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白兎令嬢の取捨選択  作者: 菜っぱ
第二章 王都の尋ね者(騎士学校二年生編)
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126便利な神具を作ります


 ギシュタールに向かった翌日。今日もわたくしは騎士学校の授業が終わったあと、先生と一緒に例の魔術具作成をする予定になっていました。


 さすがに連日先生を拘束してしまって申し訳ないなと思ったわたくしは、寮に一度戻って、手土産がわりに新作のハーブティーをカバンに詰め込みます。


 持ち物を準備し、そろそろ出かけようと思ったその時、リビングでちょうど授業が終わり帰ってきた、メラニアとエナハーンとすれ違います。


「あれ? 今日も出かけるの?」


 何故か心配そうな顔をするメラニアに、わたくしは笑顔で返事をします。


「はい! 行ってきますね! 夕食前には帰ってきます」


 引き止めようか迷うような表情を浮かべる二人に手を振り、わたくしは寮の部屋を出て行きます。


「リジェット……定期テストが近いのに、あんなに出かけていて大丈夫なのかな?」

「そ、そうですね……。リジェットの選択授業はエドモンド先生の魔法陣ですから、そちらは問題ないでしょうが、共通の科目もあるのに……」

「共通の科目、結構復習大変だよね?」


 二人がそんなことを呟いていたことに全く気づかずに、るんるんなわたくしは部屋を飛び出してしまったのです。







「いらっしゃい、リジェット」


 いつものように迎え入れてくれた先生の家の入り口には昨日採ってきた、魔鉱の袋、三袋がドカンと無造作に置かれています。袋の下に昨日、わたくしが手伝っていれた、収納の魔法陣付きのカバンが潰されるように敷かれているので、出したはいいが力がない先生には動かせなかったのかもしれません。


 多分、先生は身体強化系の魔法陣は持っているはずなのですが、それでも力仕事を嫌います。


「先生、これどこかに運びます?」

「あ、お願いしてもいい? リジェットがきたら移動してもらおうと思っていたんだよね」


 ほら。思った通りです。


 先生はマメなのに、変なところでものぐさです。きっとわたくしがくることを見越してそのままにしておいたのでしょうけど。わたくしはこういうものを運ぶことに特に苦労しませんもの。なんでも魔法陣頼りな先生とは鍛え方が違うのです。

 たっぷり魔鉱が詰まった麻袋をよいしょと持ち上げ、いつも魔術具を作る時に使う作業机の方に運んで行きます。


「で? この大量の魔鉱をどうするんですか?」


 尋ねると、先生はニヤリと笑います。


「昨日使った、改良版手紙の魔法陣をもっと改良して魔術具にしていこうと思っていて」

「紙ではなく魔鉱を基礎として、あの改良版の手紙の魔法陣を作ろうと言うことですか?」

「察しがいいね。その通りだ」


 魔術具に詳しくないわたくしは、魔法陣と何が違うのかさっぱりわかりません。


「紙ではないと何かが変わるのですか?」

「うん。前魔力補填の魔術具を作った時にわかったと思うけど、魔鉱は魔力を含む性質があるからね。魔鉱に魔力をある一定量まで含ませると……こんなことができる」


 先生が袋に入っていた魔鉱の一つを親指と人差し指でつまみ出し、ぎゅっと二十秒ほど力をこめます。すると魔鉱はギラリと光り始め、少しずつ色を変えていきました。


 ここまでは以前わたくしが魔力補填の魔術具として今も身に付けているピアス型魔術具を作った時の工程と同じです。しかしその後、先生がもっと魔力を入れ続けると、魔鉱は溶け出し、形を変えて行きます。


 ポコポコと煮立つように蠢いた魔鉱は少しずつ形をかえ、整形されて行きます。蠢きが止まった魔鉱に目をやると、まるでミツバチのような形に姿を変えていました。

 完全に形作られた金色のミツバチ型の魔鉱はおもちゃのような見た目をしていました。そこに、先生が描き出した改良版手紙の魔法陣を転写して行きます。


 すると、ただの魔鉱であったはずの、ミツバチはそのまま先生の指を離れ、まるで命を与えられた生き物のように宙に飛び立って行きました。ブーンと部屋を周回する様はミツバチそのものでしかありません。


「はい。こんな感じかな〜」

「え、ええ⁉︎ 待ってください! 今、何をしたんですか⁉︎」

「魔鉱を魔術具に……というか、僕の力は神力だから、正確にいうと神具かな? ……にしてみたんだよ。これで、昨日の手紙の魔法陣みたいに情報を集める魔術具が作れたね。魔法陣とは違って、魔術具は自分で考える力があるから、状況によってはこの個体だけで戦ったり、違う個体の魔術具と連携して動くこともできる優れものなんだ」


 ケロッといった先生。あまりの自体にわたくしはあんぐりと口を開けることしかできません。


「ちょっ! それって……もはや生命の創造なのでは⁉︎」


 禁術ところではない騒ぎに、わたくしはもう倒れそうになります。


「大丈夫だよ。このくらいなら誰でもやっているって。この術の原型はオフィーリア姫が作ったものだしね。魔術具の研究が盛んなラザンダルクでは割とポピュラーな術らしいし」


 先日、シハンクージャの恐ろしさを知ったばかりでしたが、ハルツエクデンでは禁術とされている生命の創造を日常的に行っているラザンダルクも相当恐ろしい国なのではないでしょうか。

 というか、よくハルツエクデンはこの二国に侵略されずに済んでいますね⁉︎


「オフィーリア姫は……もしかして、城から出なくても、魔術具で情報を集めることができるのですか?」

「そうじゃないかな? でも、オフィーリア姫にはニーシェがいるから。あ、ニーシェっていうのはこの前いたメイド服の従者ね。あいつも情報収集が得意としているからもしかしたら、そのせいもあるかも。……もちろん先読みの力もあるしね」


 オフィーリア姫の死角のなさに慄きます。

 スミの家を探り当てられたのも、先読みの力だけではなく、もしかしたらこのような魔術具を使ったからなのかもしれません。

 __というか、わたくしにも様子を監視するような魔術具が使われていたりして……。


「この魔術具、数がないとあまり役に立たないから、今までなかなか作れずにいたんだよね。でも、これだけ魔鉱があればいくらでも作れるでしょう?」


 そう言った先生の言葉に、わたくしは一つ疑問を持ちます。


「以前、わたくしが魔術具を作った時は、なかなか魔力が馴染むものがなくて、最終的には先生が虎の子として大切にしていた魔鉱を使うことになった記憶があるのですが……。先生は大丈夫なのですか?」


 わたくしの思いつきの質問を受けた先生は、言いにくそうな表情で答えをくださいます。


「……それは平気。基本的に僕どの魔鉱も染め上げることができるから。……リジェットが魔力を含ませるのに、苦労したのは、もともと魔鉱に含まれる微量な魔力よりもリジェットの魔力の方が少ないからだよ」


 無慈悲な一言にわたくしは固まります。


「え……じゃあ、髪が黒くて魔力がたくさんある人であれば、魔鉱の質を選ばずに魔力を含ませることができるってことですか……?」


 もしかしたら、いちいち魔鉱を選ばなければならないのは、魔力量の少ない人だけなのでしょうか。


「うん。僕の神力はいわば魔力の上位互換だから、僕もそう」


 こんなところにも……格差が!

 わたくしは無慈悲な運命に嘆き、頭を抱え込みます。


 ゼロ魔力、不便すぎる!

 そして、先生は強すぎる!

 先生は全ての魔鉱に魔力を流せるのに、どうして様々な種類の魔鉱を持っているかというと、魔鉱の種類によって、どんな魔術具になるか個性があるからだそう。


 ……ちなみにわたくしは、以前先生からいただいた、虹色の魔鉱は魔力の浸透力が高い、とても珍しいもので、魔力の高い人が魔力を流し込むとさまざまな種類の動く魔術具を作ることができるそう。


 魔力がほとんどないわたくしでは、動かないアクセサリー程度の魔術具しか作ることができないとのことですが……。


 わーん!

 ずるい、ずるい! わたくしもいろんな魔鉱を使って魔術具を作って動かしてみたかったです!


 硬直するわたくしの様子を見て、不憫に思ったらしい先生。少し考えこむ表情をした後、あ、と思いついたように声を上げます。


「でも……。リジェットは僕の色を一部取り込んでいるから、僕の描いた魔法陣を使うことはできるでしょう? だったら、魔術具を量産することはできなくとも、僕の作った魔術具を使うことはできるんじゃないかな?」

「ほ、本当ですか⁉︎」

「うん。試しに今作った魔術具を動かしてご覧?」


 先生に促され、すがる思いで、飛んでいるミツバチ魔術具に、こっちにきて、と念じます。すると、思惑通りミツバチはこちらに飛んできたではないですか!


「せっ先生! ミツバチ、こっちにきました!」

「よかったね〜。じゃあ、この魔術具も使えるんだね。……へえ。僕も知らなかったけど、魔術具って共有できるんだ」


 はしゃぐわたくしを尻目に感心した様子を見せた先生は懐から取り出した研究ノートに共有条件を記録して行きます。


「でも先生の色を一部取り込んでいても、その色を自分の力として使うことはできないんですね」

「自分の力として使うには色の量が足りないんだろね。でもまあいいじゃないか。使えるってことがわかれば、僕が大量に作ればいいんだから」

「ではわたくしは助手に徹しますね!」


 そうして、わたくし達は麻袋に入った魔鉱の中から、できるだけ質が低そうなものをよりわけます。先生がいうには、ミツバチの魔術具は質がいい魔鉱で作ったとしても、そこまで機能が変わるわけではないので、質のいい魔鉱は他の機会に使った方がいいとのことでした。


 せっせとミツバチの魔術具を作った結果、わたくしたちの目の前には養蜂箱一箱分ほどのミツバチ達が出来上がったのです。




リジェットはできないことが意外と多いのです。

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