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白兎令嬢の取捨選択  作者: 菜っぱ
第一章 大領地の守り子
33/157

32細かいところを調整します


 何度かマルトへ通ったわたくしは、その後ニエをオルブライトの屋敷に移動させるために、キン村長に許可を取りに行きました。


「ニエが村外へ……、ですか……」


 最初は渋っていたキン村長でしたが、ニエの村外に出ていろいろなものを見てみたい、と言う意思を汲み取り、最後には転出の許可をくださいます。


 そうして移動が決まったニエは料理人のタセと同じく、別邸で暮らすことになりました。ニエはもちろん住むところがあればどこでもいいと言ってくれましたし、一応タセには了承を得ていますが、年齢の異なる見知らぬ他人と暮らすのは大変なことでしょう。


 二人が別邸で暮らし始めて一週間が経った頃、わたくしは別邸の様子を覗きに行きました。



「タセ、いきなりニエのこと面倒見てもらって本当にごめんなさい」


 わたくしを笑顔で迎え入れてくれたタセに、お礼と謝罪を伝えます。まだニエとたくさん話したわけではないので、本質を掴み切れたわけではないのですが、きっと迷惑をかけているでしょう。


 そう思っていたのですが、タセからは意外な返事が返ってきます。


「いいえ〜、あの子すっごくちゃんとしていて、あんなにちっちゃいのに自分の面倒が自分で見れるんですよ。

 私は料理人なんで食事は作れても、それ以外のことがてんでダメで……。あの素敵な別邸の使用人部屋を貸していただいているのに、中の整理整頓が行き届かなくなっていたところだったんです。それをぜーんぶ、ニエが綺麗にしてくれたんですよ!!」


 あら……。意外です。見た感じだとタセはとってもしっかりしている様に見えますし、整理整頓などは得意そうな印象ですのに……。


 話をしていると隣の部屋で掃除をしていたニエがひょっこり顔を出します。「リジェット様! そうなんですよー!」といいながらニエが畳み掛ける様に同意します。


「そう! リジェット様、ほんとに怒っていいと思うよ?

 マッジで汚かったんだから! ほんと大変だったんだよ、こっちは……。俺が来なかったらどうするすもりだったの?」

「ははは……。ごめんね、ニエちゃん」

「まあ、二人が協力してここで暮らしてくれるならばよかったわ。でもタセ。いくら子供でも男の子を面倒みるって大変だと思いますし……」

「え? リジェット様何言ってんの? 俺、女だけど?」

「え?」


 その言葉にわたくしは目を丸くしてしまいます。ニエが女の子? でも、一人称は俺、ですし……。ニエは初めて会った時に比べれば、顔色がよくなりましたけど、マルトの栄養状態がよくなかったために痩せていて、性別の区別がつきにくかったのです。


「ニエ……。あなた女の子なのにそんな口調で……」

「はあ? 女とか男とか関係ないって言ったのはリジェット様じゃん。騎士になりたいリジェット様だけは俺を叱れないと思うんだけど……」

「うっ!」


 そうです。それを言ったのはわたくしでした。

 何も言い返せず項垂れるわたくしを不憫に思ったのか、タセが助け舟を出してくれました。


「ニエちゃん。あなたこれからリジェット様の事業を動かす組織の一員になるんでしょう? そんな荒い口調で話していたら取引の時、うっかりボロがでるよ」

「はっ! そ、それです! わたくしそれが言いたかったんです」

「えー、俺そのへんはうまくやるもーん」

「それがね……。とっさの時にいつもの癖が出るものよ」


 タセは、重々しい表情でニエにアドバイスをしていました。その顔に滲む圧力で一瞬ニエの顔が怯んでいましたが、タセは何か失敗をしたのでしょうか。

 タセは男社会のリベラン出身の料理人ですが、言葉遣いは丁寧かな……と思っていたのですが。


「とりあえず自分のことは私って言いなさいね。高貴な方々は男でも女でも私っていうから。……まあ女性は高貴な方だとわたくし、か」

「ちぇっ……わかったよ……。これからリジェット様のもとで働くんだから仕方ないか」


 ふてくされながらも、年長者であるタセのいうことをニエは聞くことにした様です。タセはニエのことを変に子供扱いせず、幼いけれども同僚の様に扱っているので、ニエも聞き入れやすかったのかもしれません。いきなり同じ屋敷に住んでください、とお願いをしてしまったので、大丈夫かな、と心配をしていたのですが、なんだかんだで、この二人はうまくやっていけそうな気がしました。


「そんなことより、リジェット様。お茶の販売会の準備、早くしていかなくちゃだろ? リジェット様予定だとあと五ヶ月で王都に行っちゃうんだろ⁉︎ やっべえじゃん!」

「リジェット様がいるうちに一回は販売会をやらねばなりませんね。一度やりようがわかれば、後は私どもでなんとかしますから」

「ううう……。二人ともありがとうございます。こんな時間がない中で新しい事業を起こそうなんて馬鹿なことに巻き込んでしまって……」

「自覚があるんならちゃっちゃと動いて! 今日のうちに日にちは決めようぜ」


 いずれはお店としていつでもハーブティーを買うことができる環境を整えたいと思いますが、今の人員ではなかなか難しいです。なのでまずは一回、イベントの様な形で突発的な販売会を催すことにいたしました。

 わたくしの騎士学校の入学試験の日取りも考えて、初めてのお茶の販売会は二ヶ月後に設定することになります。


「そうと決まったら種類の選定などをしなければいけませんね……。わたくしはこれから調理場に篭ってもよろしいでしょうか?」


 タセはやる気に満ちていて、早く作業をしたくてたまらない、と言う表情です。


「お願いします! 決まりましたらこちらで連絡くださいます?」


 そう言って、わたくしが作成したお手紙の魔法陣をタセに手渡し、そちらはお任せすることにしました。タセは嬉しそうにスキップしそうな足取りで調理場に向かって行きます。


「そうと決まったらシェカに連絡して贈答用の箱をたくさん作ってもらわなくちゃ」


 最近はすっかりマルトのことに思考の配分を割いていましたが、もともとこの事業はシェカの家を救うために始めたことですものね。


「シェカって誰?」


 シェカと面識がないニエはその名前を聞いて不思議そうな顔をしています。


「先生の住むミームという土地にある家具屋を営んでいるお家の後継ぎさんですよ。多分ニエと同い年くらいじゃないかしら」

「ふーん。この事業、まだ関係者がいたんだ」

「ええ、茶箪笥を作ってくださった方なのですが、とっても素敵なんですよ」

「そうだ! 今日ミームに行くのでニエも一緒に行きますか?」

「え! いいの⁉︎」


 色んな場所に行きたいと言っていた、ニエは違う場所に行けるとあってとっても嬉しそうです。

 本当は転移陣を持っていることはあまり知られてはいけないことなのですが、ニエはもうわたくしが移動手段として転移陣を持っていることを知っているので、わざわざ隠す必要もありません。

 

「では支度をして、ミームに向かいましょう」



 わたくしとニエは転移陣でミームの街に降り立ちます。初めて転移陣を使ったニエは目をキラキラとさせていました。


「あれが転移陣ってやつかー! めっちゃ面白い! いいなー」

「一応転移陣を個人が所有していることは貴族的にも機密事項なので、誰にも言ってはいけませんよ?」

「はーい!」


 シェカの家である家具工房へ向かうと、お手紙の魔法陣で先触れを出していたので、シェカが工房の扉の前で待ち構えていました。


「お出迎えありがとうございます、シェカ。この子はこれから事業を手伝っていただくことになったニエです」

「この子……。女? 男?」


 初めてニエに会ったシェカは一言目にそう口にしました。


「一応女だけど、そんな細かいこと気にしなくてもいいよ。俺……。んん。私はニエ。最近リジェット様のもとで働き始めたばっかりだからわからないことも多いから、いろいろ教えてくれると助かる」

「そうは言われても、俺も巻き込まれた感じだからな……。まだいまいち状況が掴めてないんだが……。こっちこそよろしく頼むよ」


 ああ、あんたも被害者か。と小さく呟いたニエの声は聞こえなかったことにして、わたくしとシェカは話を進めます。


「それでですね、シェカ。出店の日取りが二ヶ月後に決まったので、用意してもらえるだけの量でいいので頼んでいた贈答用の箱を売ってもらえないかしら」

「二ヶ月後⁉︎ 随分早いですね。……なんか嫌な予感がしたんでこっちでも何個かストックを作っといてよかったです。あっちにあるのが全部使っていいやつですよ」


 シェカが指差した方向をみるとそちらには大量の浅い木箱が積まれていました。


「わあ! こんなに用意してくれたんですか?」

「一応、リジェット様が来た日からコツコツと間見つけて作る様にしてたんですよ。……絶対無理な日程を言われるんじゃないかと思って。事業って言ったのもいきなりでしたし……。色合いは木材によってバラバラだけど、結構いい感じですよね」

「結構どころではありませんよ! 本当に……。素晴らしいです!」

「そう言ってもらえると嬉しいですね。頑張った甲斐がありました。あ、そうだ」


 ちょっと待っててくださいね、と言ったシェカは小走りで奥の扉に入って行きました。倉庫の様なところでしょうか。戻ってきたシェカは手に腕の長さほどの細長いものを持っていました。


「リジェット様、頼まれていた焼印。職人の方から届いてますよ」


 それは前回こちらに訪れた際、シェカに職人がいたら注文しておいて欲しいと頼んでいた、お店のロゴが入った焼印でした。


「わあ! すっごいです! 先生のかいたロゴの通りにちゃんと作られていますね!」

「試しにこの箱に押してみると……ほら!」


 シェカはその場で焼印を木箱に焼き付けてくれました。


「わあ! 綺麗な模様……。こんなに素敵だと取っておきたくなりますね」

「そうですね。店の名前も覚えてもらいやすくなるし、いい焼印に仕上がりましたね」


 わたくしは焼印の入った木箱を手に取り、その様子をまじまじと確認します。


「急なスケジュールで本当に結構できるか不安でしたが、やればできるものですね……」

「用意は楽しかったですけど、今度はぜひもう少し余裕を持って用意させて欲しいです。


 シェカは眉をハの字にして、肩を押さえながら疲れを滲ませて言います。今回は相当無理をさせてしまったのかもしれません。さすがにわたくしも申し訳ない気持ちになりました。


 もし、今回の催しがうまくいけば、騎士学校に行った後も、事業を大きくしていきたいと考えているわたくしは少し急いでしまった様です。



 家に帰ると、お母様からお茶のお誘いがあったとラマから伝えられました。もしかしたらもうテーブルクロスが仕上がったのでしょうか。


 急いで、支度を整え、お母様の部屋に入るともうお茶の準備がされていました。こちらへ、とお母様付きの侍女に促され着席をします。


「リジェット、急に呼び出して悪かったわね。テーブルクロスが完成したのが嬉しくって」

「まあ! 出来上がったのですね」

「ええ、見てもらえると嬉しいわ」


 お母様は手で侍女に指示を出します。指示された次女はわたくしの目の前に白地に青の刺繍の入ったテーブルクロスを持ってきました。

 その美しさにわたくしは目をまあるくします。


「まあ……! なんて美しいのでしょう!」

「素敵です!」

「ありがとう、喜んでもらえて嬉しいわ」


 着々と準備が進んでいくのことにわたくしはニンマリとしてしまいます。この調子で……、当日まで準備を進めていきましょう!



準備が終わりましたね! サクサクっと行きますよ! 

次は先生回です。

33先生はなんで魔術師になったのですか?


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