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白兎令嬢の取捨選択  作者: 菜っぱ
第二章 王都の尋ね者(騎士学校二年生編)
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133知古の聖職者と捕縛の魔法陣

途中でリジェット視点からスミの視点に切り替わります。


 うーん。ここまで走れば安全ですかね。


 大聖堂の聖職者達と追いかけっこを展開したわたくしは、あらかたの中級聖職者達を大聖堂外に散らせた、と判断し、足を止めます。


 聖職者たちは最初の方は、なかなかいい感じでわたくしの後をついてきており、見応えのあるレースを展開していたのですが、どうやら持久力がないようで、しばらくすると一人、二人と脱落し、最後には散り散りになっていきました。


 わたくしの今回の役目は囮となって、大聖堂の警備をしているであろう、中級聖職者たちの気をわたくしに引きつけて、先生たちが建物内に侵入しやすくすることですから、今のように追っ手を街の方に向かわせておけば多少時間は稼げるでしょう。


 このまま、先生宛にお手紙の魔法陣を飛ばして合流しようかと思った時、後ろでボワン……と異質な音がします。


 ハッとして振り返ると、そこには転移陣が起動した時の光が灯っていました。一瞬、先生かしら、と思って陣の中のモチーフを薄目で確認してしまったことが間違いでした。


 転移してきたのは見知らぬ男の聖職者。わたくしは一瞬の隙に男に腕を掴まれていました。


「やあ。白纏の君。探しましたよ。お迎えにあがりました」

「え……」


 先程までわたくしを追いかけていた、いかにも下っ端感がある聖職者とは違い、この聖職者は頭に巻くタイプのアクセサリー__真正面に赤い宝石がついたフェロニエールをつけていて高位の人間であることがはっきりとわかる風貌をしています。

 ふわりとした生地のローブ風の羽織りも繊維に光沢が見られました。


 というか、この人。どうしてここにいるのでしょう。転移陣はあらかじめ着地する場所に出口を設置しておかないと、作動しないはずなのに……。

 この聖職者は、その常識を覆す転移陣を持っているってこと……?


 怯えと困惑を滲ませたわたくしを見て、ニタリと笑う聖職者の男。

 危険を察知したわたくしの背中にぞわりとした感覚が走ります。


「ははは! 愚かな娘よ!色盗みの女と白纏の子だけを捉える魔法陣の存在を知らなかったのか? 大聖堂は貴重な白纏の子を逃さないように、一度姿を記録した白纏の元へ飛ぶ事ができる転移陣を開発済みなのさ。まあ、上級の聖職者しか知らない事実ではあるがな」

「っ!」


 そんなものがあるなんて!

 情報収集の不足を叩きつけられます。触手のように光を伸ばした白纏捕縛用の魔法陣は強力であっという間に、わたくしの身動きを絡め取るように封じてしまいます。


「きゃあっ!」


 とりあえず、取ってつけたような御令嬢っぽい叫び声をあげるわたくし。


 捕縛されながらも、命をつなぐような魔法陣自体は持っているため、まあ、死ぬことはないだろうと思ったわたくしは意外と冷静でした。さーて。こうなったら、わたくしはどこに連れて行かれるんですかね?

 そもそも先生の計画の中には迂闊なわたくしは捕まるだろうという予想も織り込まれていたのです。

 その通りになってしまったのがとっても癪に触りますが……。


 この人は色盗みではなさそうですし、誰かのところまで献上されるのがオチでしょう。……もしかしたら、このままグランドマザーのところへ直行するパターンもあり得ますね。


 状況を楽観的に考えていたわたくしは、捕縛をされ逃げられず大人しく従う御令嬢のふりを続行することにしました。


 ここまで考えて、ふと、おかしなことに気がつきます。


 あれ? スミは白纏対策の魔法陣があるってことを知っていたのかしら……。

 もし知っていたのに教えなかったとしたら。スミは相当な食わせ者なのでしょうが。





 リジェット様とは別行動をしていた私とクゥール様とマハは計画通り、大聖堂の中へと進んでいた。


「スミ、今リジェットに取り付けた防衛の魔術が揺れた」


 そういって顔を顰めたクゥール様。その言葉を聞いた私はうっかり笑みをこぼさぬよう、必死に表情を固くする。


「え……大丈夫かな。戻る?」

「揺れた、ってことは正常に作動したと言うことですよね? それが壊されたと言うことではないのでしょう?」

「……そうだけど」


 クゥール様が不機嫌そうな顔で肯定した。


「だったら、このまま進んだ方がいいのではないですか?」

「……」


 マハは私がリジェット様を心配しない様子を不可解に思う感情を隠そうとしません。しかし、何らかの思惑があることに気がついたのか、クゥール様ではなく、私の方をチラリと見た。


「……わかった。このまま進もう」


 正面入り口とは反対側の窓のから大聖堂の中に入った私は辺りをキョロキョロと見渡す。

 相変わらず、大聖堂の中は床も壁も天井も、どこもかしこも黒一色で塗り固められていて、重苦しく感じられてしまう。だた、不思議とその黒が以前よりも仄暗く見えた。


「とりあえず、ここの魔法陣の使用権も塗り替えておくか……。マハ、どっちに上級聖職者たちが集まる控室はどこにある?」

「こっちの階段を上がったところ。ここから、それほど遠くない」


 私とクゥール様はマハの案内に素直について行く。マハが案内した道は、私が大聖堂で働いていた時には、階位が足らず、通ることが許されていないエリアだった。


「マハ。あなた……この区間に普通に出入りしているの?」

「え? うん。そうだけど……。あ、もしかしたら、俺が魔力量が多いから入れるのかもしれない。ここ、魔力量で入れる区間が多少変わるから……」


 マハはこんなところに入れるくらい階位が上がっていたのだわ……。そのことに素直に驚きながらも私達は中でと進んでいく。


階段を上がると、一気に空気の重さが増した。それと同時に、壁にタイルのように埋め並べられた色盗みの女の宝石が増えていく。

 黒い漆喰のような壁に丸みのある、価値ある色とりどりの宝石が埋め込まれる。背景を黒に塗り潰されたそれは彩度を失っても、気高さは失っていない。

 見惚れるほど綺麗で、そして悪趣味だった。


「この先が上級の聖職者たちが魔法陣を起動させている控え室だよ」


 マハが指差した方向には、荘厳な花の模様が描かれた、重そうな扉がある。


 クゥール様はその前で立ち止まり、何かを確認した__多分、魔法陣で中の様子を伺って__小さく頷いて見せた。


「大丈夫だね。特に中に厄介なものはない。全部、僕が塗り替えられる範囲だ……いくよ」


 クゥール様は私達の方を鋭い視線で一瞬見て合図を送り、扉を勢いよく開けた。

 

 中に入ると、十五人ほどの聖職者達が、円卓を囲むように座ってた。

 年老いて見える聖職者から、黒髪の若い青年姿の聖職者まで。多種多様な見た目をしている。ただ、その中には女は一人もおらず、男だけで構成されているらしい。


「何者だ!」


 外の警備状況が安心であると過信し、慌てふためく上級の聖職者たち。

 その中には私が顔を知る人物も数名いた。一人の若い男__若く見えるだけで、実際は呪い子で六十をとうに超えている__が私と目があった瞬間、あっ、と顔をこわばらせた。


 目が、助けてくれと饒舌に訴えている。

 だけれど、慈悲をかける気は一切生まれなかった。


 クゥール様は聖職者達の質問に答えることもなく、ただ淡々と容赦なく魔法陣を塗り替えていく。

 グランドマザーを守るための魔法陣はもちろん、ここにいる聖職者達が持っている自分自身を守る魔法陣まで。ありとあらゆる魔法陣の使用権を最も簡単に、もはや爽快感さえ感じるほどのスピードで奪っていった。


 そうなると、丸腰にならざるおえない聖職者達。

 自分達が知らない、いかにも強者の男が乗り込んできたことに絶望とも取れる悲壮な顔を浮かべていた。


 そのあまりにも強靭な力を目の当たりにした聖職者達は、一切立ち向かって来ようとはしなかった。いつも祈りを捧げ、人の配置ばかりを考えている彼らはきっと戦う術を知らないのだ。その中の一人が逃げるように後ずさった。


「マハ。捕縛の魔法陣を起動して」

「え?」

「上級の聖職者たちを、この建物から出さないで」


 私の指示を受けたマハは、全てが腑に落ちたわけではなさそうだが、カバンに入っていた捕縛の魔法陣を手に取り、起動をさせた。


 この中にいる人間の中でクゥール様を除くと一番、髪が黒く、強大な魔力を有するマハの魔術は、逃げ惑う聖職者達の足を絡め取るように捕縛していった。

 聖職者たちを一箇所にまとめるように縛り上げる。


「さ、こんなもんかな」


 やり切ったという表情で、首をボキリとならすクゥール様。


「上に上がりましょう」


 私たちはそのまま、上の階__グランドマザーがいるベルクフリートまで上がっていった。


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