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されど神に感謝すべし(結成編)  作者: 近衛モモ
The house's triangular roof
17/40

真昼の長電話

 


「父さん、久しぶり。いきなり電話してごめんね。」


 秘密基地のダイニングキッチンで、真昼は電話をかけていた。片手にスマホを持ったままで、もう片手には出掛け用のウエストバッグ。


「今大丈夫? ちょっと聞きたいことがあるんだけど。」


 長方形の黒い箱形バッグだ。大きなジッパーがアクセントになっている。そこに貴重品だけ放り込み、テーブルの上に置く。


 電話の向こうからは聞き慣れた相手の声がしていた。真昼の父親、椿 二神だ。


『久しぶり。真昼、しっかりやってるかい? 』


「やってるよお陰様で。学校の手続きとか、助かったよありがとう。友達できそうだよ。」


『良かった。優都くんには、もう会えた? ほら、桜庭くんのところの。真昼、昔すごく仲良くしてもらったでしょう。』


「会えたよ! 秘密基地の鍵も渡せた。ご飯も作って貰ってる。」


『えー、悪いなぁ。真昼がお世話になっております、って何か送らないと。』


 家を継ぐことを期待されていた兄を喪ってから、真昼の家の中は大きく変わった。


 今や実家に残る真昼の味方は父親だけだ。兄の朔夜が亡くなったことを皮切りに、母親とは疎遠になり、後継や遺産を巡り親族や祖父の抱えていた修行者達には、睨まれるようになってしまった。


 実家から逃げるように出てきた真昼は秘密基地に逃げ込み、それを認めている存在は二神しかいない。


『桜庭くんのとこは奥さんが鬼灯家の出身でね。トンでもなくオバケ嫌いらしいから、優都くん小さい頃から苦労してたなぁ。真昼、今度は守ってあげないとダメだよ。』


「ありがとう父さん。ほんと俺の味方は父さんだけだよ。」


『弱気になるなよ。聞きたいことって何? 父さんは今、鶏肉を焼いています。』


「おいしそ~。」


 二神と話していると、真昼は自然と素の自分に戻れるような気がしている。実家にいる安心感とはこのことで、とにかく気が楽だ。


 二神は椿家に婿に入った人間で、霊感なんて欠片も持ち合わせていない。


 基本的には祓い屋として働く椿家の、事務や経理、家事全般を担当している。


「あのさ、父さん確か、俺が通う学校の卒業生だよね?」


『そうだよ。僕も真昼や優都くんのいる街で育ったからね。』


「時計の神様って、いた?」


 今日、真昼が父親に電話をかけたのは他でもなく、その情報を探る為だった。


 家を継ぐという面倒から、目を背けている。その場しのぎで生きている真昼は、優都とイチャイチャ学園生活を謳歌して、しばらくは現実から逃げ続けるつもりでいたのだ。


 しかし、出会ったばかりの後輩が未来からやって来たことで、新たな問題に関わることになってしまった。


『時計の神様? …あぁ、真昼もいよいよ、そんな話をするようになったんだね。』


 電話の向こうで二神は、何か知った口調で面白そうに返してくる。


「えぇ…。本当にいるのか。」


『噂だけね。木曜日の朝、屋上から現れる神様。対価を払えば願いを叶えてくれる。


 僕が在学中もそんな噂が流行ったよ。何しろ英語教師が美人でね、男子生徒は一度はお付き合いしてみたいって、みんな神にすがる思いだったから。


 神様に会う為に張り込みをした上級生がいるとか。誰かの願いを叶えている間は、他の人の前には現れてくれないとか。噂がいろいろあってね。』


「その神様、今もいるの?」


『いたとしても、真昼が会うことはないから、心配ないさ。』


 やけに自信ありげに言われるので、真昼はその根拠を問う。


 冷蔵庫から出したお茶を小さな水筒に入れて、それも鞄に放り込む。


 ベルトを腰に装着して、お出掛け準備は完了だ。


 以前、脱水症状で死にかけてから、真昼は出掛ける時にはボトルにお茶を常備しておくようにしている。


 人はリスクを経験から学ぶことが出来ます。


「なんで俺は会わないって、わかるんだよ?」


『その神様の噂があったのはね、旧校舎なんだよ。学園七不思議なんて言われて、他にもいくつか怪談があったよ。』


 二神が通っていた頃には新校舎の建設工事が始まっていて、同じ時期に学校の前の道で歩道を広げる工事までしていた。


 授業中もガガガだのガタガタガタンだの音がしていて、窓の外の景色は新校舎によって遮られるしで、つまらない思いをしたのを覚えている。


『今の子はもう旧校舎の存在すら知らないだろうけど。新校舎を建てるのと同時に、前の道を工事していてね。自転車通学の子も多かったから、学校側も全面協力で。


 それで、自転車置き場が奥の方になったり、敷地を囲うフェンスも取り外したり、また取り付けたりしているうちに、旧校舎がフェンスの向こうになっちゃって。


 一見すると学校の建物だとわかりにくいところに行っちゃったんだけど。でも校舎はずっと残してあったよ。新しい校舎に教室が移っても、倉庫みたいに旧校舎を使ってたからね。』


「ってことは、その旧校舎に行けばまだ神様とやらいるんだ。」


『いるんじゃない? 父さんは会ったことないけど。火の無い所に煙は立たないものさ。確認したいのなら、旧校舎の一階北側の、向かって右から四番目の窓を調べるといいよ。あそこ、鍵が壊れているから。』


 欲しい情報を手に入れると、真昼はお礼を言って電話を切った。


 実家に戻ると、家の中の人間にも当然顔を合わせることになるだろう。ただただそれが嫌だという理由で、真昼はしばらく二神に直接顔を見せに行っていない。


 悪い子だ。


「仕方なく帰らなくちゃいけなくなった時とかにお礼するよ。父さん。」


 それから、秘密基地からあらゆる場所へと出掛けられる鍵束を取り出す。


 真昼はこれからお出掛けだ。


「そっちの肝試しも気になるけど、先に優都と肝試しだな。」


 喧嘩別れしたまま優都の行き先を知らない真昼に、親睦会の開催地を教えてくれたのは、未来からの後輩だった。


 その後輩が先に向かっている怪奇住宅へと、真昼も突入する予定だ。


 なんだかんだ煙たがられても優都から離れられないのは、真昼の方かもしれない。




 捨てる神あれば、拾う神あり。


 真昼の心を捨てる家あれば、真昼の力を拾う友達ありだ。



   ★★★



 丘の上にある一軒家。三角お屋根の可愛いおうち。


 そこに辿り着く前から、真昼は奇妙な気配を感じ取っていた。


「巣魔か…。知っている気配のような気がする。」


 広い二車線道路。ガードレールのついた歩道を上がっていくと、大きな黒い門の前に、稲早兎が待ち構えている。


 腕を組んで門の柱に背を預けている。制服のシャツの下から覗く真っ白な包帯。首には絆創膏を貼り付けている。


 未来から来た兎だ。


「やっぱり来たっすね。」


「せっかく教えてもらったし、優都のことも心配だからな。」


 それならばご自由にどうぞといった様子で、兎が門を開けて真昼を招き入れた。



 ここは、優都が肝試しにやってきた怪奇住宅だ。



 一通り外から様子を見ようと、真昼は雑草たちによる無法地帯となった庭に掻き入っていく。


 一階には雨戸の閉まった部屋が三つ。二階にも窓が三つで、角部屋にはベランダが無い。


 さらに進んで家の角を折れると、南側には食堂の出窓と、裏口の扉があった。扉の前には、靴を置くため地面から一段高くなるようにコンクリートの足場がある。


「んー? ここらへんが一番重いか…。」


 雑草が腕にコソコソ触ってくすぐったい。後ろを振り返ると、未来の兎も黙ってついてきている。


「未来から来たのなら、ここで何が起こるのかわかってるんだろう?」


 ただの肝試しで終わるには、最初に感じた気配が気にかかっていた。


 兎にとってはもう何度も繰り返し訪れた場所なのか、特に見るものも無い様子だ。


 じっと真昼の背中を追いかけているままで、聞かれた質問に答えるだけ。


「どうかな。俺があちこちの時間に顔を出して、やり直したり、元に戻したりしているせいか、最近は起こる出来事も変わってきてるっすよ。俺が知ってる結果になる時もあれば、そうじゃない時もある。この後こうなるって、明確に言えないんすよね。」


 裏口の傍には屋外用の水道があり、草や花に水をやる為のホースがつないである。


「過去に変更があるのなら、君の存在が過去の時間に少なからず影響を与えられているんだと思うが…。それでも未来の出来事は変わらないのか?」


「今のところは。」


「ふむ。」


 真昼は腕時計で時間を確認した。


 土曜日の午後。鳥の声すら聴こえて来ない静かな場所だ。


 二階の窓から厳しい表情で見下ろす老婆に、真昼は視線で返した。


 出窓には薄いレースのカーテンがかけられ、その向こうから白いドレスを着た少女が窓を叩いている。


「大きい気配は二人かな。男の霊と老婆の霊。他にも細かいのが色々出入りしてて、決まった人がいない感じか。」


 そこらで屋外からの敵情視察を切り上げた。真昼は建物の表側に戻ろうと、来た道を戻り始める。


 自称未来から来たという兎は、その真昼の後を追いかけなかった。


「俺はその男の霊の方に用があるんで、ここに残らせてもらいます。中にはこの時間の俺がいるから、表から入って鉢合わせてもマズイので。」


「それは構わないけど…。その体でそれ以上、無理するなよ? 霊に対抗する術は自分で持っているのかい?」


 真昼が心配して声をかけると、兎は数枚の紙を取り出して見せた。正方形の和紙で出来た札。


 墨で文字が書かれている。


「椿先輩に貰った椿家の札っす! だいぶ使い慣れて来たっすよー!」


 じゃじゃーんて感じでわざわざ広げて見せるので、真昼は眉間に皺を寄せた。


「あげてない。返してくれ。」


「いや、くれたんすよ。 未来の俺たちは仲良いっつってんだろ。」


 返しませんでした。




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