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白兎令嬢の取捨選択  作者: 菜っぱ
第二章 王都の尋ね者(騎士学校一年生編)
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100ヒーローみたいですね!

 突然聞こえてきたここに来られないはずの人物の声に、アルフレッド様は顔を青くしています。

 わたくしもその声の持ち主の顔が見えるよう、バッと顔をあげます。


「うちの子を勝手にさらうのは控えていただきたいですね。アルフレッド? 自分の寝室に未婚の御令嬢を連れ込むなんて……いくら王子でも許されませんよ?」


 ……いや、待ってください。その発言、先生にとっては特大のブーメランなのでは?


 あ、あれは客間だから、セーフなのかしら。いや、まって、わたくし先生の寝室に入ったこと、ありますよね。

 あ……。押し入ったのはわたくしの方でした。

 ということはこの場合、ブーメランを受けるのはわたくしですね……。



「クゥール⁉︎」


 アルフレッド王子は自室に先生が現れたことにひたすら驚いているようです。そんな様子のアルフレッド様を見て、先生は魔王のように冷ややかな笑顔を見せていました。


「どうやって入ってきた⁉︎ 王城には転移陣を設置出来ないはずだぞ⁉︎」

「方法? 教えるわけがないでしょ。少しは自分の頭で考えなさい、馬鹿王子」


 先生はわたくしの上にのしかかるようにいらっしゃったアルフレッド様をどかし、優雅さを失わない速さで手を取ります。先生はわたくしにかけられていた捕縛の魔法陣も難なく解いてしまったようです。


「さ、何ぼーっとしているの? リジェット。早く行くよ」

「え、あ……。はい」


 なんだか呆気ないくらい簡単に、助けられてしまったわたくしは目をパチクリしながら、先生に引っ張られていきます。


「お前は……本当に……私の邪魔ばかりするっ!」


 悔しそうに顔を歪めた第二王子を放って、先生はわたくしの手を引き、自身が設置した転移陣に引き込みました。


 立ち去る前に、第二王子はわたくしに向かって叫ぶように宣言をします。


「リジェット! 私は諦めないからな!」

「……早めに諦めてください」







 転移陣から降りた先は先生の家でした。どうやら先生はわたくしを寮に返す前に怪我がないか確認をしたいようです。


「よかった。無事に帰ってこれたね」

「はい。でも……。悔しいです……、アイツを一人でおろせなかったことが……」

「仕方がないでしょ。一人で全て捌けるわけがないよ。一応あそこは王城なんだから……。というか、王城の警備をすり抜けて、動けてたってことがすごいよ……」


 先生はわたくしの体に怪我がないか、魔法陣を用いて確認します。


「よかった。どこも損なわれていないね……」

「申し訳ありません。わたくしが迂闊でした」

「いや、君だけが悪いわけじゃなさそうだ。騎士団の敷地内にかけられた防衛の魔法陣は、シュナイザー百貨店が用意したものだということを忘れていたんだよ」


 その言葉にわたくしはパチリ、と目を瞬かせます。


「レナートが第一王子の手助けをしたということですか?」

「……彼にとってはどんな人間も自分の顧客だからね。贔屓にする人間はいても、自分の理になる場合を除いて平等性を失うことはないだろう」


 今回の誘拐は先生が助けられるレベルの粗末な計画ですし、シュナイザー百貨店が防衛の魔法陣に手を咥えたからといって、先生の怒りを買うような物ではありません。

 ……彼らはあくまでも注文を受けただけですから。


 きっとレナートはもう少し本腰を入れたわたくしの誘拐計画だったら、仕事を引き受けなかったでしょう。匙加減を間違えると、王族も先生もオルブライト家も敵に回しかねません。そんな難しい注文を、するりと危ない部分だけをかわして受注してしまったレナートに感嘆してしまいます。

 レナートは本当にかわいい顔をして抜け目がないのですね。その手腕にぞくりと背筋が震えます。


「先生、さっき王子には言いませんでしたけど……。どうやって王城に入ったんですか? 王城って、警備の関係で自前の転移陣が使えないでしょう? わたくしも自分の頭で頑張って考えてみたんですが、思いつかなくて……」

「リジェット、結構応用が苦手だよね。別に難しいことはしていないよ。リジェットがあわいを通じて、手紙の魔法陣をこっちに流してくれたから、送り返す魔法陣の方に、転移陣を設置しただけだよ。この王城には転移陣は設置できないけど、手紙は外部からの客である、リジェットの持ち物だからね」


 そういえば、先生、わたくしは王都に旅立つ見送りの時にお手紙の魔法陣から現れたことがありました。

 なるほど……。わたくしもそれに早く気づけていたら、王都からの距離などを考えずに、素早くこの王城から脱出できていたのですね。


「な、なるほど! そういう仕組みだったのですね!」

「もうほんと、迂闊なんだから。できれば僕、王城にはあんまり来たくないんだよね。一応お尋ね者扱いになっているから」

「ああ……。先生、現王への殺人未遂容疑がかかっているんでしたっけ……」


 わたくしは先生がしでかした事件を想像して遠い目をしてしまいます。


「あっちから手を出してきたのを退けただけだから、正当防衛なんだけどね。……君に怪我もなさそうだし、寮へ送るよ。多分、すぐまた連れ去られるけど」


 疲れ気味に待機をつきながら、先生は転移陣を紙に描きこみます。


「王位継承争いが落ち着けば、わたくしの身の保証も確保できるでしょうが……。続いている限り国内では、白纏の子であり、オルブライト家の子女として、様々な方から有用だと思われているわたくしも、尋ね者扱いですからね。お手数おかけして申し訳ありません」

「自分も弟子も尋ね者って……。僕たちなんなの?」

「似たもの同士ってことじゃないですか?」


 そう投げやりにいうと、先生は苦笑していました。


 その後、先生による魔法陣の補填が行われたのち、わたくしは騎士学校に帰ることになりました。

 先ほど騎士学校の学内で攫われてしまったので、このまま、寮に戻るのもどうなのかと先生と話し合いましたが、帰るほかありません。国内のどこにいても狙われるのですから、寮でもかわらないのではと言うことになったのです。


「ほら。心配だから、寮まで送るよ。離れないように、手を繋いでいて」

「あ、はい」


 ……手を繋ぐ。さっきもしたはずなのに、なんだかその行為が急に恥ずかしく感じてしまうのは何故でしょう。

 先生はわたくしのことを親戚の子供みたいに思っていますから、何にも考えずに手を差し伸べてきます。しかしわたくしは先生への気持ちは懸想ではないのか、と王子に指摘されたばかりです。


 それなのに手を繋ぐなんて! 手を……繋ぐなんて!


 変に意識してしまって、わたくしは全身に汗をかいてしまいます。

 絶対に今、顔が赤くなっているでしょう。


「? どうしたの? リジェット?」


 様子のおかしいわたくしを見て、先生は心配そうに顔を覗き込みます。


「わあ! 至近距離で見ないでください!」

「え? なんで?」


 先生は頭に疑問符を浮かべて首を傾げています。

 今、わたくしの感情がどうして泡立っているのか、一切わかっていないでしょうから。

 近くで見るとわかりますが、先生まつげが長くていらっしゃるのね……。ああ……、混乱してどうでもいいことを考えてしまいました。


 腹を括ったわたくしは先生に手を伸ばします。


 なんだか、アルフレッド様に先生への独占欲が懸想ではないかと指摘されてから、妙にソワソワしたり、心臓がバクバクしたり、緊張したり……もうなんだか死にそうなくらい恥ずかしいです!

 しかもさっき、アルフレッド様からスマートに助けてくれたあの感じ、なんだか物語のヒーローみたいじゃなかったですか⁉︎

 赤面し、あわあわとしていると先生が怪訝そうに眉を下げてこちらをみています。


「なんだか、リジェット様子が変だよ?」

「変……。変ですよね……。恋ではなく……」

「は?」


 目をぱっかりと見開いた先生。

 まずい! 頭の中で考えすぎてつい口に出てしまいました!


「ぎゃっ! わ、わ、わ! え、ええーっと! あの、アルフレッド王子にですねえ⁉︎ お前がクゥールに感じているそれは懸想だろう、と言われまして、あ、あはは!」


 ええ、そうです。これはアルフレッド王子の意見であって、わたくしの意見ではありません。アルフレッド王子の主観です! と誤魔化すように言葉を羅列します。

 しかし、焦るわたくしに対して、先生は憮然とした表情で言い放ちます。


「それは、懸想ではないよ」

「え?」


 懸想ではない? おや? 思ってもみない返しに頭が壊れかけの機械のようにフリーズします。


「それは、弟子としての独占欲であって、恋愛感情では決してない」

「先生は、あくまでもわたくしのこの感情の泡立ちは、恋愛感情から起因するものでは……ない……とおっしゃるのですか?」

「ない」

「何を根拠に?」

「確実な根拠はない」

「へ……?」

「でも、そうじゃないんだ」


 どうしてもその感情を否定したいらしい、先生は何度もない、ない、ないと繰り返しています。

 先生は今までにないくらい必死な顔をしていました。

 なぜ、そんなに否定するのでしょう……。でもそんなに否定されるということであればこれは恋愛感情ではないのかしら……。なんだか混乱してきてよくわからなくなってしました。


「とにかく、その感情は恋愛感情ではないの。弟子としての独占欲だよ。そうだ! そういえば魔術省の人間の中でも師匠を他の弟子に取られると、おんなじように発狂する人間がいる。きっとそれと同じだ」

「そ、そうなのですか……?」

「そうだよ。僕が君に間違えを教えたことが今までにあった?」

「それは……ないですけど……」


 ないですけど……でも……。わたくしは言い淀みながら、適切な言葉を探します。


「アルフレッド王子が、好意がなければ先生がその魔法陣を結ぶことを許すはずはないっておっしゃっていたのですが……。わたくしは何か先生に好意があると思われても仕方がない類の誓約の魔法陣でも結んでしまったのでしょうか。……先生何か知っています?」


 わたくしがそう尋ねると、先生は後ろめたそうに目を逸らします。何やら、どうしよう……この子は……阿保の子だから……と失礼な独り言を呟いています。


「何かご存知でしたら、素直に教えてください!」


 強めの口調で問い詰めると、やれやれと言った表情で、額を抑えた先生が重い口を開きました。


「ご存知も何も……。君さあ、人が寝込んでいるところを襲って自分で契約したよね?」

「へ?」


 ……覚えが全くないのですが。わたくし、何かとんでもないことをしでかしてしまったようです。


先生は今、意外と必死です。

次は木曜日に!

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