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されど神に感謝すべし(結成編)  作者: 近衛モモ
Happy dog
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部長の責任


「問題って、どうかしたのかい?」


 尋ねる真昼に、瑞埜は重い口を開いた。


「一応、活動の趣旨は理解して頂き、実際に祓屋家業を営む椿先輩の名前があることも後押しして、部の活動は認められました。」


 というところで、兎と迷と優都は手を取り合ってポーズを決める。


 喜びのポーズ。


「ですが、顧問の先生が見つからなくて、活動開始は見送られる形になってしまいました…。」


 というところで、兎と迷と優都は解散し、各々で項垂れた。


「なんで…。」


 兎の悲しい呟きに、


「部活の顧問などを請け負っていなくて、放課後に手が空いている先生が、一人しか見つからなかったのです。」


 という瑞埜の返答。


「その先生に部の顧問を頼むわけにいかなかったのかい。」


「それが、その、手の空いている先生というのが、渡辺先生だったのです。」


「ワタルちゃんかぁ~。」


 兎は渡辺先生のことをワタルちゃんと呼ぶのだ。渡辺 瑠璃という名前から由来している。


「誰?」


 真昼だけがその存在を知らない。


「二年生のクラスを担当されている先生ですが、科学の授業の時はよまちぃ達一年生でも会いますよ。」


「あのな、真昼。すごく言いづらいけど、俺と真昼のクラスの担任の先生だぞ。」


「そうなの!? あのオジサンか!」


 真昼がオジサンと言うだけあって、渡辺 瑠璃はもう四十に到達するオジサンなのだが、その割に服装は流行を取り入れた着こなしで、髭を上品に生やした所謂イケオジなのだ。


 そして女子生徒を口説きまくっているくせに、その人当たりの良さから嫌われ者には決してならない、世渡り上手の生き上手な男。


「ワタルちゃんはオバケとか信じてないからなぁ。絶望的っすよぉ…。」


 顔に縦線の入った兎が、地獄の底から響くような声を出す。


「そうなのか。俺の存在全否定だな。」


「真昼は祓い屋の跡取りだもんな。」


 真昼は存在を全否定されることに耐性があるので、いちいち大騒ぎはしません。


「となると、活動開始の前にオジサンに霊の存在を理解して貰うことが先か…。これは、ちょいと手を打たないとな。ウサギ、手伝え。」


「いいっすけど、荒事は厳禁っすよ。椿先輩、降霊とかしちゃう人?」


「そういうことはしないから安心しろ。」


 危ないことはしない方向で話が決まると、真昼はとりあえず人数分の誕生石の商品を持って、お会計カウンターへ向かう。


 部費が下りる前提で、領収書ください。と大きな声で言うつもりなのだ。


「あの、止めなくて大丈夫でしょうか?」


 その背を視線で追いかけ、瑞埜が慌てて優都に尋ねる。優都も『くまちゃ』グッズをいよいよお会計に持っていかなくてはならない。


「真昼と兎が何をするつもりかは、わからないけど…。まぁ危ないことはしないみたいだし、任せてみるか?」


 優都の苦笑いに、迷も同意だ。


「そうですね。お二人にお任せしてみましょう。」


 そうと決まると、兎はまた付箋を選びに行ってしまう。


 瑞埜だけが何処か暗い表情で、胸に手を当て俯いた。


「大丈夫…なんでしょうか。本当に。」


 声を押し出すようにした、その瑞埜の様子に、優都と迷は目を見合わせる。


「みすてぃ、不安ですか?」


 棚からは無数のくまが見下ろしている。きいろくまちゃん、あかいろくまちゃん、仲良さそうだ。みどりいろくまちゃんは、しろいろくまちゃんと、あおいろくまちゃんと手を繋いでいる。


 少し離れたところに、むらさきくまちゃん。


 他のくまちゃんをジッと見つめている。


「先生に迷惑をかけるような事をして、怒られたりしませんか? 連帯責任にならないでしょうか。」


 という瑞埜の謎の発言に驚いたものの、優都は厳しいことを言うのは苦手だ。


 代わって迷は堂々と口を開く。


「勿論、連帯責任ですよ。先生に霊の存在を理解して貰う、その為に真昼様や兎様が何かしたとして、実行に加担していない部員にも責任はあります。」


 真昼が授業中に校庭に餓者髑髏を召喚したとして、それは真昼と兎が勝手にやったことだからと、逃げるつもりは優都にも迷にもない。


『桜庭先輩研究部』という一つの団体の活動であると、正直に発表するだろう。


 部活動とは、そういうことだ。


「団体の活動に重要なことは、一人一人が持つ責任感です。その為に、入部の是非は任意ですから。」


 それくらいのことは、脳内くまちゃ高校生の優都でもわかっている。


 自分一人だけ逃げるわけにはいかない。それはね、当たり前のことなんだよ。


「瑞埜さんは、怒られるの嫌?」


 まだ怒られるような事をすると決まったわけではないが、瑞埜の表情に不満が滲むのが気掛かりで、優都は丁寧に問いかけた。


 おバカな優都もここでは先輩。後輩に気を遣った。


「部活に入ろうと思ったのは、私の信じる神様もそこにいたからで…。部活動という名目であれば、放課後に少し自由な時間が出来るからと…!


でも、科学の先生に幽霊の存在を理解して貰うよう説得するとか、そんな無茶な事を考える先輩と連帯責任とか、色々と無理ありませんか?」


 どうやら瑞埜の中で、真昼の存在が無理なようだ。笑うしかない。


 同じ日に親睦会に集まった仲間。一緒に部活を始めようと語り合った日は楽しかった。


 ただ、それだけの事だ。付き合い始めて日も浅く、真昼が大事だけは起こさない奴だと信用するには値しない。


「すみません…。でも、私の中で放課後の時間の使い方を決めるこの部活動、かなり大きな決断なのです。失敗したくない。」


 という瑞埜の気持ちがわからないほど、優都も迷も察しの悪い人間ではなかった。


 ぬいぐるみやアロマの並ぶ夢の詰まった棚に囲まれ、顔立ちの整った美少女は、皺一つ無い制服に身を包まれている。


 足りないものは無い世界に見えて、少女の胸の内にあるのは孤独と不安と、我慢と限界だ。


 それが透明なガラスケースの中にある宝石のように、透けて見える。


「みすてぃ。」


 そのガラスのハートの両手を取って、顔を近づけたのは迷だった。


「一人一人の責任感。それが大切だと言ったことに嘘はありません。ですが、みすてぃを危険に晒すつもりもない。その為に私は部長を志願しました。」


「え…?」


 自信たっぷりの迷は、眉の角度が凛々しい。ちなみに茶色いペンで描いてある眉です。


「部の責任は部長である私が取ります。各個人に帰属意識があることとは別ですが、みすてぃの立場が悪くなるような事にはなりません。信用してください。」


「よまちぃ…。」


 迷はこういうところ、優都や真昼と違って、非常に男らしい性格なのだ。


 部長として、部の責任の一切を背負える立場に自分がいること。それを公言することで、部員に安心感を与えること。


 それを実行に移せる行動力と決断力に長けている。まさしく迷はその誕生石が導く通りの、『聡明』な女性なのだ。


(か、かっこいい…!)


 と優都がビー玉おめめをキラキラにしちゃうくらいには、迷の部長力は高い。


「それに、無茶をしてでも、この仲間と共に過ごしたいと、そう言って頂ける場所にしたいのです。『桜庭先輩研究部』を。」


 迷のその言葉に、瑞埜はようやく笑顔を取り戻した。


「はい!」


 と明るく返事を返す。



   ★★★



 その後、各自の買い物を済ませた五人は、再び雑貨屋の前に集合した。優都は『くまちゃ』グッズの入った紙袋を持って踊り出しているが、これからもっと心踊る出来事が待っている。


 真昼は買ってきた商品を迷に渡すと、


「それじゃあ、代表して部長から。みんな、準備はいい?」


 そう確認を取った。自然と、誰が言い出すことも無く、五人は円陣を組んでいる。


「それでは、アクアマリンの私から順番に。四月のダイヤモンド、瑞埜さん。七月のルビー、真昼様。」


 迷の手によって配られる各々の輝きを、女子は胸のリボンに、男子は臍のネクタイに、留めていく。


「十月のオパール、兎様。十二月のターコイズ、優都様。」


「この輝きが、俺達五人を繋ぐ絆の証だ。」


 真昼がうっかり素に戻って、『俺』とか言っても誰も違和感を口にしない。それだけ真昼に寄せる部員の信頼も、厚くなっていた。


「不可能も可能に変えて、絶対に部の活動を始めるっすよ!」


 五人が揃って拳を挙げた。空には『くまちゃ』の形の大きな雲が浮かんでいた。





「それじゃあ、僕とウサギはここから別行動で。」


 と言って、本当に渡辺先生を説得するつもりなのか、真昼は学校へ戻る道を夕陽に向かって駆け出した。


「なんで走るんすか! 馬鹿じゃないすか!」


 とか叫びながらも、兎は今が楽しくて堪らないのか、真昼につられて走っていく。


 その背中が見えなくなるまで見送ってから、迷は優都と瑞埜に向き直った。


「部の活動が本格化する前に、よまちぃも準備をしておきますね。」


 と言って迷が帰ってしまうと、優都は瑞希埜と二人きりだ。真昼が兎だけを召集した以上、大勢でついていっても仕方ない案件なのだろうし、優都は買い物をして帰ろうと思っている。


「えっと、…。じゃあ、帰ろうか。」


 二人だけになると突然わからなくなる女子との距離感。さっきまで迷と手を繋いだりしていた優都は、何処へ行ってしまったのだろう。


「はい…帰ります…あれ…?」


 瑞埜はまだ誕生石のセンターパーツをゴソゴソしている。


 突然空がピンク色になって、道端の花が手当たり次第に薔薇になって、お菓子の家の住宅街が広がっても平常心を保っていた優都だが、


「あの、これ、どうなってますか…?」


 と上目遣いにすがられると、


「ドウナッテルンデショウ」


 喋り方がどうしても機械調になってしまう。


 何だ? この状況。俺がつけるのか? 女子の胸のリボンに? 宝石を?


 無理すぐる…。


「うう…。自分じゃ上手く出来なくて…。きゃっ。」


 こんなところで不器用を遺憾なく発揮して、瑞埜の手からポロッと値の張る宝石が落っこちる。


 優都は目の前で人が物を落とすと、反射的に拾ってあげちゃうのだ。


「落ちたよ。」


 そう言って屈み込んだ優都が、それを拾って顔を上げると、そこに生足。


(ぐっ…白っ…。)


 視界が白い。迷は白いルーズソックスだが、瑞埜は黒ニーソだ。絶対領域の白い肌が無駄に強調される。


「あの…、」


 見上げると、傘のように被さる瑞埜の金髪と、俯く瑞埜の丸い瞳とかち合う。


 然り気無くスカートを押さえる仕草に、優都は目がチカチカした。


「ご、ごめん…。」


 ヌルリ…とした動きで優都はゆっくり立ち上がった。気分がナメクジだ。瑞埜の足を這うナメクジ。


「いえ、有難う御座います。」


 声かわい~。


 瑞埜のちっちゃい紅葉の掌に、優都は拾ったパーツを返してあげる。


「ここの金具のところを、ひっかけるだけのはずなんですが…。」


 実際、迷が簡単そうにつけていたので、ワンタッチで取り付けれる仕様のはずだ。誕生石の宝石が乗った台座の後ろに、金色の金具が鈎形についている。


 リボンの真ん中に上から差し込むだけなので、優都でもどうにかなりそうだ。


「カシテミテ」


 奇妙な動きになりながら、優都は瑞埜からパーツを受けとると、ぎこちない手つきで彼女のリボンに手をかけた。


 電子学生証を一台挟むくらいしか隙間の無いほど顔が近付いた二人は、前髪が触れ合って笑ってしまう。


「付けれると思う。」


「お願いします。」


 みたいなやりとり。ふふふ。


 近付いた二人の距離。その間から、夕陽が差し込んで影を伸ばす。


(やばい。今、すごくエモいことをしているぞ女子と。)


 数分前まで『くまちゃ』グッズが嬉しくて小躍りしていた優都が、そんな事を自覚するくらいに。


 優都と瑞埜の関係は、思いの外良好に進んでいるように見えた。



 そんな二人の様子を、黒い影が見つめている。



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