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されど神に感謝すべし(結成編)  作者: 近衛モモ
Teacher call a storm
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七つの箱



「校舎の中で一番霊が写真に映りそうなのは、どこだと思う?」


 カメラを手に持つ諏訪部長が明るくそんなことを言って、


「校内にそのような場所があるのですか?」


 不思議そうに瑞埜が尋ねる。


「旧校舎だよ。幽霊を研究している君たちが、身近なところにある怪談を知らないとは意外だな。」


 心霊写真を撮るという目的の為に、校舎の中を練り歩いている暇な高校生たち。


 今いるのは瑞埜たち一年生の使う教室がある別館だ。


 外は嵐。旧校舎はここから少し離れた場所に建っている。


 真昼は諏訪部長の口にした旧校舎の怪談に興味を持って口を開いた。


「その怪談って、一つは木曜日に現れる神様の話ですよね?


 詳しく知りたいと思ってはいたんですけど、どう調べたらいいのかわからなくて…。良かったら教えてもらえませんか。その旧校舎の怪談ってやつを。」




 かつてこの地に禍多き時、この地を守る巫女がその禍を七つの箱に分けて封じたらしい。



 その箱は長い歴史の中で行方不明になっていたらしいけど、あの旧校舎が建てられた頃の校長が『曰く付きの品』のコレクターで、七つ全てをあの旧校舎に集めたそうだ。



 それから月日は流れ、いまでもあの旧校舎には七つの禍が蠢いている。




 という話をちゃんとオバケのポーズで、声を低くして話してくれた諏訪先輩。ノリがいいという事だけ伝わってくる。


「学校七不思議の話は知っていましたが、箱の話は初めて聞きました。」


 読書家の瑞埜も、何しろ怪談話なので、初めて聞く話に目を丸くする。


「七つの箱には各々、鬼、蛇、妖精、妖怪、魔物、悪霊、そして神が封じられていたらしい。木曜日の屋上に現れる神様というのも、その一つさ。」


「確か、妖精は水曜日の科学室ですよね。人工栽培の青い薔薇を愛でに来る妖精。滅多に見られないと聞きますが、一度は目にしてみたいものです。」


「場所と曜日、そして禍か…。一定の法則性がある学校怪談なんて珍しいな。」


 可愛い後輩の未来に関わる学校怪談。真昼は興味津々で、熱心に考察する。


 その真昼の様子を見て、諏訪部長はひっそりと瑞埜に耳打ち。


「本当に怪談が好きな人が集まっているんだね。桜庭先輩研究部って。」


「はい。あんなに真面目な先輩の顔、初めて見ました…!」


 真昼が真剣に物事を考えている様子を見て、瑞埜が驚愕しても無理はない。真昼は普段、ホタテが喉に引っ掛かったラッコみたいな顔をしているのだ。


「旧校舎の中には入れなくても、近くに行けば写真に何か写るんじゃないかな。」


 という諏訪部長の言葉すら耳に入っていない真昼。


「僕が学校にいても何も感じないのは、巫女の封印が未だある程度は効果を発揮していると思っていいのか…。それなら、禍の出現に一定の条件の縛りがあることも一応説明がつくし。」


 ブツブツ言いながら廊下の真ん中を漂っていくので、瑞埜が駆け寄り、遠慮がちに肩をポンポンした。


「あの、椿先輩、旧校舎の近くまで行ってみようかという話になっていますが。」


「え? あぁ、ごめんごめん。これは失礼…。」


 気を取り直しまして。


 真昼一行は旧校舎へと向かうこととなった。


(巫女…最近も何処かでそんな話を。兎が言っていた竹林の祠か。)


 真昼は注意されても考え事を止められないのが最大の短所だ。




 移動の間、優都が先輩と後輩に挟まれてワイワイする様を御覧ください。


「優都くんは生まれつき霊感体質なんだ!すごいね~。」


「見えないものが見えるなんて、本当に不思議ですね! 霊とは、どんなふうに見えるのですか?」


「やっぱり透けるの?」


 可愛い佐川先輩と可愛い迷とおとぼけ優都は、二年生の教室がある校舎の、二階の廊下に置かれた机と椅子でくつろいでいた。


 一応、心霊写真を撮るという目的を忘れてないけど積極的じゃない、ゆるやかに目的を成し遂げるタイプの人達。


「光だったりささやき声だったりする時もあるけど、基本的には黒い影で見えます。」


 という丁寧な説明をします。


 迷や兎と喋る事には慣れたけど、初対面の人と話す時はちょっと気が小さくなる。通常運転の優都。


「幽霊さんって、動物もいるのかな? ちょっと可愛いくない?」


「確かに、動物霊って聞きますね。」


「あ、幽霊もいるし、妖怪なら今見れますよ。」


 という丁寧な説明をしますよ。


 優都は自分の肩と机の間で手を行ったり来たりさせ、「ここに! 降りて!」の舞を披露する。


 すると、どうでしょう。


 次の瞬間、テーブルの上には高さ40センチほどの子犬が現れる。


 灰色の毛並みの奥に炎のような燃える赤が覗く。大きな瞳にペチャっとした鼻のキュートな、デフォルメ妖怪。


 迎え犬だ。三角おみみ。


「この子は最近飼い始めた犬の妖怪で、名前はわんちゃ。


 真昼がどうしても校内で霊が見つからなかった時は、可愛い妖怪の写真で誤魔化そーって。」


 それで昨日のうち真昼に『星の御使い』の契約の仕方を教わり、優都とわんちゃは主従関係を結んだ。


 そこの説明はすっ飛ばす優都。今はとりあえず「可愛い~。」ということだけ伝わればいいので、優都はわんちゃのオデコを指でナデナデする。


「可愛い~!」


「え!? なんですか、なんですか? 今のどうなってるんですか?」


「急に可愛いの出てきた! 優都くん、すごい!」


 大好評。


 を博す。


 優都がこれまで幽霊の話を人にして、ここまでウケたことがあったでしょうか。


 わんちゃは人前に出ても緊張することは無く、優都に額を押し潰すようにぐりぐりと撫でられて、目を細めてウトウトしている。


 尻尾は長く、机の角に沿ってタランと下に垂れる。先に行くほど細くなり、霞む雲のようになっていくフカフカのちっぽ。


「なんで妖怪さんがよまちぃたちにも見えてるのでしょう。」


「幽霊を撮るのは難しいっていう話じゃなかったの?」


 説明を求められて、優都は真昼に教わった事をそのまま引用。


「きちんと契約すれば、霊力の出力次第で人の目に触れさせる事も、隠す事も出来るんだって。俺はその辺まだコントロール出来ないから適当だけど。」


 しかし、現実にわんちゃの存在を佐川先輩と迷が認識しているということは、優都も適当にやれば犬の化け物を実体化させるくらいの事はパパッと出来るということなのだ。


 秘めたるポテンシャルってやつです。


「推しと主従関係で結ばれたケモ耳! アリです! ちょっと表紙の参考に撮影しますね!」


 一体なんの表紙を飾るのか気になるところではあるが、迷は目の前で伏せ寝を始めた子犬の撮影に入る。


「私も! 優都くんも撮っていい?」


 サラッと光の流れる佐川先輩の綺麗な黒髪。しなやかな体のラインがジャージの上からでも確認出来る。


 美人清楚先輩と、快活腐女子JKに挟まれて、タジタジしつつも嬉しい優都でした。


(女の子は優しい…! 友達出来そう…!)


 ちなみに何故に写真部の活動がジャージなのかというと、汚れる機会が多いかららしい。


 一番良いと思う角度を得る為には、床に寝そべって撮影したりすることがあります。


 お腹のとこが埃で真っ黒になっちゃうけど気にしないキュート&ビューティー佐川氏。




 正面玄関を南に置いて、優都の学校の新ピカ校舎は東寄りに二つ並んでいる。その奥にはグラウンドや体育倉庫、運動部の部室など有り、北側に体育館と食堂。


 校舎の西側が過去にはグラウンドだったそうだが、今は舗装されて広い敷地になっている。


 校舎に寄り添うように自転車置き場が。南門から入る人はこちらに。グラウンドの裏にも自転車置き場が存在し、そちらは北門にほど近いところにある。


 そして、さらに西側に行くとフェンスで仕切られ、その向こうに旧校舎が構えているという広い学校です。旧校舎は背の高い木々に囲まれて、ほとんど人目につかない。



 と、いう長い瑞埜の説明を受けているのは、校舎の側にある自転車置き場。北側に体育館が見える。


 雨に濡れるのが嫌なので、これ以上進めないのだ。傘は各々ロッカーや教室に置いて来てしまったので、取りに行くのが面倒くさくて無理でした。


「この先に噂の旧校舎があるわけか。」


「この旧校舎が使われていた頃から体育館の位置は変わらないそうで、以前は渡り廊下で繋がっていたそうですよ。」


 体育館の横からは、へその緒のように旧校舎と繋がる渡り廊下が、今も残っている。


 体育館の位置と旧校舎の位置が少しずれているので、途中でカクカク曲がっています。


 旧校舎側は扉が施錠されており、中には入れないようだ。鎖に南京錠がぶら下がっているのが遠巻きに見える。


「今も禍が蔓延る旧校舎、か。」


 諏訪部長、レンズの大きな良さげカメラでパシャリパシャリ。


「どうだい、桜庭先輩研究部。何か見えるかい?」


 その大部分が木々とフェンスに遮られている為、旧校舎は木造にオレンジに近いベージュのペンキを塗っているということしかわからない。


「いえ、これといって変わったところは何も。」


 答えた真昼の横で瑞埜が、


「あれ?」


 と声を上げる。


 その視線の先では、話題に上がったばかりの渡り廊下を、二人の生徒が通りかかっているところだった。


 遠くてわかりにくいが、一人は稲早 兎だ。


「稲早くんが、そこを誰かと歩いていますよ。旧校舎の方へ…。」


 という瑞埜の声に真昼は弾かれたように顔を上げる。


「え!?」


 兎とはつい先程、部室の前で別れたばかりだ。必然的に真昼の頭には、未来の兎が思い浮かぶ。


「何やってんだ、あいつ…。」


 学校に来るなんて無用心な。


 ここにいる兎やその周囲の人間と鉢合わせたらと思うと、真昼が気が気じゃない。


 そもそもタイムリープではなくタイムトラベルのせいか、兎が二人いるという、この状態も冷静になると謎だ。


「確かカメラを直してから合流する予定だった大平さんを、彼が部室で待っていてくれたんだよね?」


「はい。では、もう一人はその方でしょうか? あの渡り廊下、旧校舎に繋がる扉は施錠されていて行き止まりのはずなんですが…。」


 二人の生徒はほとんど離れずピッタリと同じ歩調で進むと、吸い込まれるように旧校舎の扉へ近寄る。異様だ。


 二人が扉へ辿り着く前に錠は落ち、鎖がカシャーンと垂れ下がる。


 そこへ歩いて来た二人が扉を開き、旧校舎の中へと踏み込んで行くのが見えた。


「あっ。」


「開いた!」


 瑞埜と諏訪部長がタイミングよく言葉を口にする。


「今お二人共、旧校舎に入ってしまいました…。」


 驚きの光景に目が離せない瑞埜と諏訪部長の横で、真昼は雨の中に駆け出していた。


「ちょっと様子を見てくる。二人はここに居てくれ。」


「あ、先輩! 旧校舎は立ち入り禁止ですよ!」


 という瑞埜の制止すら聞こえない。


 真昼の肩は雨に濡れるが、それにも構っていられないのだ。目の前にいるのが未来からやって来た兎なら、また何か一人で面倒事を遂行しているに違いないのだから。


 冷たい風が吹いて、水煙が流れていく。その中に真昼の背中が消えたのを見て、瑞埜は胸に手を当てた。


 自分がつい先日、親睦会をした屋敷で恐怖の体験をしたことを思い返す。


「何か嫌な予感がします。先輩がこれから出会すものが、神や妖精ではなく、鬼や魔物だったら…。」


「とにかく優都くん達の班と合流して、誰か先生を呼んで来よう。」


「それでは、我らが桜庭先輩研究部の顧問、渡辺先生を。」


 困った時は必ず身近な大人に相談するよう、教えられています。



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