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狂気の魔導工学者  作者: 風白狼
魔導工学者ルビネス
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第10話 命狙われて

 別次元に“跳躍”し、ルビネスは目標物をとらえる。剣のような物を一振りすると、魔法の刃が放たれた。それは遠くにあった黒いもやを切り裂き、消滅させる。出来は上々。あとは、性能と実用性のデータを集めるだけだ。


 突然、背後から魔力でできた鎖が飛んできて、ルビネスの体を締め付けた。ルビネスはよける事もできたが、敢えてそうしなかった。

「あなたがルビネスね。それにしても、本当にマジデンを連れていないなんて…」

 声と共に、一人の退魔少女と彼女のマジデンが現れた。驚きと感嘆の入り混じった声だった。対するルビネスは、あまり表情を変えようとしない。

「へえ、おれを知っているのか。そんな奴に出会ったのは今日が初めてだぜ」

 魔法少女達の前に何度か現れたものの、名前や素性を明かした事は一度もない。どこから割り出したのか。ルビネスには、十分な驚きだった。確かに自分はマジデンを連れていないし、何かと印象に残りやすいかもしれないが。

「ええ。天王寺マコトのことを調べていたら、あなたの名前が出てきたの。あのよく分からない天王寺マコトに協力する物好きがいるなんて、正直驚いたわ」

 口元こそ笑ってはいたが、眼光や声色からは威圧感がにじみ出ている。こちらに有無を言わせる気は微塵もないのだろう。物好き、か。あながち間違いではないな。ルビネスは独りごちた。そんなルビネスを無視して、少女は話し続ける。

「あなた、彼女のお気に入りみたいね。魔武具やアイテムの開発で、多く貢献しているとか。私はあの人の野望を止めたいの。なにか、嫌な予感がする。あなたに直接の恨みがある訳じゃないけど、少しでも、若い芽を摘んでおきたい。…その前に、いくつか聞いておきたい事があるの。」

 そこで、少女は一旦話を切った。

「あなた、フルネームは? 名字くらい、あるんでしょ?」

「…ただの“ルビネス”さ。今はファミリーネームを持っていないんでね。」

 その答えに、少女は眉間にしわを寄せた。しかし仕方のない事なのだ、そういう文化なのだから。

 ルビネスの住んでいる世界では、子供が生まれると、その夫婦のファミリーネームを付ける。しかし、成人すると親と縁を切って独立する、という意味を込めて、ファミリーネームを失う。そして、結婚すると夫婦で新たなファミリーネームを決め、子供に付けるのだ。だから、成人未婚者であるルビネスは、ファミリーネームを持っていなかった。ちなみに、サファイも同様である。


「そう、じゃあいいわ。もう一つ聞きたい。あの天王寺マコトは何をしようとしているの?あなたなら、何か知っているんじゃない?」

 眉間にしわを寄せたまま、少女が尋ねる。ルビネスは縛られたまま、可笑しそうに笑った。

「あの方の目的…ね。さあな。おれに分かる訳無いだろ。」

「本当に何も知らないの? 隠していたら承知しないわよ。」

 冗談っぽく笑うルビネスの態度に、少女はすごんだ。だが、ルビネスは表情を崩そうとしない。

「ああ、知らないな。あの方が、膨大な量のマイナスエネルギーを集めて何かしようとしてるってことしか。…その先は憶測でしかないからな。」

「マイナスエネルギーを集める!?  そんな!天王寺マコトの言っている事は矛盾しているじゃない!」

「なんだ、知らなかったのか。そう、あの方はマイナスエネルギーを集めている。あんたも持っている、マジデンこと“EMトランサー”を使ってな。」

 表向きでは、天王寺マコトは『マイナスエネルギーの浄化』を謳っている。だが、事実はそれとは矛盾する、マイナスエネルギーの収集だった。このことを伝えたのは、この少女に味方したかったからではない。彼女の、いや、彼女のマジデンの反応が見たかったのだ。深刻な面持ちでこちらを見つめている様子からすれば、“彼”は独立マジデン、クリアのようだ。ルビネスの作った物ではなかったが、それは認識できた。

「ま、安心しな。あんたのマジデンはそれには加担してないから」

 分かったかのようなルビネスの発言に、少女は怪訝な顔をした。だが、すぐに険しい顔つきになる。

「貴重な情報ありがと。でも許して。私はあなたを倒さなくてはならないの」

 言うが早いか、退魔少女は攻撃魔法を放った。だが、光が包む直前に垣間見たルビネスの表情は、余裕の笑みだった。


 直後、少女の魔法はかき消された。それどころか、ルビネスを縛り付けていた鎖も霧散した。口の端をあげて笑うルビネスの表情が、いやに印象に残る。

(わり)ぃな。こんなとこでくたばってるわけにゃいかないんでね。」

「!! そんな…魔力を押さえる鎖が…割れた!?」

 少女は唖然とし、驚愕した。魔力を押さえ、魔法を使えなくする鎖だったのだが、所詮ルビネスには通用しなかった。ルビネスは白い光を反射する石を取り出した。

「おれもあんたにこれ以上かまっていられるほど、暇じゃない。」

 言うやいなや、手に持った石から眩い光が放たれた。目もくらむような激しい光が、辺り一面を包み込む。目を開けている事ができず、少女は思わず目をふさいだ。


 光が収まったあと、ルビネスの姿はどこにもなかった。

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