仮面
「あなたが喜ぶと思って」
そう、笑顔で箱のようなものの入った袋を渡してくる母親。私が袋から箱を出すのと同じタイミングで、あなたこれ好きでしょ、と付け足す。その箱に入っていたのは、少し前から飽きてきているアニメの可動式フィギュア。しかも私の好きだったキャラクターとは異なるキャラクターの、だ。
前に好きだったというだけで今は違うアニメが好きだし、今は既に飽きたアニメだ。そもそも私が好きなのはこのキャラクターとは違う。ああ、こんな物いらないのに。どうしよう。部屋に置いておこうにも、どうも邪魔だな。というか、今はこんなフィギュアよりもお金が欲しいな。今、とても金欠だから。お財布を見ても、お札は一枚も無いだろう。はぁ、本当にどうしたものか。友達に譲る……のは流石に。カプセルトイとは違って二百円、三百円の商品じゃないだろうし。売ってもいいけど、私の年齢じゃあ何を売るにしたって親の許可と同伴が必要だったはず。あぁもう、なんでこんな物、買ってきちゃうかなぁ。私だって そこまで子供じゃないんだから、もっと自分のためになる物が欲しい。
沈黙が続いて不思議に思ったのだろう。母は私の顔を覗く。
「あら、どうしたの?」
「……とても嬉しい! ありがとう!」
私は、わざとらしい笑顔の仮面を顔に付けた。わざとらしく、わざとらしい喜びを演じて。
どうせ未成年という身である私は、目の前の母親に口答えなんて出来やしない。ならば最初から私は、口答えも文句も言わない。この不満を飲み込む。飲み込んでは、壊れ気味の心に更にヒビを入れるのだ。