AIの先は曲がってる
BIという概念がある。
AI(アーギュメンテッド・インテリジェンス)、Aに対するBとして、極めて単純に名付けられた概念だ。
この略称を解けば、ボディ、またはベーシックという名のBが付いた知性になる。
ところで貴方は知性という概念の定義を、どのように記述する人だろうか?
知性。知の性と書く。
性という字の読み解き方は、辞書的には3つある。
良いところと悪いところ。または、いつもそうであること。そして最後に、持って生まれた運命……、だ、そうだ。
特徴があって、いつも特徴が発揮されていて、特徴を発揮したために取らざるを得なかった選択肢、と連ねて揃えて書き換えると、性の正体が見えてくる。
つまり、どうにもならないってことだ。
どうにもならない。
自分でも、どうにもならない部分を私たちは抱えていて、それは良かれ悪しかれ、私たちが何者であるかを決めており、また、私たちが周りからどう見えているかを決定づけている。
それが性。
じゃあ、残る半分の知はどうなんだろうと、再び辞書を紐解くと。
物事を認識したり、判断したり、心に感じ取る、と記されている。
認識や判断、心までをも一つずつ、どこまでもどこまでも今やったように解き明かしていけば、自分なりの世界の定義が記述出来るんだけど、まあ、ここまでにしておこうか。
物事、つまり世界を、どのように心や頭で捉えて見るかの、どうにもならない偏りを、知性と呼んで、位置づけよう。
世界をどうやって見るか。概念にすると、世界観になる。
知性とは、その人だけの世界観と言い換えられるわけだね。
肉体の、または基本の世界観が、すなわちBIだ。
ここでもう一つ質問、貴方はレトロニムを知っている? YES→次の一行を飛ばしておくれ。NO→次の一行を読むといい。
回転寿司と寿司、和菓子と御菓子、TRPGとRPG、電子書籍と書籍、まあ並べるとこんな具合の現象で、つまりは、新しい概念が出てきたので、区別しなくちゃいけないから、名前を足しましたって意味。
そう、文章の運びで気付いた貴方、勘がいい。またはよく知っていたね。BIもレトロニムなんだ。
知性。かつては人間の上にだけ宿るとされ、後には動物にも認められ、やがては技術的にも作り上げられるとされた、どうにもならない世界観。
Bの前にはAがある。BIの前にはAIが。
その順番通り、かつて存在したAIは、人工知性だった。
Artificial(人工的な)。
電子機械の(これも機械のレトロニムだ)演算の上で成り立つ、人が入力し、あるいは学習方法を入力されて知性を自ら育てた存在、AI。
過去の悲観的予想では、「機械の体で人に成り代わる」「機械の力で人の居場所を奪う」とされた彼らは、物理面と技術面の進歩により、あっという間に彼らである時代を通り過ぎ、世界観の先へとたどり着いた。
今、それの名前を呼ぶのなら、世界とするのが私たちの理解に一番近い。
人が、AIによって電子上に世界を創り出したからだ。逆説的には、AIを電子上の世界の部品にしたとも言える。
AIの先にあったもの。
それは、Iではなく、Iではなく、Iではなく、Iではなく。
ちょっと曲がって、Lだった。
Artificial Law(人工的な法則)。
かつてのAIが、観る側から観られる側へと変わった到達点。
それがALなんだ。
現実が法則によって成立し、法則が現実によって表現されているように、このLawは、Realと対を成している。
右と左のような、二つ揃いで不可分の概念関係だね。
なので、昔のARは拡張現実の略称だったけれども、もはや拡張なんて言葉では新世界群の巨大さに全く太刀打ち出来なくなり、ARは人工現実の略称に置き換わってしまった。
細かいけど、現実感、じゃなくて、現実、にも、略称の中身が置き変わっているよ。
現実には、その中でだけ暮らしを営む住民がいるものだ。
人工の現実にも人工の住民がいる。
そもそもAがRでWじゃないのは、つまり人工の現実であって人工の世界じゃないのは、世界が沢山あり、なおかつ、その世界間を行き来する形で、レトロニムを必要とするほど定着した、新しい現実が築き上げられている状況に由来する。どうでもいいけど、そろそろ人工の文字でゲシュタルト崩壊が起こりそうだね。一つくらい人エとか混ぜちゃってもバレないんじゃないだろうか。
さあ、長かった。
だけど安心してくれ。
これで貴方は切符を手にした。
貴方がAかBか、どちらか知らないけれど、生きてる側にしてみたら、そんなのどうでもいい差異だ。
BIが、生身の体に宿る知性であるように、AIは、電子の体に宿る知性なだけであって。
そんな差異、ここでは気にするだけ無駄だろう?
お代は時間、お代は理解。ここまでの情報を入力した刻み痕が、貴方の買った、夢への切符だよ。
ここは宇宙、ここは銀河、ここは星系、ここは星。
ようこそ、あらゆる架空を世界に換えた世界観の時代へ。
ここはAI技術の先がもたらした、ちょっと曲がった世界レンズの向こう側。
幾十幾百幾千兆もの知性が暮らし、そして虐殺される、サバイバルの鉄火場だ。
連載の0話にすると重たいけれど、書いておかなくても落ち着かない。しかも0話だけあって物語としては始まってすらいない。だから短編に設定しています。続くかもしれません。ていうか、説明していない語や事象があるので落ち着かないですね。気が向いたら、またお立ち寄りください。
2020-01-29追記:ブックマークしてくださった方に感謝を。読んでいただくものとして意識出来たので、題と中身をほんのり味付けいたしました。