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白兎令嬢の取捨選択  作者: 菜っぱ
第二章 王都の尋ね者(騎士学校一年生編)
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77情緒が戻って来たのではないでしょうか

ちょっと痛そうなシーンがあります。当人は全く痛みを感じていませんが。

 

 先生はその後、手際よく魔鉱をバーナーで溶かしていました。


「このまま、この魔鉱を馴染ませるために一時間くらい休ませる」

「何だかお料理みたいですね」

「ちょっと似ているよね。こういう作業しているとつくづく僕は何か作っているのが好きなんだと考えさせられるよ」


 先生はオルブライトの屋敷にいる、先生ファンが見たら倒れそうなくらい優美な微笑みを見せます。

 そのまま、キッチンへ向かった先生はケーキを手に持って帰ってきました。


「ケーキ!」

「そう。どうせ、ここにくるなら食べたいだろう?」

「ふふ。ちょっと期待してました」

「今日はダララ……。マルメロに似た果物のチーズケーキもどきだよ」

「マルメロ……。マルメロってなんでしたっけ?」


 前歴の記憶を呼び起こしても、マルメロがなんだか思い出せませんでした。

 こういう時に先生とは文化圏が違う国に住んでいたのだ、ということを思い知らされます。


 ちなみに、ダララのケーキはちょっとカリンに似た味で、チーズの甘さとダララの酸っぱさが絶妙にマッチして、とってもおいしくてお気に入りになりました。



「最近の学校はどうだい?」

「そうですね……。最近は第二王子がとってもうるさく話しかけてきますよ? 授業前に待ち構えるように教室の前にいたり、お昼休みに押しかけてきたりします」


 そう。実は最近、第二王子とうっかり接触する機会があり、追いかけ回されるようになってしまったのです。


 二年生も使う教科塔の廊下で、わたくしとばったり出くわした第二王子は、目をこれでもかというほど見開き「あのときの‼︎」と廊下中に響き渡る大声で叫んだのです。


 あの時は第二王子の叫び声になんだ、なんだ? と廊下中が大騒ぎになって大変でした。


 その後、なぜか休憩時間のたびに追い回されるようになってしまったのです。


「それはめんどくさいことになったね……」

「自分の派閥にオルブライト家のものを一人でも多く取り込みたいのでしょう。一つ下の学年のわたくしがこんな感じなのですから、同じ学年のヨーナスお兄様はもっと大変ですよね」

「……というかそこまでつきまとっているなら、それは求愛行動の一種なんじゃないか? 彼、君を初めてみたときから気に入ってそうだったし」

「もっと、心が伴っているような素敵な求愛だったら考える余地がありますが、あちらは所詮派閥を強化できる人材を欲しているだけでしょう。人材の引き抜きをするにも、こんなに付き纏われていると嫌気がさしますね」

「え? リジェットはアルフレッドの求愛には心が伴っていないと考えているの?」


 先生はなぜか目を丸くしています。


「ええ、ちっともこもっていないでしょう! だってあの方、いつも命令口調で『私を支える駒となれ』みたいなことしか言ってこないんですよ! 仏頂面で、少しも表情が動きませんし! あんな方、話しているだけで息が詰まりますもの」

「……何だかアルフレッドのことが不憫に思えてきちゃった。僕、あいつ大っ嫌いだけど」

「え?」

「リジェット……。君は多くに気がつかない方がいいよ……。その方が幸せなことだっていっぱいあるからね。君のそういう鈍くて、何も考えられないところ、僕は大好きだよ」


 いい笑顔で行っていますが、とっても失礼ですよね。


「……褒められている気がしません」

「ははは。褒めているよ、ちゃんと。でもそうか……、あの王子がそこまで詰めているんだね」

「もう! 本当困っているんですよ? わたくしは学校の休み時間は復習したり、予習したり復習したり、有意義なことに使いたいのに!」

「あ、そういえば。ヨーナスに聞いたけど、今の騎士学校って意外と勉強大変なんでしょ? 僕が入り込んでいたときとは内容が違うらしいじゃないか」


 そうか。先生はユリアーンお兄様と共に、騎士学校に潜入していた時期があったのですよね。


「そうなんですよね……。もっと効率的に勉強を進めないと、ここに来る時間も無くなってしまいますもの」

「……リジェット、ここに来るために今でも無理をしているんじゃない? 王都に来てからも結構な頻度で来ているけど……」

「わたくしは先生から学びたいことがたくさんあるので、何が何でもここには来たいと思っているのですが、先生としては迷惑でしょうか?」

「もちろん、迷惑ではないよ。君が来てくれて僕は楽しいし、暇もつぶせる。だけど、君には同級生の友達もいるだろうし、先輩もいる。一生に一回の学生生活なんだから、もっとそちらを優先させないといけないのではないかい?」


 その言葉に、わたくしは少しだけうーん、と考えこみます。


「そうなんですけど……。何というか、同室の女の子たちは友達ではあるのですが、やはり貴族、という階級制度が存在した上でのお友達ですから、なかなか無防備に心を開くのは難しいのですよね。爵位的にはあちらの方が階位は高いのですが、リージェ上ではこちらの方が、上として扱われてしまうという今の状況も相当厄介ですし。

 それに……。あちらはあちらでやることがあるようなのですよ。時間があると、何か調べに行ったり、街へ調査のようなことをしたりと何やら忙しそうですから」


 わたくしは何度か、エナハーンとメラニアが二人で何か調べ物のようなことをしているのをみたことがあります。


 何を調べているのかと、遠回しなニュアンスで聞いたことはあるのですが、いつも大したことじゃないのだと濁されてしまうのです。


 わたくしの勘が正しければ、あの二人が家を勘当のような扱いで出てきたということと関係がありそうなのですが……。

 二人はその理由をまだ教えてくれません。


 でもそれを責める権利はわたくしにはないのです。わたくしだって白纏の子が色盗みの能力があることを二人には言っていませんし、スミという色盗みと交流があるということも伝えていません。


 他人に言えないことというのは誰にだって存在するのです。


 でもやっぱり、秘密を抱えあって、共同生活を送っているとどこまで足踏み入れていいか迷ったり、変に線引きをしてしまったりはするのですよね。


 その点、先生には何の秘密もなく、ありのままのわたくしをみていただいているのでとっても気持ち的に楽チンです。


 貴族的な爵位の問題も特に考える必要がないですし(まあ、先生は聖女、という立場なのですから尊ぶべき人なのかもしれませんが、本人はそれを嫌がっていますし)、わたくしが本当に嫌になったら、先生はわたくしをぽいっと捨てるでしょう。それこそ、一切の感傷もなく、壊れたおもちゃを捨てるように。


 そういうところがある意味とっても信用できるので、一番楽なんですよね。


「わたくし、先生といるときが一番自然で、何も気を使わないで、楽しい自分でいられるのです。先生はとっても信頼できる方ですし……。

 学校生活は思ったよりもいざこざがいっぱいですから、ここでわたくしは精一杯呼吸をして帰るのです。……だから、わたくしは、勉強を無理やり頭に詰め込んででも先生に会いにきたいのです」


 ちらりと見上げると先生は口を開けて絶句するような表情でこちらをみています。


「何ですか……。その顔は……。わたくしに好かれているのがそんなにご不満ですか?」

「いや……違うけど。僕君にそんなに懐かれる要素があったかなあ? やっぱり餌付けがポイントだったのかな?」

「作ってくださるものが美味しい、というのも素敵ポイントではありますが、先生の人柄自体がとっても良い方だってところも大きいですよ?」


 そういうと先生はもっと不可解そうな表情になっていきます。頭が痛いのか、こめかみを抑えて、うーんと小さい声で唸っています。


「リジェット、一つ言えるのはそのセリフ、いろんな人にぽんぽん言っちゃダメだよ? ここぞ! というときに用法容量を守って正しく使うんだ」

「……わたくしそんなおかしなことは言っていませんけど」

「君の基準でものを考えてはいけないよ? あと間違っても、それをアルフレッドに言わないように」

「第二王子に? 死んでも言いませんよ」

「なら良いんだけど……。君は放って置いたら信者を増やしそうで心配なんだよ。影から見守る系なら良いけど、自分のものにする系だった場合対処が難しくなるからね」


 先生の言葉にわたくしは首を傾げることしかできません。


「……よくわからないですけど、先生がわたくしのことを心配しているってことだけはわかりました」

「それだけわかれば十分だよ」



 そんなことを話ながら、先生が作ったお手製ケーキをいただいていると、魔術具に使う魔鉱が魔力に馴染んできたようです。


 先生は次の手順に移ります。さらりと描いた設計図を見て、その形に必要な魔鉱を切り出した先生は、粘土を練るようにピアスの形を作っていきます。


 あまりにも手早すぎて何が起こっているのかわからないまま、目をパチクリしていると、先生の手には宝石の周りを一周させるようなデザインのピアスがコロリと転がっていました。


「今……。何をしました?」

「君が勝手に真似をしないように、手順を巻いた」

「巻かないでくださいよ……」


 秘伝の技を覚えられなかったことにちょっとがっかりしましたが、出来上がったピアスは文句なく可愛らしいです。

 かかった時間は大体一時間ほどでしょうか。所々、見慣れぬ魔法陣を使って作業していましたので、もしかしたら本当はもっと時間がかかるものなのかもしれません。


「わあ……素敵ですね」


 わたくしは少しアンティークな要素を含んだデザインを持つそのピアスを一目見て、気に入ってしまいました。


「これを君がつけるのはなんだか癪だけど、仕方がないよね。君が盗んだ石で呪いが入っていないのはそれしかないんだから。……リジェット、まずは耳に穴を開けよう。こっちにおいで」


 そう言われ、先生のそばに寄ると先生はキャビネットから持ってきたピアッサーのようなものを持っていました。


「リジェット、これで穴を開けるからこっち向いて」

「えっ! 自分で開けますよ?」

「自分で開けても良いけど、穴の方向ずれると悲惨だよ?」


 そう言って先生はわたくしの頬を左手で押さえ、右手で耳たぶに触れて確認しています。


 あ、あれ……。なんでしょう、これすっごく恥ずかしいのですが……。

 わたくしは痛みには鈍い生き物ですが、ちゃんと感覚はあるのです。


 お兄様たちに頭をぐしゃぐしゃと撫でられることはあっても、耳に触れられるなんてことはありませんので、妙に緊張してしまいます。


 ——わたくしの情緒はどうやら生きていたようです。


「あの! 一思いに一気に、手早くお願いします!」

「あれ? リジェット怖くないんじゃなかったの?」


 そう言った先生は楽しげに、にやりとニヒルな笑顔を向けています。

 怖い、という感情はありません。早く、この妙な緊張感と体温の上昇から解放されたいだけなのです!


 ぶちっ


 鈍めの音が響いたあと、すぐ先生が傷口を治してくださいます。

 処置が済んだ先生はやっとわたくしから離れます。


「うん。これでピアスつけられるでしょう」

「はあああああ〜!」


 全ての一連の流れが終わったことにわたくしは安堵し、淑女らしからぬ声を上げてしまいました。


「どうしたの? リジェット? そんなに緊張した?」


 先生が人の気も知らずに呑気な口調で声をかけてきます。

 わたくしの緊張なんて先生にはわからないでしょうね! 


「ピアス、自分で付けられる? 付けてあげようか?」

「結構ですっ! 自分で付けられますから!」


 思ったよりも強い口調で、言ってしまったことにびっくりしながら、先生の方を見ると先生はしゅんとした顔をしていました。


 その表情にちょっと心が痛みながらも、わたくしは自分でならないながらに、ピアスを耳に付けていきます。


「わあ……かわいい」


 思わず簡単の声を出すと先生は嬉しそうな顔をします。


「かわいいだけじゃなくてちゃんと魔術具になっているから。魔力を込めてご覧?」


 わたくしは目を瞑り、集中して、魔力をピアスに流し込みます。


「これでピアスから魔力を引き出すことができるようになる。もともと、僕の色を盗んだ石で作られた宝石が材料として使われているから、長持ちするでしょう」

「ほほう……」

「無理な使い方はしないようにね」

「わかっていますよ! 貴重な魔術具ですもの。使い捨てにするような真似はしません」


 こうしてわたくしはやっと、魔術補填の魔術具を手に入れたのです。






魔術具出来たー! の回です。この世界のピアッサーは痛みをかけずに開ける、というより血を落とさないことを優先しているらしいので、開ける時は相当痛いらしいです。リジェットは粛の要素が強いので、その心配は無用ですが。

毎日投稿をしたいのですが、年末バタバタでできない日も続いております……。すみません。できれば毎日……! 毎日!


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