も狭いっす。


 そんな優都に、迷は横から妥協案を出す。


「では優都様。優都様が食べれない分は責任持って兎様に食べていただくということで、どうでしょう?」


「そうしてくれると、助かるけど…。」


 優都はウルウルしたおめめで兎を見つめた。


「あーはいはい。じゃあ俺、序盤セーブしながら頼むんで、先輩が食べきれないかもって思ったところで、俺の陣地にズイッて押してきたらいっす。」


「頼もしい~。俺、初めて兎の事をカッコいい人だなぁって思った!」


「いや俺は出会った時からカッコいいっす。」


 兎と優都のくだらん会話を横で聴いていて、


「これぞまさにフェアリーテイルです!」


 迷はほっぺに手を当てハートを撒き散らしながら、そう断言した。



 ふと、優都は思いつく。


(そういえば、肝試しの事は真昼に何も伝えてないけど…。真昼も知らないグループの集まりにいきなり招集されても迷惑だろうし…まぁ、いっか。)


 この『まぁ、いっか』の感覚が、後で大惨事を呼ぶ。



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