勇者は少年
≪登場人物≫
有栖院アリス:本作の主人公。現実世界では超が付くほどの名家出身で金持ちボンボン。ある日、突然に不老不死しかいない世界に召喚される。
武器:短剣 レベル:MAX(99999999)
この世界は誰もが不老不死。生まれた時からその姿を保ち、永遠に死ぬことのない生き物ばかり。だけど毎日のように戦争は起こる。殺し合いという名のくだらない戦争が。
不老不死と言えど、消えることはできるのが面白い設定だ。ただ一つ、身体の中のコアを壊せばそいつの存在は一瞬にして消える。
そしてその世界には唯一無二の『勇者』がいるらしい。だけどその勇者は唯一無二の不老不死ではない人間。さらに言うならこの世界の誰よりも『最強』。
今日も勇者は暴れまわる。
──ぐわあああああ。
──どやあああああ。
今日も勇者は短剣を振り下ろす。
──ぎゃあああああ。
──ぎええええええ。
今日も勇者は笑顔です。
「あれー? もう遊ぶの終わりー?」
三日月に座りながら勇者はおどけて笑う。右手にはぺろぺろキャンディー、左手には短剣が握られている。
足をぶらぶらと揺らしながら、星になってく生き物にため息をついていた。
この世界の生き物が消失するときに現れる星。なぜかこの世界では死ぬということではないらしく、星になる変わった世界。
今時、死んだ人が星になるなんて小学生でも信じない。
「あれ、言いすぎたかな。赤ん坊でも信じないよね」
クスクスと勇者は笑う。右目を赤く光らせてニヤリと口角をあげた。
勇者の背後に現れた影は容赦なく刃を振り下ろす。ギラリと光る銀色の剣に勇者の姿が写り込んだ。
空気を切り裂く音、目の前に飛び散る赤い色。
そしてその赤は重力に逆らって空へとあがっていく。
「僕を殺すなんて一生かかっても無理だよ。だって僕は──」
勇者は三日月から飛び降りるとさっきまでいた三日月へと目を向ける。
勇者を襲ってきた影は赤い光をまとって上へ上へとあがった。
それとは逆に勇者は下へ下へと落ちていく。
この世界に来て早10日。
不老不死を相手に、不老不死じゃない人間が最強の勇者になった件について。
しかも不老不死と言えど大したことない。
実年齢15歳。順風満帆に生きてきたが、困ったことに悩みもなければ不都合なこともない。人生なんてレールにそって歩いてけばいいと思うようになったのは10歳の頃。さらに言えば人生がゲームだと気づいたのは五歳の時。
今じゃ『勇者』だなんて呼ばれるこの僕こそ、有栖院 アリス。
異世界に来て多少はワクワクしたものの、大して現実と変わらない。
「もーっと楽しませてよ」
不老不死でさえ僕を楽しませれないのだろうか。
異世界でさえ僕に後悔させれないのだろうか。
そして勇者は今日も暴れる。
殺しに来る不老不死を消すために短剣をふるう。
大好きなぺろぺろキャンディーを片手に勇者は今日も笑顔です。