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されど神に感謝すべし(結成編)  作者: 近衛モモ
Prayer of bunny
14/40

幸運の御守り


  もずくの佃煮。キュウリの漬物。なすのからし漬け。レタスの塩昆布和え。


 とにかくご飯のお供が豪華な土曜日の朝。


 それらは、もちろん真昼が作ったわけではなく、冷蔵庫に入っていたのだ。


『なかなおりのしるし』


 とメモを添付して。



 卵とズッキーニの炒め物をご飯に乗っけて掻き込んでいる兎と一緒に、真昼は食卓を囲んでいた。



「起きて大丈夫なのかい、後輩くん。」


 秘密基地にある、丸い天板の木製テーブルに向かい合う。兎が満身創痍で秘密基地にやってきたのは、夢ではなかった。


 とても一晩で治る怪我のように思えないが、兎はおとなしく寝込んでいる気はないらしい。


「問題ありません。大丈夫っす。」


 という頼もしいお返事が返ってくる。


 相変わらずの、ツンツン尖った短い黒髪に、鋭い瞳。制服は上着を脱いでいて、白いシャツの下から包帯が覗く。


「改めて聞くけど、後輩くんは何処から来て、どうやってこの秘密基地に入ったのかな?」


「ここより、ほんの少し先の未来から。椿先輩がくれた鍵を使ってここへ。向こうの俺らは結構、仲が良かったんですよ。」


 丁寧に説明されて、塩昆布が美味い。


 真昼は生活が全くお洒落じゃないので、朝食のBGMは冷蔵庫や換気扇の稼働音だけだ。


「過去に来た目的は、同窓会とかじゃないんだろうね。」


「具体的には言えないけど、未来ではとても良くない事が起こるっす。大切なものを失う事になる。それを止める為に来た。」


 兎の目は真剣だ。口は忙しくモグモグしているが、目だけが真昼を捉えて離さない。


 大袈裟に世界滅亡の危機だとか、宇宙人の襲来だとか言われたら、秒で未来を諦めそうだが。


 兎が大怪我しながら生き残る程度の事態なら、改善に向け努力する方が現実的だろう。


 事故か。事件か。手段はどうあれ、時を超える力を得て来た以上は、関わっているのは兎とかなり近い間柄の人間だと見える。


 だとすれば、桜庭 優都もその候補者の一人だ。それなら真昼は、巻き込まれるより他にない。


「それで、僕にできることは? 具体的な説明が出来なくても、『助けて』くらいは言えるんだろう?」


 今日は土曜日。学校は休みだ。


 優都がこの場にいなくて、本当に良かった。こんな状態の兎を見たら、優都なら卒倒するだろう。


「助けてくださいっす。」


 プライドもへったくれもない、気持ちのいい性格のお兄さん。稲早 兎。


「ご覧の通り、未来から来たと言っても、俺は高校生。そんなに先の未来から来たわけじゃない。」


「そうだな。つまり、Xデーは高校三年間のうちのどこか。何に気をつけておけばいい? どうすれば変えられる?」


「もう何度も試したけど、何処で何が起きるって具体的な説明すると契約違反になって、何も変えていない時間に強制的に戻されるっすよ。


だから当事者に具体的な説明ができないまま、同じ場面を何度も繰り返すけど、元の時間よりも悪い結果になるばかりで、…。」


 その元の時間より悪い結果として、兎は焼けたり刺さったり、口の中を噛んだりで、散々な目に遇ったようだ。


 その行程をどれほど重ねてきたのかわからないが、昨夜の朦朧とした様子では、もうだいぶ長い時間をかけていると読める。


 始まりが何処かも、終わりが何処かも、何もわからないまま。


「…一つ疑問なんだが、その大切なものと出会う前まで戻って、そのまま出会わなければいいんじゃないのか。」


 最も心無い回答で、最も的確な答案を打ち出した。真昼は冷たい人間ではないが、効率を重視したがる節がある。


 その真昼の言葉に、茶碗を持ったまま、兎は困ったような笑い顔を見せた。


「ご名答。 それはもう、何度も考えたんですよ。俺一人が我慢して、他人になれば済む話。そうすれば、たとえ誰か失っても心を痛めることはない。」


 説明しながら、兎の顔には少しずつ、影が落ちていく。しかし、不思議と暗い印象を持たせない。


 その選択をしなかったことが、愛しさの証明だから。瞳にずっと迷いの無い一点の光を宿しているからだ。


「他人になるなんて、どうしても無理で…。守らせてください。傍に置いてくださいって、夜道で声をかけてしまう。そして、また時間を戻して…。その繰り返し。」



 そこまで想い遣ることのできる相手を、未来で喪った兎の悲しみを、この場の同情程度で窺い知ることは出来ない。


 それでも真昼は祈るような思いを抱いた。確かに。


 迷える仔兎に、どうか幸運を。


「キーワードは? 抽象的でも何でもいい。突破口をくれ。そうすれば、絶対に僕が守ってみせる。後輩くんの大切なものも。後輩くんの心も。」


 だって、真昼の方が一つ先輩だからね。


 こういう時、先輩してると大変だぜ。ふう。


「…キーワードは、遊園地。悪霊。霊媒体質。ザックリっすけど…。宜しく頼みます。」


「ちなみに、秘密基地の鍵を渡すほど親密になった未来の僕は、君だけにこんな大変な想いをさせて、何をしてるんだい?」


「寝てるっす。」


「起きてー!僕ー!」


 真昼、叫ぶ。箸が握り潰されて内臓を吐き出しそうになりながら、必死で堪えている。


「あ、語弊。寝てると言っても居眠りしているわけじゃなくて。先輩も意識不明のままで。…誰も頼れないっす。」


「僕も巻き込まれるのか。普通に嫌だな。」


 朝の星座占いで十二位だった気分だ。


 兎はご飯をおかわりらしく、いつの間にか勝手に席を立っている。箸置きがないので、箸は口に咥えたままという行儀の悪さだ。


 万が一にも喉に刺さるといけないので、絶対に真似しないで欲しい。


「でも久しぶりに桜庭先輩の、おばあちゃん家みたいな朝飯食って、元気出たっす。」


「優都のご飯美味しいよね? やっぱり未来でもそうなのか。」


 真昼は座っているだけで好みの味がテーブルに並ぶのでご満悦だ。秘密基地には昨日の夜からいつの間にか炊飯器が登場したので、兎はそこからご飯を白い皿に盛り付ける。


 和食器はまだ揃えていない。


「食べたら出て行くっす。こっちの俺に出会わない方が、何かと都合がいいので。」


「こっちのお前に鍵渡してないよ。君が持っているということは、時間の問題らしいけどな。」



 真昼はちょっと変な気分だ。


 未来の兎は真昼と随分、親しい様子で話しかけてくる。


 昨日、出会ったばかりなのに。



「だけど桜庭先輩に会うのも面倒っすよ。混乱の舞いを踊り始める。これからは、こっちの椿先輩を頼ろうと思ったのに…。」


 散歩の途中で置いていかれた犬みたいな顔をする。昨夜、出会ったばかりの頃の椿 真昼の元に現れた兎は、それなりに考えや覚悟があっての事のようだ。


 絆を深めれば、喪う傷が大きい事を承知で、この時点の真昼を最後の頼りに選んだのだろう。


「大丈夫。後輩くんに御守りをあげよう。」


「え!? ホントっすか!?」


 それだけ親しくなった仲なら、未来の兎は知っているのだろう。真昼に強い霊能力があることを。


 それを裏付けるように、御守りという言葉に兎は諸手を上げて尻尾を振り回した。


「役立つものすか? なんすか? 御守りくださいっす!」


「はいはい。落ち着いて。ちょっと、こっち向いててね。」


 兎の首をグキッとねじって、無理矢理に壁の方を向かせる。それから真昼は、床に置いていた鞄から、絆創膏を一枚取り出した。


 それを兎の首に張り付ける。


 正面から見ると、向かって左側だ。


「僕の力を込めた御守り。後輩くんの時間逆行もこれで終わりだ。」


「信じるっすよ。」


 兎は絆創膏の上から手で首を押さえる。こんなやり取りが何度かあったのかもしれない。変えられない時の中に、何度か。


「信じていいよ。でも僕に惚れるなよ、後輩くん。」


「うーーーーん…。」



 結構、長めの尺で思案された。



「え、…え、惚れそう?」


「いや、椿先輩に後輩くんって呼ばれるの、変な感じだなぁーって。ウサギって呼べばいいのに。」


「紛らわしいなぁ。危なく一瞬、後輩を攻略してしまったかと思ったわ。」


「危ない人っすねぇ…。」



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