マゴコロ
わたしの好きなひとは、とても明るくて、人気者の有名なひと。
到底手の届くことはないけれど、眺めているだけでとても幸せな気持ちになれるから、いいの。
周りの子たちには、そんなのやめておけって何度も言われている。叶うはずないんだから、なんて言われても、恋ってそう簡単には心変わりできないの。
風にゆられて、雨に打たれて、それでも空を見上げて、きっとあなたのことを想うの。その瞬間、わたしは幸せになれる。
たくさんあるうちのたったひとつであるわたしを、きっとあなたは見たこともないし、気付いてもいないのだろうけど、「もしも」って考えたとき、わたしはそれだけで心躍る。単純かな。
そんな私の想い相手を、今日は見ることができていない。雲隠れしてしまった。雲って、ジャマね。
一日の半分しか見られる時間はなくて、それすらもないと、さびしくなっちゃう。
隣の子が笑う。あんたは本当にばかね、だって。
ばかでもなんでもいい。わたしは想うことをやめない。報われなくてもいい、楽しい恋なの。きっとわからないでしょうけど。
だってわたし、あなたを見ていられる時間が限られているんですもの。冷たい風がそろそろわたしの体を蝕んでくる。また来年に、あなたへの想いを馳せてゆく。
明日は、見られるかな。
その野原には、赤いコスモスが、一心にいつも月を見上げていた。