表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/9

少年は笑う

【登場人物】

有栖院アリス:突如、不老不死世界にやってきた人間。勇者の称号を得た唯一の存在。セツナと村で暮らし、アバンの店で働く。


セツナ:アリスを慕う少女。栗色の髪が特徴で、隣国から逃げたらしい奴隷種。アリス曰く、頬に何かが埋め込まれてるらしい。


アバン:子供を男手一人で育てる獣人。アリスセツナの面倒を見る。奥さんに先立たれたらしい。



 ──ドサッ…。


 切断された腕が床に落ち、アリスはその腕を眺めながら高笑いをする。



「ははっ…あはは!」



「勇者様!」


「うるさいなああ!」


「ッ!」



 床に座り込むセツナを、アリスは睨むように見下ろした。



「二度と僕の前に立つな! 僕を庇うなど絶対に許さない!」


「勇者、様…」


「二度と! 二度と、僕の前からいなくならないでくれ」


「ッ…?」



 それは切実な少年の願い。

 それは少年にとって絶対の存在。



「話は終わりか? 勇者様ァ?」

「こーんな細い腕で勇者とかふざけるなっつうの!」



 ぐしゃり、と潰された右腕に、セツナからは小さな悲鳴が零れる。



「ただの勇者が偉そうに、俺様たちに逆らうからこうなるんだよ!」


「だよなあ?」


「王様に盾突くも同然だろ!」



 ゲラゲラと響く兵士たちの声に、アリスだけは不適に笑みを浮かべた。



 彼らの後ろで兵士の一人が動き、黒い武器を味方に向けるのが目に入る。そんな兵士と目が合い、アリスが左腕を横に伸ばすと、それに答えるように彼は動きを止める。



 そしてアリスの左手に無数の光が集まり形を成した。タブーとされてる武器が三日月も出ていない昼に形成されて、兵士の顔がみるみるうちに歪んでいく。



「な、んだと…!?」


「城に連絡だ! 違反行為を報告──ッグッワアアア!」



 それはたった一瞬のこと。

 力をくれた兵士の両足を容赦なく切断し、報告に向かおうとした兵士の首を黒い長剣で跳ねる。



「貴様! 違法行為の上、兵士に刃を向けるとはどういうことだ!」


「まさかの奴等の関係者か!?」


「なわけあるか! あいつらはこんなところに──」


「ごちゃごちゃうるさいよ」



 残りの兵士の首も容赦なく跳ね、両足を無くした兵士を除き、セツナとアバン以外の存在が息の根を止めた。


 兵士の残骸は光にならず、血なまぐさい匂いをまき散らした死体となる。


 不老不死世界のはずなのに、屍となった兵士はアリスと同じ人間ということを主張していた。


 長剣を持つ手を下ろし、真っ黒な剣を足を無くした兵士へと投げつける。



「これ、返すから」


「皆と同様に私の命は取らないのですか?」


「先にあいつら切ろうとしたの君じゃん。それに君だけは不老不死だろ」


「おやおや、ばれてましたか」



 へらへらとする糸目の兵士が、指先を剣に触れると光へとなり剣は消えた。



「勇者、様…?」


「アリス! 早く手当をしろ!」



 セツナとアバンが駆け寄ってくるが、それらを遮ってアリスは兵士へと問いかける。



「この世界には不老不死以外にもいんの?」


「ええ、いますよ」


「不老不死の世界なのに、なぜ死ぬ存在が?」



 糸目の男は笑みを深めて、太ももより先に手のひらを翳す。スライドされた手のひらから光があふれ、切られたはずの両足が姿を現した。



「それは貴方と同じ理由ですよ。有栖院アリス殿」



 同じ。それは何を意味するのか。


 そもそもこの世界はいったい何なのか。


 兵士は立ち上がり、アリスへと手を伸ばした。



「申し遅れました。私はアクアードと言います。王の遣いで勇者殿にお目にかかるために参りました」


「それであんな茶番を」


「いいえ。まさか奴等がこのような醜態を晒しているなど思いもしない。下品極まりないうえ、うっかり殺してしまうところでした」


「殺しちゃったけど」


「構いません。どちらにしろゴミ箱行きでしたから」



 アクアードと名乗る男は、アリスの背後の二人にも挨拶をする。



「アバンさん、セツナさん、大変申し訳ない。この店の修理は翌日、修理に参らせます」


「…いや、構わん。今後も贔屓に頼む」


「ええ、もちろんです」



 親し気に話す二人から視線をそらし、アリスはセツナを向いた。


 セツナは震えながら、アリスの腕を見つめていて苦しそうに唇を噛んでいる。



「アリス、今日はもう帰れ。明日また頼む」


「ああ、悪いな」


「謝ることはねえよ。お前のおかげで助かったんだ」



 アバンの言葉に甘え、アリスはセツナを連れて家に帰った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ