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されど神に感謝すべし(結成編)  作者: 近衛モモ
Teacher call a storm
35/40

写真部の村人

 

 翌日も雨が降っていた。



 このところの天気は、嵐だ。空も暗く空気も冷たいが、こういう日の方が電灯の灯りがやけに温もりをもって感じられる。


「初めての部会の日も大雨で、活動初日も大雨って、もうこれワタルちゃんが雨男としか思えないっすよ!」


 と文句を言っている兎は、学校指定の深緑ジャージ。上着は腰に巻いている。


「まぁ、色々な意味で嵐を呼ぶ人ではあるよな。」

 

と返す真昼もクソダサい学校ジャージ。前全開。

 優都も瑞埜も、放課後の廊下に集まった桜庭先輩研究部のメンバーは、何故か一様に運動部のような活動スタイルだ。


 ちなみに瑞埜は珍しく髪をまとめている。


「何故にジャージなのですか…?」


 恐る恐る尋ねた瑞埜に、


「本日はジャージ回だからですよ!」


 力一杯、迷が答えた。



 桜庭先輩研究部の活動初日、目標は心霊写真を撮影する事だ。



「今回は写真を撮る能力も問われますので、写真部の友達にも協力をお願いしています。


 郷に入っては郷に従えということで、写真部がいつも体育のジャージで活動していることに習い、我々も衣装を揃えようと思います。」


 という部長の言葉通り、五人が集合しているのは、写真部の部室前だ。


 一応、心霊写真を撮るという試みは把握していたので、真昼や兎はデジタルカメラを持参している。


 電子学生証には、登下校中に事故や事件に巻き込まれた際の緊急用にカメラ機能も入っているので、優都はそれを使うつもりだ。


 画質は悪い。


「ワタルちゃんは学校内の撮影のみ提出対象だって言ってたっすけど…。学校に幽霊っているんすか?」


 という最もな兎の疑問については、優都と真昼が答えさせて頂く。


「夜に真昼と遭遇したことあるよ。普段も見かけるし。必ずしも子供の霊っていうわけじゃないんだけど。」


「霊はわりとどこにでもいる。今日は一応、確実に撮れる方法も考えて来た。」


 という段取りを男子が話している横で、迷は写真部の門を叩く。


「すみませーん! 心霊写真を撮る約束をしていた『桜庭先輩研究部』でーす!」


 毎度気合いの入った迷の呼び掛けに、中から人影が近付いて来て、扉はすぐにガラリと開いた。

 出迎えてくれたのは三年生と思われる先輩方二人組だ。


「やぁ来たね。こんにちは。」


「今日はよろしくね。」


 物腰の柔らかな好青年と、黒のロングヘアーを持つ清楚美人だった。ジャージ。


「あれ?」


 約束を取り付けておいた友達が出迎えると思っていたので、迷は一瞬固まってしまう。


「あ、すみません。お邪魔します…。大平さんは…?」


「彼女、カメラの調子が悪いみたいよ。少し遅れるって。その間はアタシ達が代理です。」


 写真部の部室は授業で使う教室の半分ほどの広さ。中心に置かれた二本の長机を囲うように、左右と奥にホワイトボードが設置されている。


 星空や自然の風景を写した写真がマグネットで留められているのが見えた。


「部活動で心霊写真を撮るんだって?」


「どれが桜庭先輩なの?」


 心霊写真を撮る部活。当たり前だが奇異の目で見られる。

 話題に上がった優都の立場にも配慮して、迷は次の言葉を口にした。


「それでは、まずは自己紹介から…、」



 二つの部が部長から順に、自己紹介を進めていく。写真部側の好青年は、諏訪 豊貨 部長と判明。清楚美人の方はクロード・フィル・佐川先輩。


 佐川先輩は多国籍文化の持ち主だ。言われると確かに、少し鼻筋が高い印象がある。


 桜庭先輩研究部も負けじと名前を覚えてもらい、


「そしてこちらが、我等が代表、桜庭 優都先輩です!」


 最後に迷が本人の五割増しくらいのテンションで優都を売り込みした。


「へぇ、この人が桜庭先輩。一番目立たない方だと思ってた。」


「なんで部長じゃない人が代表なの?」


 これまでにも有りがちだった、優都が返事に困るような反応が返ってくる。


 こういう時、相手の勢いに圧されて、優都は言葉が出なくなります。


 それを無視したと勘違いされて、優都の周りからは、またまた人が消えていく仕組みになっている。


「喋るのが苦手な人見知りの子だから、返事をするのに十秒待ってね。」


 そこは、真昼がフォローを入れてくれた。


「桜庭先輩は最強の霊媒師で、いずれは祓魔薬膳の資格も取る人っす。でも声が小さくて何を言ってるのかわからないとこだけが唯一の短所っす!」


「いや、お前が答えるんかーい。」


 という、兎と真昼のコントも披露してくれる。


 その時間稼ぎのお陰で「よし。自分の名前を言うぞ!」と勇気を振り絞った優都は、


「桜庭優都です。宜しくお願いします。」


 と、ついに上級生に自己紹介をした。声がちょっと震えてしまう。


 その優都の出しきった勇気の結晶に、佐川先輩は、


「うそ~! 声可愛い~! 」


 と絶賛を浴びせてくれました。めでたし、めでたし。


 優しい佐川先輩の大きな瞳に、銀河のような光が宿る。ついでに手までキュッと握ってくれた。


「そうっすよね!声可愛いっすよね! 顔キレーっすよね! 良いこと尽くしっすよね!」


 兎は自分がお気に入りしたアイテムに高評価とコメントがついて、大満足で大興奮する。


「優都くんていうの~?名前も可愛い~!やだー!仲良くしようねー!」


「優都くん、二年生? 写真やってれば人見知りでも全然大丈夫だよ! この風景いいなぁとか、情感とか風情とか、すぐに人と共有出来るようになるし。


 むしろ人見知りの方が伸び代あって面白いんじゃないかな? 今日は楽しく心霊写真撮ろうね!」


 まぁ、なんて優都に親切な方々なんでしょう。


 どこからか給料出てるんじゃないかと思うくらい、優都に優しく接してくれる写真部の村人たち。


 優都は早くも鼻水がじゅるじゅるになってきた。


(優しい…! ここなら仲良しの子が出来るかも…!)


 という内心が表情に溢れ出る優都。


 を、見て「桜庭先輩も写真部の人と仲良くなれそうで、あーよかった、よかった。」と周囲の人も安堵している。


 いつも心配かけてすまない。


 優都はいつも孤立するからね。毎度要らない心労を増やして悪いね。えへへ。てへぺろ。


「それじゃあ、早速撮影についてだけど。生憎の雨だし、校舎の中で霊を探そうか。」


 耳にかかるほどの茶髪に、少し目尻の下がった柔らかい印象の諏訪部長。三年生なので、グイグイ主導権を持って引っ張っていってくれる。


「被写体が霊って初めてだし、そのあたりは『桜庭先輩研究部』の方でサポートよろしくね。」


 心霊写真を撮影することに、全く抵抗のない写真部の方々。常に挑戦する姿勢で、この部を守って来たのだと思われる。


「大人数でぞろぞろ歩くと、他の生徒の迷惑にもなるし、うるさくもなるから、班を二つに分けようか。」


 そしてここからは、諏訪部長の提案により、行動する班を分けることとなった。


「アタシは優都くんとがいいー!」


 と積極的に腕を組んでくれる佐川先輩は優都と。


「霊がちゃんと視えるのって、この中でも二年生の二人だけなんです。ってことで、僕と優都は分かれようか。」


 必然的に、真昼は諏訪部長の方へと移動する。


「それじゃあ部長も一応別れようか? 夜中さん。」


「はい。何かあれば学校側に説明出来る責任者が、一人は必要ですから。」


 ということで部長も、有事の際の為に分かれることになり、桜庭先輩研究部の部長である迷は佐川・優都班へ入ることとなった。


「こっちは華やかさが足りなくないですか?」


「そうだね。あの可愛い子貰おうか。」


 女子成分が足りなくなるので、瑞埜は諏訪・真昼班へ混ざり、これで綺麗に三対三で分かれる。


「そういえば、カメラを直してる子が後から合流するんだっけ?」


「じゃあ、余った一人は部室で待機かな。」


 ということで、兎はここへ置いていかれる事となりました。



 悲報:兎省かれる。



「嫌なのうさ! みんなと一緒に部活したいのうさ!」


 うちゃぎは泣いて訴えたのだが、反響がイマイチ。


「お前は危なっかしいから、そこでジッとしてろ。」


 という真昼の追い討ちと、


「兎、後で合流しような。」


 という優都のトドメの一撃を受ける。


 そして悲しい事に兎を置いて他のメンバーは校内を巡りに旅立って行った。


「さみしいうさ。つまんないうさ。」


 ダンッ!


 と廊下に響く兎の足ダン。



   ★★★



 嵐のような豪雨が続いて、いよいよ家の裏手の溝から水が溢れそうになった頃。


 その手紙は届いた。


 古い木の柱が残る椿家の屋敷。瓦屋根の立派なものだ。その中で東郷 甘は暮らしている。


(手紙なんて何年ぶりだ…?)


 彼もこの椿の家に所属する浄霊師の一人だ。椿 朔夜を慕い、ここまでついてきた。


 広い畳敷きの和室の片隅に置かれた机。スッキリと物が片付けられ、スタンドライトくらいしか乗っていないその机の上に、白い封筒が置かれている。


 宛名は確かに東郷 甘だ。


 親族とはだいぶ前に連絡が絶えたきりになっている。


「誰だ…?」


 封筒をくるんとひっくり返すと、そこに差出人の名前は無く、家紋が判子でポコンと捺されている。


 ある植物を象った家紋だ。


「鬼灯…」


 見覚えがある。


 ガタガタガタンと音がして、立て付けの悪い襖の戸が開く。


「やぁ、ちょっといいかい?」


 顔を出したのは朔夜の父、椿 二神という男だった。



  ★★



「二神さん、こっちでーす!」


 という能天気な声。


 黒い門構えに三角屋根の可愛いお家。優都が親睦会に訪れたあの家の前に、再びの兎と、二神と東郷がやって来た。


 軽装の二神と対照的に、東郷は黒い作業着に身を包んでいる。手には革の手袋を着用、足下は厚底ブーツという重装備だ。


 白い白髪に鋭い瞳。瞳は金色だ。


「あれ、うさくん傘は?」


 という二神の言葉の通り、兎はこの大雨の中に傘も差さずに佇んでいる。


「傘買うお金ないんです。椿先輩のところから、拝借すれば良かったなー。」


 みたいな事を言わせていても仕方ないので、兎が風邪をひかないように、二神は自分の傘の半分を兎に譲った。


 傘に雨が当たるボンボンという音が楽しい。


「不便だね。生活はどうしてるの?」


「あんまし深く気にしないでください! あ、でも最近はすぐ椿先輩の秘密基地を頼っちゃうっす。あそこ、なんでも探せばあるから、薬とか…。助かるんで。」


 という会話をする兎と二神の横で、東郷は黙って突っ立っていた。


 電柱みたいに。


 視線だけが睨み付けるように、目の前の建物を見上げている。庭は荒れ放題に草が繁っているものの、建物の方は小綺麗だ。


 二階の窓からこちらを覗く人影。放置されている物件ということもあり霊の姿は見かけるものの、悪い気配は感じない。


「うさくん、こちら椿家の若きエース。東郷 甘。うさくんは説得出来ればいいと言っていたけど、やっぱりちゃんと霊が視える人も必要かと思って連れて来たよ。」


 という二神からの紹介があって、


「トーゴーさん、お久しぶりっす~!」


 兎はすでに顔を知っている様子で返す。


「それから甘にも紹介しておくね。こちら、未来から来たうさくん。」


 テキトーすぎる二神の説明。


「どうも…。」


 兎が未来から来たことについては、どーでもいい東郷くん。気のない挨拶を返した。


「やっぱトーゴーさんはカッコいいっすね~。以前お会いした時には敵同士だったので、今回は味方についてくれて嬉しいっすよ~!」


「敵?」


「トーゴーさんは椿家を裏切って鬼灯家につくんですよね!」


 とんでもない暴露話である。


 学生服に首の絆創膏。こちらは未来から来た兎なので、ウッカリこういうことを暴露する時があります。


「そうなんだ…。」


「そうなんだ…。」


 二神と東郷が同時に呟いた。

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