第9話 Mr.ゼロの再来?!
まどろむ意識の中、ルビネスは心地よい眠りの中にいた。無意識のうちに、しばらくこうしていたいなどど思いながら。
――ルビネス、緊急招集だ! すぐに時空マジデン管理局に来い!!
しかし、その願いははかなく崩れ去った。強烈なテレパシーの余韻が、キーンと頭の中で響く。ルビネスは頭を押さえ、よろよろと立ち上がった。もう少し寝かせてくれればいいのに、と思いながらも、ルビネスは髪を整え服装を整えた。そして、“跳躍”した。
ルビネスが時空マジデン管理局に着くと、何人かが円形の机に向かって座っていた。
「遅れたな、ルビネス。『すぐに来い』と言わなかったか?」
その中の一人が、ルビネスに話しかけた。ルビネスにテレパシーを送った張本人である。ルビネスは今だ痛みの残る頭を押さえていた。
「気持ちよく熟睡してるところを強烈なテレパシーでたたき起こしたからだろ?まったく、頭が割れるかと思ったぜ。」
身支度しなきゃならなかったしな、と付け加えた。しかし、座っていた別の人間が口を開く。
「わしらが片道22時間かけておぬしを訪ねるより、おぬしが一瞬でこちらに来る方が効率的じゃろう。」
その人間が笑ったのにつられて、他の者も笑い出した。ルビネスのように異世界間を移動する能力を持っているなら話は別だが、そうでない場合は亜空間専用バス、“イゲン”を使うしかない。乗車する際にはチケットが必要だし、何より移動に時間がかかってしまうのだ。
「分かってるよ。それより、用件は?」
緊急招集、というからには何か重大な用件があるのだろう。ルビネスが向き合うと、笑っていた者達も静かになった。
「用件というのはこれだ。」
そう言って、若そうなヒトが何枚もの紙がまとめられた物を手渡す。どさっ、という効果音が聞こえてきそうなほどの量だ。ルビネスはパラパラと書類に目を通す。様々な言語で書かれているところを見ると、いくつもの異世界からの物のようだ。
「…全て許可証じゃねーか。」
どれもこれも、マジックショットの改良研究を許諾してくれ、という内容であった。ルビネスが最初に開発した物なので、著作権やら特許やらが関わってくるかららしい。
「言わなかったか?おれの作った物の権利はあんたら管理局に任せるって。」
ルビネスは自分の研究を元にさらなる発展を望むのは自由だと考えている。よほど悪用でもされない限り。若いヒトは苦笑いを浮かべる。
「いや~ここまでたくさん許可証の依頼が来たのは初めてなので…。一応知らせたかったんですよ。」
「そう…か。」
ルビネスはものすごい勢いで全ての書類にサインした。その最中、一人が感嘆してつぶやく。
「それだけルビネスの開発品が優れているのさ。さすが、“Mr.ゼロの再来”と呼ばれるだけの事はある。」
他の者もそれに賛同し、うんうんと頷いている。天王寺マコトと肩を並べるほどの開発者。故人となったMr.ゼロが再び現れたような感じだったのだ。
「まったくだ。彼女のおかげで魔法少女の活動が飛躍的に向上している。」
別の人も、同じような感想を述べる。ルビネスは書類にサインし終わると、それを渡してから向き直った。
「その“Mr.ゼロ”ってのがどんな奴か知らないが、おれはおれでしかないんだ。比べられても困る。」
謙遜しているのではなく、本当にそう思っている。ルビネスのまっすぐな視線に、誰も何も言い返せなかった。
ルビネスは踵を返すと、元の世界へ“跳躍”した。