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されど神に感謝すべし(結成編)  作者: 近衛モモ
Teacher call a storm
34/40

先生の宿題

 


「難しく考えなくてもいいんだぞ?」


 教師である渡辺先生にそう促されても、なかなか出てこない瑞埜の解答。


 目標や進路という真面目な議題に対して弱そうな真昼や兎が、スラスラッと答えたのも意外だったが、瑞埜が答えられないのも意外だ。


「本が好きなんだろ? 妖怪博士になりたいんじゃないのか。」


 思い付いて真昼が口にするが、瑞埜は静かに首を振った。


「私はただ、放課後の時間を有意義に…。自由に使いたいだけです。部活動をすることが目的であって、部活動の中に目標はない。」


「手段が目的ってこと?」


 真昼の的確な指摘。


「みすてぃ、さては恋に恋するタイプですね?」


 という迷の指摘もそこそこ間違えていない。


 兎と優都はこれといった意見が無いのか黙っていた。目的とか目標とか手段とか、話が複雑でついていけない。


 その様子をしばらく黙って見ていた渡辺先生だが、やがてそれ以上は意見が出ないとみて口を割った。


「いいさ。それじゃあ、瑞埜は宿題だ。目標は目的の中に探せばいい。」


「こんがらがってきたっす…。」


 兎の目がぐるぐるになってしまうので、目的と目標と手段の話はこのあたりで終わりにします。


 渡辺先生は女子にだけ優しいので、続いて他の部員にも宿題を用意してくれる。


「瑞埜だけ宿題があるのも可哀想だし、他の皆にも宿題を出しておこう。こういう時こそ連帯責任だ。」


「えっ…。」


 と、表情を曇らせる瑞埜は、自分が原因で周囲にも面倒をかけることに慣れていない。


 真昼くらい開き直って周りの人に迷惑をかけるようになると、それはそれで問題なのだが。


「宿題ってなんすか?」


 ぽやぽや能天気な兎。あっという間に補食されそう。


「よくぞ聞いてくれたな稲早。宿題はズバリ、心霊写真を撮ってくることだ!」


 人差し指を立ててカメラ目線でズームアップ。じゃじゃーん!て感じで宣言した渡辺先生に、


「えぇー!?」


 瑞埜以外の四人からは驚きと不満の声が上がった。


 散々、真昼や優都の話を聞いてきた兎や迷は、今更になって霊の存在を疑うようなことはない。


 それでも、学校の先生に心霊写真を撮って来いと言われるのは新鮮な衝撃です。


「但し、心霊スポットとか危険な場所に行くのは認めない。あくまで学校の敷地内で撮影されたものを提出の対象とする。


 幽霊を研究する部活の成立について、いつまでも椿の家の名前に頼っているわけにはいかないからな。本気でやりたいなら、それなりに実力を示して貰わないと。」


 正論のようで、かなり無茶苦茶な難題をぶつけてきた渡辺先生。実は彼も自身の持つ常識を、つい最近、真昼にぶち壊されたばかりだ。


 柔軟かつ迅速に対応する能力がある人なので、幸い大事には至っていない。


 というか、オバケが見えない体質なので日常に特に変化はない。


「心霊写真というのは、所謂あのオバケが写り込んだ写真という解釈でいいんですよね? 心霊番組とかで特集されたりする…。」


 迷もさすがに心霊写真となると実物を見たことがないようで、慎重に確認をとる。


 そーそーそれそれ、という渡辺先生の判りやすい解答。


「すみません、私のせいで皆さんまで巻き込んでしまって…。」


 瑞埜が潤んだ瞳で掬い上げるように見上げれば、優都は責めることは出来ない。


「大丈夫、なんとかするよ。」


「桜庭は瑞埜を甘やかすんだなぁ…。」


 渡辺先生の観察眼は鋭い。


「実際、優都様や真昼様なら、心霊写真を撮ったりする機会は多いものですか?」


 迷の素朴な疑問。


 ここで兎がもぞもぞ動いた。畳に触れている足が痛くなってきたようで、体を左右にゆすりながら体勢を変える。


「畳の跡がついちゃうぞ。ウサギ、楽にしてろよ。僕らでも心霊写真は狙って撮るものじゃないかなぁ。」


「俺が写ってる写真が心霊写真になって、周りに退かれることはあるけど。自分で撮る機会ってないかも。」


 そもそも優都は写真に映ること自体が好きじゃないので、心霊写真に関わる機会はほとんどない。


「イメージと違うんですけど。」


 という渡辺先生からのクレームが入る。


「霊感がある人なら、間違い無く心霊写真が撮れるんじゃないのか。」


「霊体を撮影するのと生きている人間を撮影するのでは勝手が違うからなぁ。具体的に言えば、動きの速いものを撮ろうとするとブレたり、消えたように撮れたりするのと同じかな。


 霊体は肉体とは空気抵抗も違うから動きの速さも生きている人間と違うし、それに当たる光の屈折率も違う。だからシャッター速度や光の加減で撮れたり撮れなかったりする。


 霊の方に映り込もうという意志があって、ジッとしていてくれると話が違うんだけど。」


 真昼のこの詳しい説明に、部員四人と顧問教師から、「はぁ~…。」という納得の溜め息がこぼれた。


「結論をまとめると、霊を撮影するのは真昼様や優都様でも難しいのですね?」


 という迷の言葉は正しい。


「僕らよりカメラのプロの方が撮れる確率高いんじゃない? まぁ、チャンネル登録者募集中の動画投稿者じゃあるまいし、プロのカメラマンなら心霊スポットなんか行かんやろけど。」


 休日にわざわざ心霊スポットに親睦会を開催に行くのは、暇を持て余した高校生だけです。


 真昼の説明によって、ちょっと難しいということがわかったこの宿題。しかし、渡辺先生がその課題を取り下げるということはない。


 一人で成し遂げることが難しいことこそ、仲間と協力して達成すれば価値があるということを、先生は知っています。


「だそうだ。まぁ頑張ってくれよ。」


「簡単には出来ないことの方が、考える時間は多そうだしね。」


 瑞埜のことを考えてこの発言をした真昼だが、それを言った真昼自身、最近は考えることが色々と多い。



 考え込むのも、静かに青春です。



「んじゃ当面は放課後、校内に残って写真撮影大会っすね! なんか霊のこと勉強になるかもしれないし。」


「みすてぃの宿題も、皆で考えてみましょう! 一人で考え込むよりは、捗るかもしれませんよ!」


「有難う御座います。」


 正座の体勢から膝の前に両手をつき、体を前に倒して美しい所作の土下座。


 瑞埜の心からの御礼に対して、


「任せろっすよ~。」


 兎のこの安請け合い。


「俺が今記録をつけているノートは、このまま部長に預ける。活動内容や目標への進捗は俺も定期報告をしないといけないから、なるだけマメに書き留めておくように。」


「なるマメね。」


 真昼の造語。なるマメ。


 なるマメにノートをつけていくのは、部長である夜中 迷だ。記念すべき部の活動日誌授与。迷は先生から両手で受け取る。


「精進します!」


  始まりと同じように、この部長の腹の底から出した気合い一発の挨拶によって、部会はお開きとなった。




  ★★★




 その帰り道。


 屋上から鍵を使って秘密基地に帰るというチート技を使う為に、真昼と優都は階段を上がっていた。


 一年生組は別館にある職員室へと戻る渡辺先生を、三人で寄って集ってもみくちゃにしながら帰って行った。自分達の部活の先生というだけで、他の先生よりも親近感が湧くようだ。


 瑞埜も珍しくはしゃいだ様子で、どうやら渡辺先生をお気に召した御様子。


 お陰様で優都も真昼も、チート技の為の人払いに苦労しない。


「ふーん。ふーん。ふーん。」


 優都は歩き学生証という危険なネット検索で、早速、祓魔薬膳について調べている。


 死にたくなければ真似しないで欲しい。


「優都、階段で歩き学生証しちゃ駄目だよ。死ぬよ。」


「真昼知ってたか? 昔から伝わる風習に関わる食べ物って、祓魔薬膳のものが多いんだって。


 節分の日に『鬼は外』で投げる豆も、もともと霊力の高い食材で、魔除けもになるんだってさ。」


「僕が心配しているのを他所に、僕が教えた祓魔薬膳の知識を深めていく優都。」


 見たままを説明する真昼。指先にかけた鍵束を、ジャラジャラ音をたてて振り回している。


 社会適応力の低い優都よりも将来性の乏しい瑞埜に出された宿題や、とばっちりで撮影を余儀なくされた心霊写真云々よりも、現状優都の心を掴んで離さないのは祓魔薬膳の知識のようだ。


 真昼の気遣いを一切気にかけず通り過ぎていく優都。優都の周りに集まってくれた人が自然と消えていくのは、このあたりにも一因がある。


 人間関係にウジウジ悩むわりには、一定以上の親しい間柄になった相手に対する接し方が雑。


「やっぱり梅干しはいいんだな~。夏の太陽の力をいっぱい取り込んで作られるから、体の中の悪いものを追い出してくれるんだって。取り込める霊力も多いって。霊力的な補給食でもあるのか、成程。ふーん。ふーん。ふーん。」


 優都のこのふーん。ふーん。ふーん。の間に、


(優都、今日は学校帰りの買い出し行かないな。部会あるのわかっていたから、昨日のうちに買ってあるのかな? 夕飯なんだろ~。)


 みたいなことを真昼は考えていました。


 優都と再会してから、食べることしか頭にない真昼。どうしよう。幸せ太りしちゃう。



 その日の夜、台所にドデーンと寝そべっている幽霊犬と、その横にドデーンと寝そべっている優都を撮影していた時に、真昼は閃いた。




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